第7話★ ~はじめまして!〈健太編〉~

 青柳さんの目を大橋さんが見つめ返す。数秒経ってから、ふっと息を吐いて、今度は私の方を向いた。

「じゃあ、自己紹介します。えっと、大橋健太おおはしけんたです。康介と同じく、32歳で、会社員です。よろしくお願いします」

言い終わると、大橋さんは黙ってしまった。

「………」

「………」

私もどう話を振ればいいか分からず、黙ってしまう。今まで、何かしら突っ込みどころがあるような人たちだったから、こういう至って真面目そうな、ある意味「普通」な人は、逆に困ってしまう。そんな私たちを見かねたのか、美空ちゃんが声をあげた。

「唐突ですが、質問タ~イム!」

「え、どういうこと?」

薫さんが美空ちゃんに問いかける。

「いや~、健太も春香も話題に困っちゃったみたいだから、一問一答みたいな感じで、春香が質問して健太が答えるってやっていけばいいかな~と思って」

「なるほどね。いいんじゃない?」

美空ちゃんの提案に、青柳さんが乗ってきた。

「ということで、春香!何か健太に質問ある?」

美空ちゃんが私に振った。…突然質問しろと言われてもな~。何を聞けばいいのやら。

「えっと……じゃあ、とりあえず、お誕生日は?」

「…11月22日」

いい夫婦の日か。…でも、ここにこうやって住んでるんじゃ、独身だろうしな~。特に話を広げられない。

「じゃあ、血液型は?」

「A型です」

なるほど。やっぱり真面目そうな人って、A型なこと多いよね。

「春香が、『やっぱりな』って顔してる」

美空ちゃんに指摘された。

「うっ…」

「あ、図星?まあ、ああいうのは全員に当てはまるわけじゃないとはいえ、健太と薫はいかにもって感じだよね」

ニヤニヤしながら、美空ちゃんがこう言う。

「咲良さんはともかく、俺は別にそれらしい感じではないだろ」

と、大橋さんが反論する。…どうやら無自覚で真面目らしい。

「まあまあ。はい、次の質問は?」

青柳さんが話を戻す。

「あ、えっと…出身は?」

「埼玉県」

大橋さんは淡々と答える。

「埼玉…って、方言とかあるんですか?」

ふと疑問に思って尋ねてみる。

「うーん、どうなんでしょう?有るには有ると思いますけど、あんまり方言だと意識したことがないので……」

少し困ったように返された。

「そうなんですね」

「そういえば、春香ちゃんは?どこ出身なの?」

青柳さんが聞いてくる。

「私は千葉です。千葉も一応方言有りますけど、私も大橋さんと同じで、方言らしい方言って、あんまり思い付かないですね」

「そうなんだ。まあこのご時世、関東はそんなに話す言葉、東京と変わらないよね。…よし、じゃあ次いこうか」

青柳さんに促される。

「そうですね…じゃあ、彼女とか?いらっしゃるんですか?」

何気ない気持ちで聞いてみた。しかし、

「………」

大橋さんは、驚いたような困ったような、何とも言えない顔で、黙りこくってしまった。他の三人も、気まずそうな顔をして、何も話そうとはしない。…何かマズイことを聞いてしまっただろうか。

「すみません。困らせるようなつもりは無かったんですけど…、ホントに何の気なしに聞いてしまって…。あの、今のは忘れてください」

思わず謝る。すると、大橋さんはようやく口を開いた。

「あ、いえ…。こちらこそ、すみません。気にしないでください。えっと、彼女はいないです」

「そうですか…」

気まずい。凄く気まずい。そんな空気を吹き飛ばすように、青柳さんがこう切り出した。

「そろそろ自己紹介終わりにしよっか。みんなのこと、何となくわかったでしょ?細かいことは段々とでいいだろうし。春香ちゃんもそろそろ自分の部屋見てみたいんじゃない?」

「あっ…、そう、ですね。見てみたいです」

「じゃあ、私が案内しますね。こちらへどうぞ」

薫さんに促されて席を立つ。それに合わせて、他の人たちもそれぞれ席を立って、各自の部屋に向かう。

「じゃあ、また晩御飯の時に集合ね~」

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