第2話★ ~さくら荘へようこそ!~

 それからしばらくして、一軒の大きな家に車が停まった。

「じゃあ、分担して荷物降ろそうか。ああ、春香ちゃんはいいよ。俺らでやるから」

と言って、青柳さんが車を降りる。

「あ、はい。……えっと、ここがさくら荘、ですか?」

思ってたのとなんか違う。アパートって言われたから、まあいわゆる「アパート」と言われてほとんどの人が想像するような建物を考えてたのだが、目の前にあるのはただの一軒家だ。いや、「ただの」というか、どっちかというと豪邸の方が近い。敷地の入口から建物の玄関まで、なんか遠くないか。

「そうですけど…ああ、普通のアパートみたいな建物、想像してたんですか?」

と、大橋さんが尋ねてくる。

「ええ、まあ……」

「そういえば春香ちゃん、急だったから見学来てないもんね。一応アパートってことになってるけど、共通の玄関だし、食堂みたいなのもあるから、どっちかって言うとシェアハウスの方がイメージ近いかもね」

荷物を手に取りながら、青柳さんがそう言った。なるほどね。まあ、シェアハウスだとしても、デカイけど。

「とはいえ、プライベートの空間もちゃんとありますから、そこは心配しなくて大丈夫です」

と、同じく荷物を持ちながら、大橋さんが言う。……やっぱり、私と喋るときは、無口な雰囲気というか、人を寄せ付けない感じがする気がする。

「なんか、健太今日はよく喋るね。春香ちゃんのこと気に入ったの?」

青柳さんが、にやにやしながらからかうように言う。あ、これでも喋ってる方なんだ。

「別にそうじゃない。初めてで戸惑うこともあるだろうと思っただけだ」

ムッとした顔で大橋さんが答える。なんだかやけに不機嫌になったように感じる。そこまで気を悪くするようなことではなかったと思うけど…人によってそこら辺は感じ方が違うってことかな?

「ハハッ、わかってる、冗談だよ」

青柳さんは、車の荷台のドアを閉め、肩をすくめた。……今までと、少し声のトーンが違う。しかし、次の瞬間には、

「あ、春香ちゃん。コイツもしかしたら明日から喋らないかもだけど、そっちの方が通常運転だから、あんま気にしないでね」

と、今までの調子に戻っていた。

「はあ……。わかりました」

そんな私たちを呆れたような顔で見ながら、大橋さんが玄関へ向かって歩き出す。

「ほら、無駄話してないでさっさと入るぞ。冷凍物が溶ける」

「はいはい。じゃあ、行こっか」

と私に声をかけ、青柳さんも歩いていく。

「あ、はい」

二人の後を慌てて追いかける。そうか…今日からここに住むのか……。なんかまだ実感がない。まあ、これから毎日ここで過ごすわけだし、いずれ実感も湧くでしょ。

「それじゃあ、春香ちゃん。さくら荘へようこそ!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る