第15話 これは恋じゃない。

「天野さん、何だったって?」


入り口で待ってくれていたナギ。

私が横に並ぶと、足を合わせて歩き出した。


駅へと向かう。


お互いマネージャーから呼び出しを受けているので、これから一緒に事務所へ向かうことになっているのだ。


「あのこと……気付いてた」


星空めぐみの代役…のこと。

ナギには以前、全てを話した。


すると、彼は一瞬で理解したらしい。


「そりゃバレるわ。今日スタジオにいた役者、ほとんど気付いてたし」

「ええっ、そんなもんなの!?」


私は驚いた。

まさか、こんな早くに知られることになるとは思わなかったから。


「そりゃあの時結構、謎の声優って話題になってたしね」


ツイッターやまとめニュースサイトから過去の記事を持ってきて、見せてくれるナギ。

情報に疎い私は、全く知らなかった。


「でも、私収録のこと全然覚えてないし…」


あの時私に覆い被さった影。

気付けば収録は全て終わっていた。


「それ。星空めぐみの亡霊に取り憑かれたって、滑稽すぎ。びっくりした」


以前このことを初めて話した時、半信半疑で聞いていたナギだったけれど、暫くしてどこか腑に落ちたのか納得したらしい。


「分かるよ。あの音声にマキノの癖が何一つ出てなかったから」



改札を通り、電車を待つ。

初めて養成所の試験を受けにきたときの事を思い出していた。


あの時、道に迷ったナギが声をかけてきて、目的地が同じだったからと肩を並べて受けにいったんだ。


そういえばあの時、ナギは声優を目指した理由を言っていたような。

なんだっただろうか。


私は……


「私、天野さんずっと目標だったから。肩を並べて仕事が出来て良かった」


私が独り言のように言うと、ナギはニヤニヤしながらこちらを向いた。


「残念。あの人確か、婚約してたよ」


「ちょ、違うよ!そんなんじゃないし!」


とっさに顔が赤くなる。

違う、これは恋じゃないから。


それを面白がって、それを揶揄ってくるナギ。


「してた…って、なんで過去形?」


私はふと、疑問をぶつけてみた。

すると、興味なさそうに答えるナギ。


「相手、死んだから。一ヶ月前」


帰り際、私に声を掛けた彼はどこか寂しそうだった。

だから、どういう意図でそのことを聞いたのが、あの時は分からなかったのだ。


「え…それって」


頭に過ぎる、一ヶ月前のニュース。

自分とはなんの関係も無いと、そう思っていたのに。


「そう。『星空めぐみ』だよ」



どうしていつも、この事件が私に絡んでくるのだろう……。

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