第14話 平穏、そして始まり

天野さんのアドバイスのおかげで、以降は幸いリテイクも出ず、収録は終盤へ。


「フィア!追っ手がもう来てる!早く城を逃げるぞ!」


画面には、線画(色の付いていないアニメの下絵)のシーンがぱっと変わった。

そこには、王宮の周りを取り囲む敵国の騎兵隊が描かれている。


そして、視点は……王宮へ。


「嫌だ!中にはまだ……!私だけ逃げるなんてできない!」


王の間の地下には、脱出ルートがある。

そこに王子を連れ込もうとする親友リーシャ。


「この分からず屋!!」


無理矢理リーシャに引っ張られて、王宮を後にする王子フィア。


私はこの時、フィアの気持ちが痛いほど分かった。


もう……。二度と、家族に会えないのだから。


自身の経験と重ねて。


地下通路の中、フィアは一つの決心を告白する。


「私は、必ず父の仇を取る」


そして、リーシャは王子に一生の忠誠を誓う。


「最後まで、お供しますよ」



画面がフリーズして、直ぐまた画面が消えた。


それを見て、安心したのか私の身体の感覚が徐々に戻ってくる。

ちゃんと、元の世界に戻ってきた。そんな感じ。




その日は無事、収録が終わった。

私は少ない荷物を手に、スタジオを出る。


と、そんな時、耳元で微かに誰かが囁いた。




「君が『星空めぐみ』をやったんだね」



何か思い詰めた声。


私は言葉に詰まった。


その反応を見て、彼は、全てを察したようだった。




私は、声の主____天野 空に、正体がばれてしまった。


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