第13話 台本解釈、再考

「大丈夫。新人のうちは、失敗して学ぶのが仕事だからね」


天野さんが隣に座る。

そして私の悩みをじっと聴いてくれた。


「私、監督の解釈と違ってたみたいで…」


「それは俺も良くあるよ。実際アニメとして動き出したら、イメージが違うって感じる人も多いしね」


その言葉だけで、心がすっと軽くなる気がした。

私が思っていた事を、言わなくても理解してくれていたことに。


台本を出して、天野さんと解釈の照らし合わしをする。


「冒頭なんですけど……。私、主人公はもっと人間らしい欲を持ってると思ったんですよね」


砂漠の帝国に、何不自由のない第3王子として生まれたフィア。

王宮にいる時は、人に優しく、そして誰からも愛される、王子だった。


しかし彼は後々、国を追われて、人を殺し、盗みを働く。


「彼は盗みを働く前に葛藤をしてたでしょ? 国を滅ぼされて生き延びる為に性格が変わってしまった……と解釈も出来るよね」


天野さんは、的確なアドバイスをくれた。


「心情の変化には、必ずきっかけがあるもんなんだよ」


つまり、王子だった頃は、フィアは純粋だったと。

そして、国を追われた事がきっかけで、少しずつ醜くなっていく…と。



「確かに、それだと辻褄が合います。私、本当にバカだ……」


恥ずかしくなる。

そこまで読み込めなかった自分に。


まだまだ全然、私は未熟じゃないか。



でもこれでやっと、マイク前で自信を持てる。



「さ、行こっか」



その日私は、天野さんに心から感謝した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る