第12話 練習と本番

序盤からリテイク(取り直し)を何度か食らった私。


他のキャストさんからの視線が痛い。

正直キツかった。


そりゃそうだ。

うまくいけば3時間で済むものを、私がいるから時間が伸びていく。

このスタジオだって、抑えてある時間は限られてある。


タイムリミットは5時間しかないんだから。


うまくいかないというのは予想していたけれど、ここまでいくとメンタルに来る。

焦って来たら、それが演技に出てしまい……。


負のスパイラルに陥っている。


今まではマイクに後ろに客なんていなかった。

お金は貰うより払う側だったし、ミスだって何度も出来た。


なのに今は、この台本の重さが違う。


自分の責任が自覚されると、足が震えた。



セリフや滑舌は大丈夫なんだ。

そんなのは、養成所にいた時完璧に仕上げた。


あの時とは、何が違うのか。

それは、演技に答えがないこと。



だからこそ……



監督の指示が絶対。



私の解釈と監督の解釈が違えば、直ぐに修正しなければいけない。

それがまだ…出来ない。


自分の意見を通そうとしてしまうのだ。


何故?どうして?理由は?

その疑問が頭の中を渦巻く。



そんな中でも指示通りに演じきるナギが、正直分からなかった。



10分の休憩が入る。



心のない一声が、私の耳をかすめた。


「貴女、養成所で何を習ってきたの? これだから新人は嫌いなのよ」


ベテラン声優の女性が、私を叱責する。

私は何も言い返せなかった。


その通りだから。


私はメイン役抜擢という事実に浮かれて、その先の事を考えていなかった。






そんな時、後ろからふとフォローを入れてくれた人がいた。



「先輩、言い過ぎですよ」



そっと顔を上げると、そこには、兼ねてから憧れていた声優、





____天野 空がいた。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る