第11話 ずっと憧れだった

アフレコ『砂漠のオアシス』初日。

午前9:00に集まって、キャスト挨拶から始まる。


そんな中、私とナギはベテラン声優の中にぽつんといる為、緊張の連続が続いていた。



「劇団アミューズメント所属、天野空です。よろしくお願いします」



彼と目が合って、ビクッとした。

私は一度彼と共演した事がある。


と言っても。

匿名だったし、一方的に知っているだけなので相手には分からないだろうが。


それでも、初めは少しヒヤヒヤした。



今人気絶頂期の人気声優、天野空。


彼が演じるキャラクターは、何故か全て人気が出る。

天野空が吹き込む役には、魂が宿る…と言われているから。


私が役者の中で一番尊敬する人物が彼。

そんな彼を目指して、私はこれまで努力を続けた。


けれど、確かに。

一ヶ月前のアフレコ現場で、私は足がすくんでしまった。


『格が違うんだよ』


と、言われてるようで。


あの時は、彼の演技に呑まれそうだった……。




だけど、今日はナギがいる。


大丈夫。


彼と一緒なら、なんだって出来る。


ナチュラルに、役に入っていける。




最後に音響監督から、挨拶があった。


「音響の小林多喜二です。僕は縁の下の力持ちなので、皆さんの声を精一杯フォローしますからね。今期も頑張りましょう」



小林さん。

彼は以前一緒に仕事をしたことがある。


私が目を丸くしていると、彼がにこっと笑った。



「牧野さん、ベテランに揉まれて頑張るんだよ!」



もしかしたら、このキャスティングを考えたのは彼の陰謀なのではないか…と密かに思った。


後々知ることになるのだが、それはあながち間違ってはいなかった。

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