第10話 嘘だったのに
事務所に台本を取りに行った帰り。
たまたまナギに出会ったので、そのまま彼の家で掛け合いの練習をすることになった。
台本を手に、ついにこの時が来たか…!としみじみ感じる。
「結構思うんだけど。その役ってさ、マキノ適役だよね」
『砂漠のオアシス』は私が演じる主人公は国の第3王子 フィア(男)。
ちなみに、親友のリーシャはキャラバン(商人)の1人息子。
舞台は2人の住む国が、敵国に攻められるところから始まる。
他の王子は皆惨殺され、命からがら親友リーシャの助けで逃げ延びたのはフィアだけとなる。
その後、王子フィアが国を取り戻す為に立ち上がる話。
「え…どの辺が?」
確かに、役を掴む上でキャラクターと自分との適合性を見極めることは重要となってくる。
その違いが大きければ大きいほど、役者はそれほどの嘘を演じなければならないのだから。
「気持ちを正直に口に出すとことか……」
あ…確かに。
嬉しい時は、嬉しい。悲しい時は悲しいって言うかな…。
でも。
「あと愛されキャラ」
「え、それはナギでしょ」
それは本心。
多分これから先、彼の知名度は右肩上がりで伸びるはず。
あざとく見えて、本当に性格もいい。
周りからの印象は良いはずだ。
だから私は、正直不安だった。
自分が置いていかれるのでは無いか、と。
もう、手の届かない人になってしまうのではないか、と。
「バカ、僕は狙ってやってんの。マキノのは天然なんだよ」
ケラケラと笑う彼。
「それに、嘘が下手なトコ」
いつもとは違う、真面目なトーン。
私はその声色に少し焦る。
空気が変な方へと流れる。
「ね。マキノはこのアフレコが初めてって言ったよね?」
「……うん」
どきりとした。
もしかして、彼にはもう勘付かれているのだろうか。
いや、言おう。
自分の口から。
「ごめん!本当は誰にも言わないつもりだったんだけど…」
私が口を開くと、黙って座り込むナギ。
「一ヶ月前…養成所で音響監督に呼び出しを受けたとき、星空めぐみの代役を頼まれたの」
私は、あの時のことを全て話した。
役を断りきれなかったこと。
世間の目を気にして、名前を匿名にしてもらった事。
「バレバレ!声聞いた瞬間分かったし!どんだけ一緒に掛け合いしたと思ってんの!」
やっぱり、彼に隠し事はできないらしい。
「ごめん…」
私が謝ると、彼は言葉を慌てて取り繕った。
「違くて。その…悩み事あったらさ、何でも話して欲しかったんだよね。あの時、思い詰めてるみたいだったから」
ナギはちゃんと私のことを見てくれていた。
なのに、何も話さなかった自分が恥ずかしい。
彼はこの業界で唯一心を許せる友達だったのに。
『どんなことでも、相談乗るから』
その言葉は私を救ってくれた。
そして、その言葉が後々どれだけ君を傷付けることになるか、私は知らなかった。
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