第9話 配役、結果
3日後。
バイト帰りにケータイの履歴を確認すると、マネージャーから一通きていた。
多分、オーディションの結果が出たんだ。
私は早速、電話を掛け直す。
「もしもし、牧野です」
心臓が耳の横にあるくらい、五月蝿い。
暫く与太話をしたが、ずっと集中出来なかった。
と、マネージャーの合図で本題へと移る。
「牧野さん、申し上げにくいのですが……結果は、不採用でした」
どうも、思っていた以上にダメージは大きかった。
オーディションに落ちるということは、自分を否定された気持ちになる。
そもそも、この業界は特に、門が狭い。
まず養成所に入る為に選ばれなければいけない。
そして、事務所から選ばれ…
最後は、役を掴む為に、監督から選ばれなければならないのだ。
世知辛いなあ。
ケータイ片手にぼうっと天井を眺めていると、「ですが…」とマネージャーが続けた。それも少し嬉しそうに。
「その次の日の午後に受けたオーディション、覚えていますか?」
「『砂漠のオアシス』ですか?」
はい、と頷くマネージャーさん。
それがどうしたのだろう。
「なんと…!その主人公に、繰り上げ採用でしたよ!」
一瞬、言葉を理解出来なかった。
採用されたんだ。
はっきり覚えてる。
『砂漠のオアシス』は、主人公の敵役(準メインキャラ)でオーディションに行った。
「めっちゃくちゃ嬉しいです!!」
それからは、感激の言葉をアホなくらい並べた気がする。
高ぶった気持ちが落ち着くまで、マネージャーさんは辛抱強く話を聞いてくれた。
「台本が事務所に届いているので、時間がある時に取りに来てくださいね」
そう言い残して、マネージャーさんは電話を切った。
それでもまだ余韻が残る。
早く、ナギに言いたい。
電話をかけようとしたとき、ふと呼び出し音が鳴った。
こんな時に、誰だ。
私はパッと電話を受けると、通話口から興奮した声が聴こえてきた。
「僕!僕だよ!!僕!」
ふふっと笑みが零れる。
どうやら、彼も同じことを考えていたらしい。
私は少しだけ冷静に戻って、その滑稽さにツッコム。
「オレオレ詐偽なら間に合ってますんで」
「違うよ!バカ!」
ああ、良かった。
どうやら、声優になっても私たちの関係は変わらないみたいだ。
「で、どしたの」
私が聞く。
「採用!僕も!砂漠のオアシス!」
ナギが答える。
それも、ブツ切りの単語で。
「え、嘘…ホント?!」
「ホントだよ!しかも、マキノの親友!」
2人揃って、はしゃぐ。
嬉しかった。こんな奇跡、ありえない。
新人で、それもメイン2枠を占領なんて。
でも…本当に奇跡なのだろうか。
その答えは、アフレコ現場で分かることになる。
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