第18話ある日の‘ふうじい’と‘カイム’さんの話
今宵は満月。
フクロウだった昔を思い、わしは月を見上げておった。
一刷けの雲が月に架かった。
明日、 ‘カイム’さんのところへ行ってみようと思った。
丸いたっぷりとした尻尾に絵具をつけて、カイムさんは絵を描いておった。
「カイムさん、こんにちは。」
わしは飛び散る絵具をかいくぐりながら彼女に挨拶をした。
「あら、ふうじいさん、来てらっしゃったの。お久しぶりですね。」
わしの挨拶に振り返った瞬間、丸い尻尾から飛び出した絵具がわしの頭のフクロウの目にくっついた。
目に星ができ、わしのフクロウが青春でうるうると輝いておるようじゃった。
なんとなくわしも若返ったようで、声がひるがえってしもうた。
「ほょ~、大きなキャンバスですな~、カイムさん」
「昨日の夜、満月だったでしょ。そうしたらいろんな思いがあふれてきちゃって、このぐらいないと描ききれないと思って。」
カイムさんは描き続けながら話します。
「わたし、向こうにいた時よく月を見上げていたの。そのたびに月の中にいろんなことを思い描いていた。わたしのそんな思いを月は静かに受け取ってくれたわ。特に満月はやさしく、あったかかったな。だから昨日の満月がうれしくて。」
カイムさんは大きなキャンバスに体を躍らせながら描いておった。
しかしわしには彼女の絵が見えんかった。
塞いだ目を丸くこじ開けてみたんじゃが、さっぱり見えんのじゃ。
たっぷりとした尻尾に絵具をつけている時にはその色が見えるのじゃが、キャンバスに尻尾がついた瞬間に色が消えてしまう。
わしはその不思議を彼女に聞いた。
「カイムさん、正直わしにはあんたの絵が見えんのじゃが、これはどういうことかな?」
彼女は休むことなく描きながら小さく笑った。
「この絵具は特殊なの。この中に月の粉が入っているんです。だから、白いキャンバスの上では見えないの。夜になって、月が昇るとようやく見えるのよ。」
わしは空を見上げて言った。
「カイムさん、月の夜にあらためて伺ってもよろしいかな?」
「今度の満月の夜に来てくださいな。お待ちしてますわ、ふうじいさん」
わしは次の満月を楽しみに、彼女の家を後にした。
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