第14話「土のつくりべ」(グラッドさん)の物語

ドッスン、グッチョ、ドッスン、グッチュ、周りの土を掘り起こし、盛り上がった土に水をかけ、一心にこねているのが「土のつくりべ」、グラッドさんです。

こねた土を集め、その山に乗っかって、足踏みしながら更に土をこねています。

そして程よいかげんになったところで体を丸め、大きく飛び上がると、ドスンと土の山に落ちました。

栗のように丸く尖った体を土の上で転がしながら何か言っています。

「この土は温かい、この水も温かい、ボクの針で二つを一緒にすると、きっと素敵なものになる」


グラッドさんは自分でこねた土を使っていろんなものを作っています。

背中の針で仕上げた土は特別です。その土で作られる作品は、とっても温かく柔らかです。

それは形だけでなく、触れた感覚で伝わります。


この島に来る前、グラッドさんはヒトでした。もちろんあちらの世界では今でもヒトとして暮らしています。

仕事は建築家。たくさんの家を設計して建てています。

この仕事をする前は陶芸家を目指していました。

いろんな土を探して世界中を歩き、奔放に作品を作っていました。

自分の作品を気に入った人がいればプレゼントし、それぞれの場所に合った作品と思えばそこに置いてきました。

ですから、グラッドさんにはお金がありませんでした。

やがてグラッドさんにも好きな人ができ、なんとか結婚することができました。

でも、陶芸では食べられません・・・。 

そうして、建築家になりました。

ものを作るということでは建築家も陶芸家も変わりません。

グラッドさんは自分に言い聞かせながら家族のために頑張りました。

ある冬の夜、以前自分が設計して建てた家の前を通ることになりました。

立ち止まり、その家を見ていると窓に置かれた一つの陶器に気づきました。

それは陶芸家を目指いていたころのグラッドさんの作品で、新築のお祝いにプレゼントしたものでした。

懐かしくてしばらく見つめていると、温かな明かりを受けてその陶器がぼんやりとふくらんで見えてきました。

陶器が投影機となってぼんやりとふくらんだ影に何やら映像が浮かんできました。

それはこの家に住む家族の暮らしでした。

家が完成して喜ぶ家族、ランドセルを背負って飛び跳ねる子供、孫の成長を微笑む両親。

それは優しい光景でした。

やがて、おばあさんの入院、お父さんの転勤、おじいさんの死。

それは悲しい光景でした。

その光景がグラッドさんの暮らしと重なり、うっすらと涙を流しました。

目の周りににじんだ涙で陶器の周りの影が更にふくらみ、家全体を飲み込んでしまいました。


ふくらんだ影の中にある陶器から何かが聞こえてきました。

あかちゃんの泣き声です。そして家族の笑い声が泣き声と重なります。

渦のような幸福感がグラッドさんを包みました。

悲しい涙が喜びの涙に変わり、ぬくもりが体にあふれてきました。

その時でした。

陶器の中から透き通った葉っぱのようなものがほのかに輝きながら現れました。

グラッドさんはその葉っぱを見つめました。

葉っぱはグラッドさんを誘うようにして宙に浮かび、しばらくすると夜の空に消えて行きました。

グラッドさんはその葉っぱを追いかけようと一心に手を伸ばしました。

すると何かが体から抜け出し、葉っぱを追いかけて飛んで行きました。


その日からグラッドさんはこの島に住むようになりました。

そして大好きな土でものづくりを楽しんでいます。

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