第10話「紙のつくりべ」(カイさん)の物語
短い脚を器用に使って紙を折っています。
折った紙を組み合わせ、形を作ります。
細かな細工は頭の先端にある角で施します。
小さな目で慎重に仕上がりを確認しながらものづくりをしているカイさんは、‘紙のつくりべ’です。
メガネを外し、小さな目をしょぼつかせながら男性が体を大きく伸ばしています。
朝から夜遅くまでパソコンを使っていたので目も体もクタクタです。
それでも明日までに仕上げなければいけないので休むことはできません。
彼は再びメガネをかけてパソコンに向かいます。
パソコンの中には数字や文字やグラフがギッシリと詰まっています。
新しいプロジェクトの企画を明日の会議で発表するため、彼はその資料を徹夜で作っているのです。
男性は新しい事業を立ち上げるプロジェクトチームのチーフです。
今までに様々な事業を立ち上げてきました。
もちろんすべての事業が成功したわけではありません。
それでも仲間と考えた事業が動き始めた時、不安はありながらも充実した気持ちを味わうことができました。
空が白み始めた頃、ようやく資料が出来上がりました。
同じ姿勢で長い時間を過ごしたため、彼の体は鎧をつけたように硬くなっていました。
こんな時、体を休めるためにいつもすることがありました。
それは紙を折ることです。
強張った頭と体をほぐすため、彼は折り紙でいろんな形を作りました。
無心に折ると頭の中が空っぽになって疲れが和らぎました。
重くなった体も軽くなり気持ちが上向きました。
また新しいプロジェクトが始まりました。
彼はチームの先頭に立ってプランを練り込みます。
社内での企画発表が明日に迫った夜、彼は悩んでいました。
どうしてもプランを絞ることができません。
パソコンの前に座ったまま、彼は何もできないでただ画面を見ているだけでした。
彼の体は徐々にかたまり、全身が鎧で覆われて行きました。
操作をしなくなったパソコンの画面が切り替わりました。
彼は、自分で作った折り紙の作品を画像にしてスクリーンセーバーとして取り込んでいます。
いくつもの作品が画面として流れます。
彼は身動きの取れなくなった体でその画面を呆然と見ていました。
映し出されていた画像がフッと消え、次の画面が現れます。
蛍の光のように、彼の作品が光を帯びて明滅します。
彼の体もパソコン画面に映り込み、作品とともに明滅しています。
作品と自信の姿が重なり、繰り返される画面の切り替えを見ているうちに眠くなってきました。
眠くてぼやけた視界に、一つの画像が浮かび出てきました。
彼が作った花の作品から種が飛び出した画像です。
ぼんやりみていると、やがて種が弾け双葉に育ちました。
双葉は画像を離れ、中空を漂いました。
その双葉を目で追いながら、彼は鎧の体とともに眠りに沈んで行きました。
陽の温もりを体に感じ、彼は目を覚ましました。
辺りを見回し自分の体を見ると、疲れで重く鎧を帯びていた体を本物の鎧が覆っていました。
そして、小さな目の前には尖った角が生えていました。
彼は、体を動かしてみました。
重々しい鎧で覆われているはずなのにとても軽やかでした。
こうしてカイさんはこの島にやって来ました。
得意な紙を使ったものを作り、伸びやかに暮らしています。
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