第7話「ガラスのつくりべ」(ガットさん)の物語

透き通った体の中がほのかに明るくなり、指先から細い光が伸びて行きます。

光は洞窟の壁に当たり、何かを彫り始めました。

洞窟の壁はガラス質の石でできています。

体の明かりが透明な壁を照らし、彫られた模様があやしく輝きました。


ガットさんは洞窟に来て、模様を壁に刻んだり、切り出した石をさまざまな形にして暮らしています。

彼の体は透明ですが、作品を作る時にはほのかに輝きます。

その光が指先からの細い線となり、ガラスの石を彫り出します。

宙を飛ぶことができるので、大きな模様を描くことも自在です。


ガットさんは、氷彫刻が上手な料理人でした。

毎年行われる氷彫刻の大会には必ず参加して、多くの賞を手にしてきました。

彫りあげる題材にはあまり悩みませんでしたが、参加を重ねるにつれ何か物足りないものを感じ始めていました。

今回の題材は決まっています。

巨木の上で鋭く獲物をにらみ、今まさに飛び立とうとしている鷲。

彼は大きな氷の塊を荒々しく一気に刻みました。

荒削りの躍動感に富んだ彫刻が仕上がり、太陽がその雄姿を輝かせています。


太陽の光に照らされた作品は、時間がたつにつれその姿を変えて行きます。

鋭かった姿に丸みが帯び、厳しさが影をひそめます。

理想の形は長くは続きません。

氷の輝きとはかなさを彼は好んでいました。

それは彼が作る料理にも通じ、氷彫刻は生きがいでもありました。

しかし近頃、思いを込めて作る作品が、はかなく消えることに寂しさを感じていました。


ぼんやりと作品を見つめる目に何かが映りました。

氷を伝う水を透かし、静かに光が揺れています。

反射する陽の光だと思いましたが、その光は氷の中で輝いていました。

彼は近づき、両手でその氷を包みました。

冷たさの中にもかすかな温もりが伝わってきます。

目を閉じ、彼はその温もりを追いました。

体の重さが消え、いつしか彼は温もりの中に入ってしまいました。

やがて氷は溶け、温もりは空に上って行きます。

ゆるやかな丸い形を帯びた温もりが、空中で二つに開き、双葉にその姿を変えました。

双葉の体に流れる水の音を聞きながら、彼は深い眠りにつきました。


水滴が石に弾ける音で彼は目を覚ましました。

真っ暗な空間に空いた小さな穴から一筋の光が降りています。

彼は立ち上がり歩こうとしました。

すると体は自然と浮き上がり、ゆっくり動き始めました。

彼の移動する周りがほのかに明るく輝きます。

手を伸ばした指先に思いをこめてみました。

細い光が暗闇にまっすぐと伸び、やがて止まりました。

遮った壁に光が広がり、透明な輝きをにじませました。


ガットさんはこの島に来て、洞窟の石を使って作品を作るようになりました。

陽の光に溶けることのない透明な素材を使い、思いのこもったものづくりをしています。

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