第5話「絵のつくりべ」(カイムさん)の物語
小高い丘の切り株に座って満月を見つめる一匹の狸がいます。
大きな丸いシッポを垂らし物悲しそうに月を見つめています。
狸は月に兄弟たちとはしゃぎまわる光景を浮かべていました。
親の周りを駆け回り、飛び跳ねながら互いにもつれ合っています。
その中の一匹が大きくジャンプすると、月の中から飛び出してしまいました。
それは、月を見上げている自分自身でした。
狸は涙をにじませました。
いつの間にか狸は親兄弟たちと離れてしまったのです。
狸は何日も親兄弟を探して山をさまよいましたが、見つかりませんでした。
寂しさと心細さを慰めるため、狸は毎日この丘の切り株に座り、空を見上げました。
ある夜、いつものように丘にやってくると、一匹の雄狸が切り株に座っていました。
彼女は用心深く切り株に近づきました。
雄狸は彼女が近寄ってくることに気づかないままジッと空を見つめています。
そんな彼の目にうっすらと涙が浮かびました。
彼女は一瞬立ち止まりましたが、再びゆっくりと切り株に歩み寄って行きました。
雄狸がその気配に気づき彼女を見つめます。
彼女と雄狸の目が合い、お互いを見つめたまま動けません。
満月に雲がかかり辺りが少し陰った時、彼女は歩き始めました。
やがて切り株にたどり着くと、彼の目を見つめたまま座り込みました。
雄の狸と雌の狸は切り株に座り、雲が晴れた満月を静かに見上げました。
二匹の狸は結婚し、子供を儲けました。
狸の一家は仲良く毎日を過ごしました。
子供たちも大きくなりそれぞれが遠くまで冒険するようになっていました。
いつものように夫婦は子供たちの帰りを待っていました。
3匹のうち2匹は帰って来ましたが残りの一匹が帰って来ません。
心配になって一家は辺りを探しましたが、見つかりませんでした。
何日もいなくなった子供を一家は探しました。
ある日彼女は彼と知り合った小高い丘に行きました。
そして、以前のように切り株に座り満月を見上げました。
彼女は願います。
「子供が無事に帰ってきますように」
満月に彼女は元気な子供の姿を思い描きます。
月に雲がかかり、辺りが少し陰った時、うっすらと涙ににじむ彼女の瞳の向こうに小さな狸の姿が浮かびました。
ぼんやりと見えていた姿が徐々にはっきりとしてきます。
歓喜した顔が目の前に現れ、彼女の瞳は涙で溢れました。
子供の温もりが彼女の体と心を満たします。
彼女はうれしさで気が遠くなりました。
薄れゆく意識の中、溢れる涙に輝く月の光の中から何かが浮かんでくるのが見えました。
それは、月の光で黄金に輝く双葉でした。
双葉は夜の空を輝きながら上って行きます。
彼女はその双葉を目で追いました。
回転しながら空を舞う双葉と満月が重なった時、彼女は意識を失ってしまいました。
涼しい夜風が彼女をなぜています。
煌々と輝く満月の光で彼女は目覚めました。
丸い大きなシッポを垂らし、彼女は満月を見上げます。
そしてシッポを満月に向けて一振りしました。
彼女の思いが鮮やかに月に描かれました。
彼女は‘絵のつくりべ’としてこの島で夢見ています。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます