第4話「ニョロんぱ」の物語

今日は雨。

敷き詰められた葉っぱに雨が降り注ぎ、島中が雨音で包まれる。

葉っぱに落ちた雨が弾かれ空に舞い、曇った光ににじみこむ。

バネのように踊る葉っぱと飛び跳ねる雨の協演が、チョッピリ暗い島の一日を明るく軽やかにしてくれています。


葉っぱに落ちた雨が弾けるその瞬間、水泡の中から何かがニョロッと現れました。

透明の体が空と重なり、かすかな光に輝いています。

そして小さな口が開いた瞬間、その体は弾けます。

葉っぱに雨が落ち、落ちた雨が弾けるたびに現れては消えるこの不思議なもの、これは雨音の精、‘ニョロんぱ’です。

‘ニョロんぱ’は、この島の母‘母葉<BOYÖ>’が感じるいろんな思いを歌にします。

葉っぱに雨が落ちた時、葉っぱの中から現れて弾ける雨と一緒に歌います。

一滴の雨が弾け一つの音になり、その音が重なり大きな広がりとなる。

島全体に育った葉っぱから雨とともに現れ、雨と一緒に歌う、‘ニョロんぱ’は雨の日だけの歌姫です。


やがて雨がやみ、空に陽がさすとこの島に大きな虹がかかります。

島全体に広がった葉っぱには、上がった雨のしずくが残り、陽の光に輝きます。

葉っぱの上で丸く輝く水滴から ‘ニョロんぱ’が一斉に現れました。

陽に温められた水滴が徐々に消え、‘ニョロんぱ’だけが葉っぱに立っています。

かすかに風が起こり、葉っぱがそよぎ始めました。

風と葉っぱのそよぎに、‘ニョロんぱ’はゆっくりと空に昇ります。

透明の体に光を染めながら‘ニョロんぱ’は虹に向かって飛んで行きました。


島に架かった大きな虹に‘ニョロんぱ’が集まります。

集まった‘ニョロんぱ’はそれぞれにくっつき一つの大きな泡になりました。

陽の光と虹の色に染まった大きな泡は、虹が架かっている間、青い空に浮かんでいました。

輝きながら風にそよぐ泡の中から何かが聞こえてきます。

集まった‘ニョロんぱ’たちが一つとなって歌っているのです。

その歌は光とともに島に注ぎ、雨上がりの葉っぱの群をきらめかせます。

やがて虹が消えると、泡も輝きを失い空にとけてしまいました。

そして ‘ニョロんぱ’の歌だけがかすかに流れていました。


雨の日はこの島の祝祭日です。

‘ニョロんぱ’が歌い、この島に新しい息吹が生まれます。

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