第3話「かたりべ」(ふう爺)の物語
いつのことだったか忘れてしまいました。
わたしは深い森の木にとまって、いつも物思いにふけっていました。
朝も、昼も、夜も、眠りについても、ボ~と何かを思っていたのです。
降り注ぐ光、流れる雲、星のまたたき、光る獣の瞳、さまざまなものが目に映ります。
木々のそよぎ、地面にハジケル雨、鳥の羽ばたき、植物の芽吹き、いろんな音が耳に届きます。
朝の陽ざし、通りすぎる風、舞い降りる雪、霧のしめり、いくつもの気配を体に感じます。
こんな風に、わたしは高い木にとまり、何かを思いながらボ~としているのが好きでした。
月の光がおぼろにけむっていたある夜、起きているのか眠っているのかわからないままボ~としていると、ほのかに輝く光を感じました。
はっきりとしない瞳を光に向けると、透き通った体を輝かせながら宙に浮かんでいる葉っぱのようなものが見えました。
その葉っぱを見ていると、何やらわたしを誘っているようなしぐさをしたのです。
わたしは誘われるままついて行こうとしました。
するとなぜか体が軽くなり、羽ばたくことなくふんわりと宙に浮かびました。
ふと下を向くと、ボ~と空を見上げるわたしが見えました。
どうやらわたしは自分の体から抜け出してしまったようです。
わたしはなんの疑いもなく葉っぱについて行きました。
どのくらい飛んでいたでしょうか?
やがてわたしの体はやわらかな白い光に包まれました。
いつしかその光も消え、何かが見えてきました。
目の前には、陽に輝く葉っぱが一面にそよいでいる世界が広がっていました。
こうしてわたしはこの島にやってきました。
この島に住み、毎日同じようにボ~と過ごしています。
ただ以前と違うのは、わたしの姿と、じっと思いにふけってばかりいたわたしが、その思いを語るようになったということです。
わたしの姿、見えますか? わからないですよね。
頭になにか乗っているんです。
それは、フクロウ。
もとの世界でわたしはフクロウでした。
木にとまり、そこから見て、聞いて、感じたことを「ほ~、ほ~」とうなずいてはくるくると頭を回す毎日でした。
ところが今はどうですか。
フクロウを頭にかぶせたヒトの姿になってしまいました。
しかも偉そうにヒゲをたくわえ、マントをはおり、杖までもって。
この島の母が言いました。
「あなたはこの島で見たもの、聞いたもの、感じたものを、自分の言葉でみんなに語りなさい」と。
以来、わたしは全てを知る長老として、そして‘かたりべ’として、この島のことを語って行くことになったのです
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます