第30話 水と木の星

 オリエス、元気にしているか? 

 俺やみんなは元気にしているよ。

 あの戦いから色々あってやっと手紙を書けるようになったよ。

 リシラナさんから聞いた。

 お前が捨て身でバルザゲアを倒してくれた事を。

 みんな沢山泣いたよ。もちろん俺もな。

 でもお前は願いを叶えたんだよな。

 お前の父ちゃんと母ちゃんはお前の聖樹に行けば話が出来ると喜んでいたよ。

 俺にはお前の声は聞こえないから羨ましいよ。

 でもそれはお前が望んだ幸せだからな。

 初めて会った時からお前はいつも父ちゃんと母ちゃんの事を心配していたからな。

 幸せは欲張っちゃいけないんだ。うん、きっとそうなんだ。

 俺はモンタンスで父ちゃんと母ちゃんと店をやっているよ。

 あとバルザゲアを倒した褒美にレガルトさんから貨物用の潜水艇をもらってあちこちの町に荷物を運んで商売しているよ。

 勇者オリエスの手伝いをしたのだからこれ位もらってもいいよな。

 ヴァイルとクリュテはガンザシフロに引っ越してリシラナさんの騎士になったよ。

 意外とわがままな人らしいから困っているんだって。

 人は見かけによらないな。

 シュミルはヴィエルシフロの次の町の長に決まって勉強中でしかも結婚するんだって。

 相手はなんとヴォリラだぜ。

 初めて聞いた時は驚いたよ。

 パンジィはシフルートで学校の先生になったよ。

 あれで学校の先生とか笑えるよな。

 いや、教えられる子供に同情した方がいいかな。

 ノリゼンはフラスコンテの寺院に戻ったし、フウリイさんは元気になってブルフォレの寺院でサルクおばさんと働いているよ。

 色々あったけどみんなオリエスに感謝しながら暮らしている。

 今の俺達の暮らしもオリエスの叶えたい願いに入っていたのかな。

 だとしたら礼を言っても言い切れないや。

 時間が出来たら俺も行くよ。

 オリエスの島にな。

 それじゃ。


 《オリエスの島》──バルザゲアが作った島は皆からそう呼ばれた。

 戦場となった地面は森に覆われて中心に太い聖樹が伸びる小さな島に変わった。

「……だって。どう?」

 オリエスの母のレイナがデアンの手紙を読み上げて島の聖樹に声をかけた。

「おいおい……みんな知っていたとか冷たい事言うなよ」

 オリエスの父のバルフェは笑いながら言った。

 二人は島の聖樹を通してオリエスと話ができた。

「私達が知らない間に手の届かない所へ行ってしまったけど、こうしてお前と話ができてとても嬉しいよ。血が繋がっていなくても心を通わせる事ができるんだね」

「そうだな。俺も嬉しいぞ。ありがとうな」

 涙ぐむレイナの肩を抱いてバルフェは呟いた。

 水平線にコロナボスが沈み始めた。

 海底から伸びた聖樹が所々で海上に姿を見せていた。

 オリエスの呼びかけで各地の聖樹がオリエスの聖樹に根を張って繋がった。

 そして黒い粒子を取り込んだ各地の聖樹は急激に成長して浄化した空気を海中に吐き出した。

 その空気が眠り病にかかった人々を目覚めさせた。

 ガンザシフロのヴァンキスは聖樹が古の木の民が変わった姿であり、オリエスが魔王バルザゲアを倒してアクアティリスを救った事を公表した。

「世界の成長……それはこの世界に住む人間の心の成長を意味するのかも知れないな」

 波が静かに打ち寄せる砂浜でリオーザは遠方の沖に伸びる数本の聖樹を眺めて呟いた。

「オリエス、ありがとう」

 ロコトロアでヘミンスは始祖の聖樹を眺めて呟いた。

 始祖の聖樹の枝に虹色の花がひとつ咲いた。

                               (了)



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碧い聖石 久徒をん @kutowon

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