第29話 黒聖樹の島

 オリエス達は黒い聖樹が隆起した島の近くまで来た。

 兵士達が上陸して魔物達と交戦を始めた。

「魔物達はどうやら兵士達でも倒せるようだ」

 潜水艇でヴァイルは逐次入ってくる連絡を聞きながら話した。

「船を聖樹の横の浜辺につけて上陸する」

 クリュテが操縦士に指示すると潜水艇がゆっくり動き出した。

 潜水艇が海上に出た。

 オリエス達は上陸して聖樹をふもとに来た。

「でかいな」

 デアンは地面から出た太い聖樹の根をよけながら歩いた。

「しかしバルザゲアの力だと根も黒くなるのか」

 聖樹の黒い根が網の目状に地面を張っていた。

 突然、オリエス達に黒い影が覆った。

「何だ!」

 ノリゼンが叫んだ。

 大きな黒い鳥がオリエス達に襲いかかった。

「こいつも魔物か」

 クリュテが身構えた。

 黒鳥の翼から沢山の爪が飛び出した。

「危ない!」

 ノリゼンが光の膜を作った。

 爪が次々と膜にぶつかって飛び散った。

「随分重たいな」

 ノリゼンは右手を伸ばしたまま衝撃にこらえた。

「それなら吹き飛ばすだけさ」

 オリエスは右手をのばして小さな竜巻を作った。

 爪が吹き飛んでいった。

 黒鳥が襲いかかってきた。

「邪魔な奴だな」

「串刺しにしてやる」

 ヴァイルとクリュテが黒鳥に立ち向かった。

 ヴァイルの剣が翼を刺してクリュテの槍が頭を刺した。

 ギャア……! 

 黒鳥はその場で泣き声を上げて倒れた。

 聖樹の枝から次々と黒い鳥が襲いかかってきた。

「邪魔よ!」

 パンジィが炎の弾丸を連射した。

「私も!」

 シュミルが眩しい光球を放つと鳥達は地面に落ちた。

「ほらよ!」

 デアンが落ちた鳥達の頭を刺した。

 一行は鳥の群れと戦いながら聖樹の幹に辿り着いた。


「フフフ、またお前達か」

 バルザゲアの声が響いた。

「どこだ、姿を見せろ」

 オリエスが叫んだ。

「いいだろう」

 聖樹の上から巨大な人影が降りてきた。

「何なのあれは……」

 シュミルは顔をしかめた。

 それは人と呼べるかわからない形の長身の黒い生物だった。

「どうだね。聖石を取り込んだせいで前より小さくなったが我を侮るではないぞ」

 バルザゲアは目を細めた。

「この聖石は仲間や愛する者を守る為に人間が変わった物のようだな。馬鹿馬鹿しい。何の意味もない犠牲だ」

「化け物のお前にはわからないだろうが、それが人間の気持ちだ」

 オリエスは怒鳴った。

「ふん、綺麗事を。まあ良いわ。それならお前達も死んで聖石を我に捧げよ」

 バルザゲアが一瞬消えた。

「何!」

 オリエスは驚いた。

「キャッ!」

 オリエスが振り向くとパンジィがバルザゲアに蹴飛ばされて後ろに吹っ飛んだ。

「パンジィ!」

 デアンが叫んで駆け寄った。

 パンジィは虫の息だった。

「今、治すわ」

 シュミルが掌に光球を出した時、

「うっ」

 シュミルの腹から禍々しい腕が突き抜けた。

 バルザゲアはシュミルの体をそのまま持ち上げてパンジィの上に投げ飛ばした。

「ふん、人間はあっけなく脆いもんだな」

「貴様!」

 ヴァイルがバルザゲアに剣を振り下ろした。

「ほお、我を傷つけるとは流石伝説の武具だけあるな」

 バルザゲアの右腕に剣が食い込んだ。

「だが、どうかな」

 バルザゲアの左腕から黒い球が出た。

「どりゃあ!」

 クリュテが槍で左手の掌を突き刺した。

 黒い球は消えた。

「ふん、いいだろう。お前達を倒せばあとは簡単に潰せるからな。かかってこい!」

 バルザゲアはヴァイル達と間を置いて身構えた。

「オリエスとデアンもあいつを!」

 ノリゼンがパンジィとシュミルに魔法をかけながら叫んだ。

「わかった。いくぞデアン!」

「おう」

 オリエス達はヴァイル達のもとへ走った。

「頭数が揃ったか」

 バルザゲアは腕から剣を伸ばした。

「化け物だから何でもありかよ」

 デアンが叫んだ。

「ふん、好きに言えば良い。いくぞ」

 バルザゲアが飛びかかった。

 ヴァイルが剣を受けた。

「動きは早いが攻め方は変わらないな」

「ふん、それはどうかな」

 バルザゲアの右手が二本に分かれて剣を伸ばした。

「せこい化け物だな」

 クリュテがもう一本の腕を槍で突き刺した。

「そして次は魔法かよ」

 デアンは左手を短剣で刺した。

「ふん……くだらんな」

 バルザゲアは笑った。

「みんな、下がれ!」

 オリエスが叫んだがバルザゲアが頭から魔法を放った。

「うわあああ!」

 三人は後ろに吹っ飛んだ。

「フフフ、この程度か。うっ!」

「随分余裕だな。俺が見えなかったのか」

 オリエスは風の刃をまとった剣をバルザゲアの脇腹に刺した。

「ほお、お前も木の民とやらか。お前を殺してその体から聖石をくり抜いてやるよ」

 バルザゲアが右手から風の弾丸を連射した。

 オリエスは風の盾を作って構えた。

「うっ!」

 弾丸の威力に耐えながらオリエスは剣を構えた。

「そこだ」

 ヴァイルがバルザゲアの頭を突き刺した。

「邪魔だ」

 バルザゲアは右手でヴァイルをなぎはらった。

「うおおお!」

 クリュテとデアンがバルザゲアの体を刺した。

「だから邪魔だ」

 バルザゲアは二人を軽く蹴飛ばした。

 オリエスが風の弾丸を連射した。

 バルザゲアの頭に命中して一瞬のけぞった。

「ほお、我の風の魔法より強いとはな。それなら」

 バルザゲアが黒い球を掌に出して連射した。

「うおおお!」

 ヴァイル達が飛びかかった。

「ええい、うるさいぞ。雑魚共!」

 バルザゲアが剣で受けようとした時、ヴァイル達の体が浮いた。

「何!」

 バルザゲアが驚いた隙にデアンが短剣で背中を刺した。

 ヴァイルとクリュテが空中に浮いて剣と槍をバルザゲアの胸に刺した。

「オリエス、お前もだ」

 ノリゼンが白い光を放った。

 オリエスの体が浮いた。

「よし」

 オリエスはバルザゲアの背後に飛んで剣を刺した。

「ええい、さっきから何度も刺しおって」

 バルザゲアはオリエス達をなぎはらって空にゆっくり浮いた。

「逃げるのか」

「ハハハ、誰に言っているのだ」

 ヴァイルの声にバルザゲアは笑った。

 バルザゲアは目を閉じた。体の筋肉が盛り上がり赤黒い鎧が浮き出た。

「まだ変身するのか」

 クリュテは変貌していくバルザゲアに目をこらした。

「取りあえずうるさい雑魚から退治だな」

 バルザゲアはヴァイル達の間を一瞬で駆け抜けてノリゼンの前に立った。

「変な小細工されたら困るからな」

 バルザゲアはにやりとしてノリゼンに剣を振り下ろした。

「その剣で怖気づくと思ったのか」

 ノリゼンは掌から光の盾を広げた。

「その程度!」

 バルザゲアが剣を盾に突き立てた。

「甘くみてもらっては困るぞ」

 ノリゼンは左手でも盾を作った。

「私は命に代えても彼女達を守るんだ!」

 ノリゼンは背後で倒れているパンジィとシュミルを見ながら叫んだ。

「なら、お前も死ね」

 バルザゲアは左手に剣を伸ばしてノリゼンの顔に刺そうとした時、

「彼女が出来たらそう言いなさいよ。脳筋賢者」

「何!」

 バルザゲアの足下から火柱が勢い良く上がった。

 バルザゲアはとっさに後ろに下がった。

「パンジィ。大丈夫か!」

 デアンが叫んだ。

「ふん、不覚だったわ。こいつがこんなせこい卑怯者だとは思わなかったしね」

 パンジィは立ち上がった。

「卑怯者だと。真っ先に楽にしてやったのに」

 バルザゲアがノリゼン達に向かってきた。

 光の膜がノリゼン達を包んだ。

「卑怯者じゃなかったら野蛮人かしら。少なくとも彼氏にしたくないわ」

 シュミルも腹を押さえながら立ち上がった。

「こんなの彼氏にしたらレガルト様が悲しむだろう!」

 ノリゼンは光の弾丸を連射した。

「おのれ!」

 バルザゲアは剣で弾を受けながら後ずさりした。

「やっぱりお前の敵は俺のようだな」

 ヴァイルが背後から剣を刺した。

「ふん、効くか」

 バルザゲアは剣を抜いて飛び上がった。

「もう良い。お前達はここで死ね」

 バルザゲアは掌から巨大な黒い球を出した。

「食らえ!」

 黒い球が弾けて稲妻が走った。

「みんなこっちへ!」

 シュミルが叫んだ。

 オリエス達がシュミルの元に集まった。

 ノリゼンが光の膜を再び作った。

「それなら私も!」

 パンジィが水しぶきの膜を張った。

 稲妻が水しぶきにあたってバチバチと音を立てた。

「ほらよ。お返しだ」

 オリエスが竜巻をバルザゲアに撃った。

 稲妻を帯びた水しぶきがバルザゲアに次々と命中した。

「うわああああ!」

 バルザゲアは叫びながら地面に落ちた。

「自分の魔法には弱いようだな」

「所詮、その程度か」

 クリュテとヴァイルが呟いた。

「フフフ、その程度なのはお前らの方だ」

「まだ負け惜しみを言うか」

 デアンが叫んだ。

 バルザゲアはゆっくり立ち上がった。

「はあ!」

 バルザゲアの叫び声で衝撃波が起きた。

「まずい」

 オリエスは風の盾を大きく広げた。

 バルザゲアは飛び上がった。

「木の民は最後に相手にしてやるよ」

 バルザゲアは素早くヴァイルとクリュテに飛びかかった。

「うっ!」

 バルザゲアの剣が二人の体を突き抜けた。

「この野郎」

 デアンがバルザゲアの頭を刺した。

 バルザゲアがデアンを掴んで地面に叩きつけた。

 その後、ノリゼンの腹を剣で刺してパンジィとシュミルを肩から腹にかけて剣で切った。

 それらを一瞬でバルザゲアはやってのけてヴァイル達は次々と倒れた。


「みんな!」

 オリエスの叫びに仲間達は誰も答えなかった。

「ハハハ、軟らかい体だとこの程度で死ぬのか。人間は楽に死ねていいものだな。前に魔石の力で強くなるか試したが大して変わらなかった。役立たずな生き物だ」

 バルザゲアは笑った。

「試した?」

 オリエスの脳裏にヴィエルシフロで魔物に変わった人々の顔が浮かんだ。

「何様だ! お前だけは絶対に許さない!」

 オリエスは風の弾丸を連射した。

「その程度」

 バルザゲアは弾丸を両手ではねのけた。

「くそっ!」

 オリエスは更に連射した。

「ふん、なかなかやるな」

 バルザゲアが弾丸を剣で弾きながら間合いを詰めた。

「それなら」

 オリエスは剣を持った。

 剣に強い風が渦巻いた。

「うおおお」

 オリエスが剣を振り下ろした。

 風の刃がバルザゲアの脇腹を鎧ごと切った。

「うっ!」

 バルザゲアがよろけた。

「許さないぞ!」

 オリエスは風の弾丸を放った。

「ええい。鬱陶しい!」

 バルザゲアが剣を振り下ろしたがオリエスは一瞬でよけた。

「何!」

 バルザゲアは何度も攻撃したがオリエスには当たらなかった。

「風の魔法か」

「……」

 オリエスは風の魔法で浮力をつけてよけた。

 黙ったままオリエスは左手の掌に風の弾丸を作って連射した。

「何度もくると見切れるものだ」

 バルザゲアは弾丸をよけながらオリエスに近づいた。

「これで終わりだな」

 バルザゲアはオリエスに近づいて剣を向けた。

 オリエスは持っていた剣を落として魔法で風の剣を作った。

「何!」バルザゲアは驚いた。

 オリエスの風の剣が伸びてバルザゲアの胸を貫いた。

「ぐわっ!」

 バルザゲアが黒い血を吐きながら叫んだ。

「もう一撃だ!」

 オリエスは風の剣を作ってバルザゲアの腹に刺した。

「うわあああ!」

 バルザゲアはひざまずいた。

「これでとどめだ!」

 オリエスはまた風の剣を作ってバルザゲアの頭に刺そうとした時、

「う、うわあああああ!」

 オリエスは胸を押さえてうずくまった。

「体の聖石が……」

 オリエスは立ち上がって風の剣を作ろうとしたが胸から次第に固くなった。

「こ、ここまでなのか」

 オリエスの体が石に変わって等身大の細長い石になった。

 その石を覆うように地面から緑色のつるが伸びて石に絡まった。


「フフフ……ハハハハハ!」

 バルザゲアがよろけながら立ち上がって大声で笑った。

「もう一撃食らっていたら死んでいたぞ。ほう、これが生まれたての聖石か」

 バルザゲアはつるに絡まった石に触れた。

 地面から次々とつるが伸びて石に絡まった。

 石が削れて緑色に輝く小さな石がつるに埋まった。

「なるほど、聖石はこういう風にできるのか。その石、いただくぞ!」

 バルザゲアが石に手を伸ばした。

(俺はここまでなのか……)

 石に埋もれた体の中でオリエスの意識は目覚めた。

(もう少しで倒せたのに……)

 自分の意識からバルザゲアが喜んでいる姿が見えた。

 そして倒れているヴァイル達も見えた。


(みんな、俺は……俺は……)

(まだあなたは生きていますよ)

(その声は……リシラナさん……)

(願いなさい。そして終わらせなさい。あなたの願いの力で)

 リシラナの厳しい口調がオリエスの意識に届いた。

(あなたは本当にわがままな人だ)

(わがままな女の子や仲間や家族を助けたいのでしょう?)

(そうだ。俺は助けたい。その為には)


 オリエスの意識は強く願った。

(あいつを倒すんだ!)

 オリエスの意識が弾けた。

「何!」

 聖石を取ろうしたバルザゲアは異変に気付いて後ずさりした。

 緑色の聖石が青く輝いた。

 つるの動きが激しくなった。

「何だ。光の色が変わっただけか。さっさといただくか」

 バルザゲアが手を伸ばした時、つるが手をバチッと跳ねた。

「こしゃくな真似を!」

 バルザゲアが手を伸ばす度につるが邪魔をした。

「ええい邪魔だ」

 掌に黒い球を作って何度もつるを撃ったが効かなかった。

「まだ邪魔をするか」

 バルザゲアは手に剣を伸ばした。

 聖石を囲んだつるが成長して等身大の木に姿を変えた。

「聖樹に変わったか。だが石はもらうぞ」

 バルザゲアが剣で突こうとした。

 枝が剣をはねた。

「邪魔だっ!」

 バルザゲアが幹に剣を突き刺した。

 枝が曲がって一斉にバルザゲアの体を突き刺した。

「うわあああ!」

 バルザゲアは無数の枝で串刺しになった。

「フフフ、それで我を倒したつもりか。我は死なんぞ。そして眠りに落ちた民は助からんぞ」

(わかっているよ)

「その声は……きさま、まだ生きているのか」

 バルザゲアは木から覗く聖石を見て呟いた。

(お前の体を吸収して浄化すれば全てが終わる……)

「ふん、そんな事ができると思っているのか。お前のたった一人の力で……」

 バルザゲアは虫の息で呟いた。

(できるよ。俺達の力で……だからお前は消えるんだ)

「俺達だと? うわああああああ!」

 枝が太くなりバルザゲアの体は黒く飛散した。

 その黒い粒を枝に伸びた葉が全て受け止めて聖樹に吸収した。

(この星の木の民の聖樹達よ。俺の中にいるバルザゲアをみんなで取り込んで浄化した空気を作ってくれ。この星の民を救う為に)

 聖石の色が紺碧に変わって青い光を放った。

 地面が小刻みに揺れた。

「ぐはっ!」

 ノリゼンは目覚めて自分に魔法をかけながら立ち上がった。

「これは! オリエスがやったのか」

 目の前にバルザゲアの姿はなく聖樹が青く輝いていた。

「みんな……」

 倒れているヴァイル達を見ながらノリゼンは掌にパタホンの画面を出した。

「ここでは通じないか」

 画面を閉じてノリゼンは光の球を空に撃った。

 球が空中で眩しく弾けた。

 それに答えるかのように海から光の球がいくつも飛んで弾けた。

「みんな、もう少しで助けが来るからな」

 ノリゼンはまた意識を失った。

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