第26話 契約・モノシフロ(2)

 研究所では戦闘が続いていた。

「広いなここは」

 研究所に昇降機があったが作動していなかったのでオリエスは階段を駆け上った。

 5階に着くとそこでもあちこちで戦闘が繰り広げられて銃声が響いていた。

「邪魔だ!」

 オリエスは魔物の群れに風の弾丸を放ち次々と倒した。

「フウリイさんは?」

 オリエスは近くにいた兵士に訊いた。

「突き当たりを左に曲がって奥の部屋だ」

「わかった」

 オリエスは走り出した。

「この野郎!」

 聞き覚えのある声がした。

 数体の魔物を相手に戦っているデアンがいた。

「デアン!」

「オリエス! 無事だったのか。よかった」

 オリエスの声にデアンは振り向いて喜んだ。

「危ない!」

 オリエスは叫んだ。

 デアンの背後で魔物が剣を振り下ろした。

「おっと!」

 デアンは素早くよけて魔物の頭を短剣で刺した。

 魔物は倒れた。

「へへへ、甘く見過ぎたな。このデアン様を」

 デアンは数体の魔物の頭を次々と刺した。

「じゃあ俺も」

 オリエスは剣を構えて魔物に襲いかかった。

「ここは片付いたな」

「ああ、さっきから魔物の動きが鈍くなって助かったよ」

「きっとヴァイルが黄金の騎士を倒したからだろう」

「ああ……そういう事か」

 二人はしばらく戦い続けてその場にいた魔物達を倒した。

「オリエス、無事で良かった」

「デアンも強くなったな」

 二人は再会を喜んだ。

「フウリイさんは?」

「ああ、この部屋だ。ちょっと待ってくれ」

 デアンは部屋の扉の画面を操作した。

「よし、これで開くぞ」

 扉の内側からカチッと音がした。

「ありがとう」

「まだ眠ったままだけどな。じゃあ俺ここで見張っているから」

 オリエスは扉を開けて部屋に入った。

 部屋は青白い照明に照らされて真ん中に透明なカプセル状のベッドがあった。

「フウリイさん」

 ベッドには青白い顔をしたフウリイが仰向けで眠っていた。

 カプセルには穴がいくつか空いていた。

 オリエスは穴に手を入れてフウリイの手を触れた。

「もしかしたら……」

 オリエスは意識を掌に集中した。

「やはり……そんなに都合良く相手の心に話しかけられないか」

 オリエスはゆっくり手を放した。

 コーン……

「えっ」

 オリエスは木を叩く音を聞いた。

「なぜこの音が……フウリイさん?」

 オリエスは再びフウリイの手を握った。

(これは……フウリイさんの意識じゃない)

 オリエスは心で呟いた。

 真っ赤な空を背に伸びた一本の木に黒い液体がこびりついていた。

(木が苦しそうだ……)

 伸びた木から苦しそうな息づかいが聞こえた。

(どうしたらいいんだ)

 オリエスが迷っていると木の真ん中に光る物が見えた。

(あれは? 聖石か)

 小さな聖石が木の真ん中に埋もれていた。

(これは木の民の血が見せているのか。だけどこの木をどうしたらいいんだ)

 オリエスはハッと目が覚めた。

「うっ……」

 オリエスは胸に走る小さな痛みにうずくまった。

「聖石の力で何とかしろって事なのか」

 オリエスは呟いて立ち上がった。

「フウリイさん……母さんと呼べなくてごめん。だけど何もかも終わってまた会えたら友達みたいに話せたらいいな」

 オリエスは眠っているフウリイの手を握って話しかけた。


(ありがとう……)


 オリエスの脳裏にフウリイの声がかすかに聞こえた。

「じゃあ行くね」

 オリエスはフウリイの手を離して部屋を後にした。

「待たせたな」

「別に構わないよ。それでこれからどうするんだ?」

 デアンは部屋の扉の画面を操作しながら訊いた。

「ここも落ち着いたからヴィエルシフロへ行くよ。今はシフロの聖樹の聖石と契約を結んでいるんだ。ヴィエルシフロで最後だ」

「そうか。じゃあ俺も一緒に行くよ」

「えっいいのか」

「ああ、俺はヴィエルシフロの兵士じゃないからな。ここの指揮官と話をしてくるよ。後で港で会おう」

 デアンは手を振って廊下を走っていった。


 研究所を出たオリエスは目の前に現われた魔物を倒しながら港に着いた。

 しばらくしてデアンが来た。

「待たせたな。小型の潜水艇を使っていいってさ」

「そうか。じゃあ乗って出発してくれ。俺は魔物達と戦って道を作るよ」

「おお。頼んだぜ。また後でな」

 デアンと別れてオリエスは海に飛び込んで町の外に出た。

(さっきよりはマシになったか)

 魔物の数は減ってあちこちで魔法の光が点滅していた。

 背後からデアンが乗った潜水艇が来た。

(よし、行くか)

 オリエスは潜水艇の上のハッチに張り付いた。

 魔物達が近づいてきた。

 オリエスは風の弾丸を連射して魔物達を倒した。

 潜水艇の進む速度が上がった。

(もう少しだ……)

 オリエスが魔物達を倒しながら潜水艇は突き進んでモノシフロを後にした。

(みんな無事でいてくれ)

 オリエスはまだ魔法の光が点滅するモノシフロを見ながらハッチを開いて船に入った。

「ふう……疲れた」

 オリエスは船室に入った。

「ああ、お疲れ。無事に突破できてホッとしたぜ」

 デアンは操縦しながら話した。

「へえ、お前も船を動かせるようになったんだ。兵士が操縦しているのかと思った」

「へへへ、まだ覚えたてだけどな。まっすぐ進む位はできるぜ」

「ぶつからない事を願うよ」

 オリエスは笑った。

「何かさあ。久しぶりだな。二人で船に乗ってさ」

「ああ、そうだな」

 二人は半透明になった壁に映る景色を見ながら話した。

「色々あってここまで来たんだな」

「ああ、色々ありすぎて困ったけどな」

 オリエスは胸を押さえながら言った。

「でもバルザゲアを倒せば終わるんだ。俺はそう信じているよ」

「おっ、珍しく強気だな。オリエス」

「そうか。そうだな……デアン、前に言ったよな。俺が変わったって」

「ああ、会った時は甘ったれで無鉄砲だったのに何か急に強くなってどっか遠い目をしてさ」

「そうだな。周りでわからない事ばかり起きて慌ててうろたえて……とにかく必死だった」

「でもよ、俺思ったんだ。そういう風に人は強くなっていくんだって。必死になった分だけ強くなっていくんだってさ」

「へえ、デアンも大人になったな」

「俺、今褒められているのか。嬉しいな」

「でも俺はたまたま木の民の血筋が目覚めて強くなったけど、俺の気持ちは今も父さんや母さんが目覚めて欲しいと思っているしデアン達と仲良くやっていきたいと思っている、ただの甘い甘い普通の子供さ。別に世界がどうのとかそんな事考えていないよ」

「そうか。そういう甘ったれのオリエスと一緒に旅が出来て俺は嬉しいぜ。多分無駄に腕が立つ奴と二人で旅したら毎日喧嘩ばかりしていただろうな」

 デアンは操縦しながら笑った。

「もうすぐ全部終わってみんな元の生活に戻れるんだ。俺はそう思っているよ」

 オリエスは青く澄んだ景色を見ながら呟いた。




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