第25話 契約・モノシフロ(1)
「これより着水します」
操縦士の声にオリエスは緊張して椅子のひじ掛けを強く握った。
着水と同時に船内が大きく揺れた。
「うわっ」
オリエスは席から投げ出されそうになった。
飛行艇が減速していくと共に船体が安定した。
「空から降りるとこうなるのか。バラバラになって沈むかと思った」
今まで感じた事のない船体の振動にオリエスは戸惑った。
「ここからモノシフロに潜ります」
操縦士が言うと船体が垂直に海に沈んでいった。
船体が安定してオリエスは席を立ち操縦席へ歩いた。
「この下がモノシフロですか?」
「もうすぐ町です。あれ何か光が?」
町の周りで光が点滅していた。
「拡大します」
操縦士が操作すると壁に小さな画面が表示された。
「うわっ戦闘か」
画面で人々が魔法で魔物と戦っている様子が映った。
「このまま近づくのは危険だ。ありがとう。ここで出ます」
オリエスは船の後部に向かった。
船室を出て乗降室に入った。
「扉を完全に閉めて下さい」
オリエスは無線機から伝わる操縦士の声に従って船室の扉を閉めた。
「注水します。完了したら頭の上のハッチを開きます」
「頼みます」
オリエスは意識を集中した。
体の周りに緑色の光の膜が出た。
水が乗降口の部屋を満たして天井のハッチが開いた。
(行くぞ)
オリエスはゆっくり船の外へ出た。
(あそこだな)
オリエスは意識を更に集中して全力でモノシフロに進んだ。
モノシフロの聖樹の周りには沢山の黒い魔物が取り囲んでいた。
聖樹の前で潜水服を着た人々が魔法で攻撃していた。
(さあ、どうする)
オリエスは掌に風の塊を作った。
(これでどうだ!)
掌の塊が無数の弾丸に変わって魔物達に命中した。
散り散りになっていく魔物達の合間をオリエスは全力で進んで聖樹の前に来た。
(これで町を傷つけないですむ)
オリエスは再び掌に風の塊を作って弾丸を撃った。
次々と魔物達の頭に当たって体が消えていった。
(普通に集中しているだけなのにすごい威力だ)
自分の魔法の力が格段に上がっている事にオリエスは驚いた。
(とにかく聖石と契約しないと)
オリエスは聖石を探した。
「オリエス!」
「えっ?」
オリエスは声が聞こえた方に振り向いた。
「パンジィ、シュミル!」
光の膜で包まれたパンジィとシュミルがいた。
「二人とも無事で良かった」
「何が良かったよ。あんたのせいで溺れて死ぬところだったのよ」
「オリエスも無事で良かった。探したけど全然見つからなくて……」
「ああ、色々あってな。心配かけてすまない。聖石と契約するからもう少し持ちこたえてくれ」
「言われなくてもやっているわよ。聖石は少し上よ。その契約とやらを早くやって来なさい」
「すまない」
オリエスは二人と別れて上へ泳いだ。
(あった)
オリエスは緑色に輝く聖石を見つけた。
警護している人々に手を振ってオリエスは聖石の前に止まった。
聖石に触れて魔法を放つと体に流れてきた。
(苦しい……)
オリエスの息遣いが荒くなった。
(大丈夫。もう少しだ)
ガンザシフロの聖樹の声よりも若干高い男の声が頭の中で響いた。
(力が流れてくる)
オリエスの体の緑色の光が青みを帯びた緑色に変わった。
(契約は果たされた)
(ありがとう)
オリエスは聖石から手を放して下へ潜った。
「待たせたな」
「オリエス、ここは私達で持ちこたえているから早く町に入って」
「町に?」
「魔物が町に入っているの。兄さんやデアンが戦っている。フウリイさんは中央の広場の隣の研究所にいるわ。5階よ」
「わかった。しかしこいつらも倒さないと」
オリエスは防衛隊の最前列に泳いだ。
両手を前に伸ばして掌に意識を集中した。
「うおおおお!」
オリエスは掌から無数の風の弾丸を撃った。
弾丸は次々と魔物に命中した。
体を捻りながら連射した。
命中した魔物達は次々と消えた。
「うっ!」
オリエスの胸に痛みが走った。
「これが力を使う代償か……」
オリエスは胸を押さえながらモノシフロの港へ入った。
港から町に入るとあちこちで煙が上り銃声が響いていた。
オリエスはパホストに触れて掌のパタホンの画面を呼び出しデアンに話しかけたが通じなかった。
「くそっ」
オリエスは画面を閉じて走った。
黒い剣を持った魔物と兵士が戦っていた。
オリエスは背中の剣を抜いて力を込めた。
剣に風が渦巻いた。
「うおおおおっ」
オリエスは魔物に剣を勢いよく振り下ろした。
魔物が真っ二つに切れた。
「なるほど。こういう風に使うのか」
「すまない」
オリエスが剣を見ていると兵士が話しかけた。
「ずっとこの状態なのか」
「ああ、中央の広場にヴァイル様とクリュテ様がいる」
「わかった」
オリエスは再び走り出した。
建物の陰から魔物が現われてオリエスに襲いかかった。
「邪魔だ!」
オリエスは風の弾丸を放って魔物の頭を砕いて走った。
通りを走っている間に魔物に襲われたが剣と魔法で次々と倒して中央の広場に着いた。
「ここでも戦いが」
広場の真ん中に伸びる塔の周りで兵士達が魔物と戦っていた。
「クリュテ!」
オリエスは塔の前で戦っているクリュテを見つけて走った。
クリュテに近づく魔物達を風で吹き飛ばした。
「オリエス、無事だったのか」
「フウリイさんがいる研究所は?」
「あそこだ。俺も行こう。兄さんが約束の時間になっても来ないんだ」
クリュテは白い三角屋根の建物を指さした。
二人は魔物を倒しながら研究所の前に着いた。
「あっ!」
「兄さん!」
二人が着いた時、ヴァイルは黄金の騎士と戦っていた。
「またあいつか!」
オリエスは剣に力を込めた。
「よせ!」
ヴァイルは叫んだ。
「兄さんどうして」
「こいつは俺と戦いたがっている。クリュテの時と同じだ」
「そうか、あいつの鎧も……」
「オリエス、俺達は周りの魔物を倒そう」
二人はヴァイルの戦いを見守りながら周りの魔物と戦った。
「これでどうだ!」
ヴァイルが叫んで鎧を刺した。
コーン……
オリエスは木の叩く音が聞こえた。
「あの鎧からか」
オリエスは風の弾丸を放った。
魔物達が粉々に砕けた。
「うおおお!」
ヴァイルは黄金の騎士に剣を振り下ろした。
騎士は剣を受けて後ろによけた。
その隙に剣で突いたが騎士はかわした。
「強い。しかし負けられない」
ヴァイルは何度も騎士と剣を交えた。
騎士の剣がヴァイルの左肩を刺した。
「うっ!」
ヴァイルは左肩を押さえた。
騎士が剣を振り下ろした。
「兄さん!」
クリュテが叫んだ。
「俺を誰だと思っているんだ」
ヴァイルは騎士の剣を剣で受けてこらえた。
「力勝負か。そんな事やるより剣で戦おうじゃないか」
ヴァイルは剣を受けたまま立ち上がって力を抜いた。
ヴァイルの剣が騎士の頭の横を過ぎた。
「そこだ」
ヴァイルは剣で鎧を突いた。
コーンコーンコーン……
「間隔が短くなっている。もう少しだ」
オリエスは叫んだ。
ヴァイルと騎士が剣を激しく交えて戦った。
オリエスは戦いながら様子を見た。
ヴァイルより少し離れた場所でクリュテも戦いながらヴァイルを見ていた。
ヴァイルの息が荒くなった。
「お前やるな。よほどの剣の達人だったのか」
ヴァイルが呟いた。
騎士は無言のまま立っていた。
「だが剣士ヴァイルがお前を倒す!」
ヴァイルは剣を構えて騎士に向かった。
剣を交える音が響いた。
コーンコンコンコンコン……
オリエスの耳に入る木を叩く音の間隔が更に短くなった。
「うおおおお!」
ヴァイルの剣を受けた騎士の動きが遅くなってきた。
コンコンコン……
「もう終わる……」
魔物を切りつけながらオリエスは呟いた。
「そこだ!」
ヴァイルの剣が黄金の鎧の胸を貫いた。
鎧から黒い煙が上って体が消えてその場に鎧だけが浮いた。
「やった!」
クリュテが叫んだ。
「ふん、敵ながら大した奴だったよ。うっ!」
ヴァイルは痛む左肩を押さえて鎧に近づいた。
「俺でいいんだな」
ヴァイルは小さく呟いて鎧に触れた。
鎧が部位毎に分かれて地面に落ちた。
コーン……
オリエスの耳に木を叩く音が一つ響いて消えた。
鎧を装備したヴァイルにクリュテとオリエスが駆け寄った。
「兄さん、やったな」
「よかったな。ヴァイル」
「ああ、ありがとう。オリエスも無事で良かった。うん?」
「あっ!」
二人の鎧が輝いた。
コーンコーンコーン……
「また音が聞こえる」
オリエスは高く響く木を叩く音が聞こえた。
「何だこの音は?」
「何かを叩く音か?」
「えっ、この音が聞こえるのか?」
オリエスは驚いた。
「ああ、木を叩く音だ」
「これがオリエスの言っていた音か」
ヴァイルとクリュテは音に耳を澄ましながら言った。
二人の鎧が輝き頭上から光に包まれた人影が降りてきた。
「リシラナさん!」
オリエス達の前にリシラナが降りてきた。
「知り合いなのか」
ヴァイルが訊いた。
「はい。ガンザシフロの木の民……だった人です」
「だった?」
クリュテは呟いて半透明のリシラナを見た。
「オリエス、また会えましたね。そして剣と槍の騎士よ。初めましてリシラナです」
リシラナは二人に穏やかな口調で話しかけた。
ヴァイルとクリュテは高貴な振る舞いをするリシラナに一礼した。
「その鎧はかつて木の民を守った戦士達が自らの力を解放した姿です。恐らくバルザゲアの魔力で己の技だけが蘇ったのでしょう。しかしあなた達が彼らを人として敬い戦ってくれたおかげで鎧にかつての人の心を呼び覚ましたのです。本当にありがとう」
「いえ、私はただ必死に戦っただけです。本当に強かった。木の民には魔法だけでなく優れた剣士もいたのですね」
「私もです。槍の達人に会えた気分でした。そしてまだまだ自分の未熟さを痛感しました」
ヴァイルとクリュテはうつむいたまま話した。
「あなた達はとても気高い心をお持ちなのでしょう。仲間を守る志がとても高いと鎧が語っています。今、鎧の力が全て解放されました。あなた達は鎧の力で海の中でも戦えます。どうか聖樹と聖石を守って下さい」
「おお、それはありがたい」
「ありがとうございます」
「ここは町の兵士達が守ってくれるでしょう。さっ、二人はお行きなさい」
リシラナが言うとヴァイルとクリュテは一礼した。
「オリエス。フウリイさんはこの中だ。頼んだぞ」
ヴァイルはオリエスの肩に手を乗せた。
「わかった」
オリエスはうなずいた。
二人は港へ走って行った。
「オリエス、あなたのお友達のデアンはフウリイと共にいます。あなたは守るべき人を守って下さい」
「はい。行ってきます」
オリエスもリシラナに一礼して研究所へ走った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます