第21話 異界の王(3)
一行は更に進んで青白く輝く岩に囲まれた空洞に入った。
「何だこの光る石は……」
ノリゼンは岩肌の輝く石を取って眺めた。
「フフフ……ようこそ、この星の民よ」
空洞に声が響いた。
「うわっ、何だか嫌な予感がするぞ」
デアンが恐る恐る身構えた。
目の前の崖の向こうから巨大な手が伸びて地面にしがみついた。
「うわっ!」
「あんた、いちいちうるさいわよ!」
叫ぶデアンにパンジィが怒鳴った。
そしてその巨大な物体は立ち上がるように一行の前に現われた。
「で、でかい!」
端正だが邪悪な顔、両肩に禍々しい角、逞しい胸板と腕と足……
見たことのない巨大な生物にオリエスは驚いた。
「何だ、こいつは……」
「どうやら、魔物達の親玉だな」
ヴァイルとクリュテは舌打ちしながら呟いた。
「お前は何者だ!」
オリエスが叫んだ。
「我は……名前はない……どうしても呼びたかったら、そうだな今思いついた。《バルザゲア》と呼ぶが良い。暗黒の
低い声が空洞に共鳴して響いた。
「望み通りそう呼ばせてもらう。バルザゲア! お前は何者で何の目的でここに来たのだ」
ヴァイルが叫んだ。
「何者? そうだった。私はかつてどこかの星の王であった。その星が突然異界に吸い込まれた。星の民は皆死んだ。我は更に深い異界に吸い込まれて長い間漂っていた。気がついたらこの姿になっていた。それが突然外に弾け出されてこの星に落ちたのだ」
「それじゃ。この星に来たのは偶然なの?」
シュミルは叫んだ。
「偶然? わからない。だがこの星に根付いた聖なる木と石の力で我の魔力は更に高まる事を知った。そしてこの星を拠点にして他の星に攻め込む事に決めたのだ」
「そんな事をさせると思っているのか!」
ヴァイルは剣を構えて怒鳴った。
「ふん。お前達に何が出来るというのか。聖石と呼ぶ石の力もろくに扱えないお前達にな」
バルザゲアは左手の掌を開いた。
数個の聖石が乗っていた。
「聖石をどうするつもりだ」
クリュテが訊くと、
「こうするのさ」
バルザゲアは聖石を飲み込んだ。
「何だと!」
ヴァイルは驚いた。
バルザゲアの体がほのかに輝いた。
「フフフ、力が体の中から湧いてきた。この石があれば我は更に強くなるぞ」
バルザゲアの口元が微かに緩んだ。
「くそっ!」
オリエスは風の弾丸をバルザゲアに放った。
「ふん。こざかしい。まあいい。相手にしてやる」
「この化け物が!うおおおお!」
オリエスは剣に魔法をこめて振り下ろした。
大きな風の刃がバルザゲアに飛んだ。
「ふん!」
バルザゲアは風の刃を片手で受けて跳ね飛ばした。
「おみまいするわ!」
パンジィが火柱を放った。
「その程度か」
バルザゲアは火柱を手ではねのけた。
ノリゼンはヴァイルとクリュテとデアンに飛翔魔法を放った。
「よし、行くぞ」
ヴァイルのかけ声でクリュテとデアンが飛んでバルザゲアに襲いかかった。
「頭を狙うんだ!」
ヴァイル達が剣や槍を頭に突き刺した。
「効かんな」
バルザゲアは手ではねのけた。
「うああ!」
三人は弾き飛ばされながらも宙に浮いた。
「まずいな」
ノリゼンはパタホンの画面を呼び出した。
「潜入部隊、全員船に戻って待機しろ」
「通じたのですか?」
シュミルが訊いた。
「ああ、ここまで通信に必要な石を置いてきたからな。無駄な犠牲は出したくない」
「そうですね。ここは私達だけで!」
シュミルは白い光球をヴァイル達に放った。
「素早くなるやつだな。よし!」
デアンが飛びかかった。
「ふん!」
バルザゲアが手ではねようとしたがデアンは指先を跳ねて顔に短剣を投げた。
バルザゲアの顔に傷をつけた。
「少しはやるようだが、その程度か」
バルザゲアはデアンを力強く掴んだ。
「うわああ」
デアンは叫んだ。
「デアン!」
オリエスは叫んだ。
「ノリゼン、俺にも魔法を」
オリエスの声にノリゼンは魔法を放った。
「はあああ!」
オリエスは風の弾丸をバルザゲアの顔に放った。
「うっ!」
バルザゲアの力が緩んだ。
「今だ! ヴァイル!」
オリエスはヴァイルの剣に魔法を放った。
剣に風が渦巻いた。
「よし」
ヴァイルは剣を振り下ろした。
風の刃がバルザゲアの手首に当たった。
「うわっ!」
バルザゲアは痛みに掌を開いた。
デアンが気を失ったまま落ちていった。
「デアン!」
オリエスがデアンを抱きかかえて地面に降りた。
「ほお、我に魔力で立ち向かうとはなかなかやるの。だがこれでどうかな」
バルザゲアの体が淡く緑色に輝いた。
「この輝きはまさか……」
ヴァイルはハッとした。
「そこの騎士の思う通り聖石の輝きだ。聖石の加護を受けているお前達と同じだよ」
バルザゲアは両手を広げた。
「まずい!」
オリエスが叫んだ。
バルザゲアの両手から巨大な風の弾丸が連射された。
「うわああ!」
ヴァイルとクリュテは吹き飛ばされた。
ノリゼンとシュミルは目の前に白い光の膜を張り背後にパンジィが隠れた。
「もう無理だ」
「ええ、もうだめ……」
光の膜が消えて吹き飛ばされた。
「みんな!」
オリエスはデアンを担いでシュミル達の元に走った。
オリエス達は集まって身構えた。
「これでどうだ!」
バルザゲアは火柱と風を絡めてオリエス達に放った。
「それなら!」
オリエスは風の盾を張った。
「身を守るだけなら誰でも出来るぞ」
バルザゲアは無数の氷の矢を放った。
「くそっ! まずいぞ」
クリュテはかがんだまま叫んだ。
「それなら溶かすだけよ」
パンジィは炎の盾を作った。
氷の矢は炎で少しだけ溶けたが大部分は盾を突き抜けてオリエス達に降りかかった。
「うわああ!」
「きゃあああ!」
オリエス達は無数の氷の矢を受けて傷を負った。
「ここまで強力だと力押しでは勝てない」
ヴァイルは呟いた。
「ほお、負けを認めるか。ならば死ぬといい」
バルザゲアは黒い玉を掌に浮かべた。
「もうだめなのか」
クリュテが呟いた。
「いや、逃げる!」
オリエスは竜巻を作って皆を巻き込んで宙に浮いた。
「よし、それなら」
ノリゼンは球状の光の膜を張って仲間の体を包んだ。
「逃がすか!」
バルザゲアが黒い玉を放とうとした時、
「えい!」
シュミルが光弾を数発放った。
バルザゲアの顔の前で光弾がまぶしく飛び散った。
「うっ!」
バルザゲアは目を閉じた。
「逃がすかああああ!」
バルザゲアが叫ぶと地鳴りがした。
「うおおおおお!」
激しく吹く竜巻の中をオリエスは全力で魔法を放った。
竜巻は入口の空洞まで戻ると根元を貫いて更に上昇して海上に突き抜けた。
竜巻が消え光の膜が粒状に飛び散った。
オリエス達は海に落ちていった。
「オリエス!」
シュミルの声が聞こえたのを最後にオリエスは気を失った。
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