第20話 異界の王(2)

 クリュテが立ち上がった。

「これより聖樹の根元に侵入する。全員準備しろ」

 クリュテの声に兵士達が立ち上がって剣や銃を装備した。

 ヴァイルの潜水艇について行くようにオリエス達の船は聖樹の根元に取り付いた。

 根元は空洞になっており船体の横から通路を突き刺して通路の中から魔法で破壊して侵入した。

「よし全員入ったな」

「こちらも大丈夫だ」

 空洞の中でクリュテとヴァイルの部隊が合流した。

「カラカラに干からびている。聖樹の中ってこうなのか」

 デアンは樹皮が黒く乾いた空洞に驚いた。

「この聖樹だけだろう。普通の聖樹がこうなら町に空気を送れないからな」

 ノリゼンは乾いた樹皮を触って言った。

「でも何だろう。この空洞は自然に出来た感じじゃないわ」

「そうよね。通路みたいになっている」

 シュミルとパンジィも壁や地面を叩きながら話した。

「とにかく先へ行こう」

 ヴァイルの指示で一行は歩いた。

 程なくして広い部屋に出た。

「な、何だここは」

 クリュテは叫んだ。

 部屋の壁に黒くべったりした液状の物が張り付いていた。

 その液状に赤く細い光線が網の目状に走った。

 黒い液はうごめいてボタボタと地面に落ちると盛り上がって人の形になった。

「これがあいつらの正体か……」

 オリエスは剣を構えた。

「そのようだ」

 クリュテは背負った槍を持って構えた。

 あっという間に無数の魔物達が生まれて一斉にオリエス達に襲いかかった。

「全員、攻撃開始!」

 兵士達が剣や銃で魔物達を攻撃した。

 魔物がオリエス達に襲いかかった。

「なめんなよ」

 オリエスは剣に風を絡ませて横に振った。

 風が魔物達の頭に当たって後ろに吹っ飛んだ。

「おらよ!」

 デアンが素早い動きで魔物の頭を次々と突き刺した。

 頭の石が砕けて魔物達は次々と消えた。

「邪魔よ」

 パンジィは掌から火柱を伸ばして魔物を焼き尽くした。

「異界の者達よ。消え去りなさい」

 シュミルが白い光弾を放ち魔物の頭を吹き飛ばした。

 一行は戦ったが魔物達が消えてはまた壁の黒い液体から生まれて襲ってきた。

「ちっ、きりがないな」

 ヴァイルは戦いながら呟いた。

「それなら!」

「よし、手伝う!」

 パンジィとオリエスは風の渦と火柱を黒い液が張り付いた壁に放った。

 しかし効果はなかった。

「あの壁には魔法は効かないみたい。厄介だわ」

 パンジィは悔しがった。

「やむを得ない。ここは兵達が足止めして我々は先に進む。行くぞ」

 ヴァイルはオリエス達を呼んで部屋を走り抜けた。

「どうか皆さんご無事で!」

 オリエスの隣でシュミルは振り返って叫んだ。

 先に進むと魔物達が立っていた。

「待ち伏せか」

「最初からそのつもりだったのか。我々と同じ知能があるのか」

 ヴァイルとノリゼンは立ち止まった。

 その後のオリエス達も止まって身構えた。

「だが数が多いだけの雑魚だ。みんな俺に続け」

 クリュテは槍を構えて突進した。

「もう進むしかないんだ」

 オリエスも剣を構えて敵に突っ込んだ。

 こうして何度も敵と戦いながら一行は広い空洞に入った。

「出やがったか」

「ああ。だが今度は二匹だぞ」

 ヴァイルとクリュテが身構えた先に黄金の鎧と白銀の鎧を着た騎士が待っていた。


「相変わらず派手な鎧だな。高く売れそうだ」

 デアンは両手に短剣を持って構えた。

「腕力では我々はかなわない。シュミル殿は私と後方で支援を」

「わかりました」

 ノリゼンとシュミルは後ろに下がって集中を始めた。

「じゃあ、私とオリエスは彼らの後ろから魔法でやるわよ」

「ああ、そうだな」

 パンジィとオリエスも集中を始めた。

「金色は俺が止める。いくぞ!」

 ヴァイルの声でクリュテとデアンが突進した。

 黄金の騎士はヴァイルの剣を受けた。

「あの坊や達と違って俺の剣は一筋縄ではいかんぞ。この化け物が!」

 ヴァイルは素早い剣裁きで黄金の騎士に立ち向かった。

 騎士は後退しながらヴァイルの剣を受けた。

「初めてお目にかかれたがここで最後だな。銀色!」

 クリュテは白銀の騎士に槍を向けた。

「俺がいるのも。忘れなんよ」

 デアンが背後に回って鎧に短剣を突き立てた。

 鎧が固く剣を弾いた。

「げっ、やっぱり効かねえな。なら動きだけ止めるか」

 デアンは騎士の足を狙った。

 騎士がよろめいた。

「遅いよ!」

 クリュテが槍で激しく突いた。

 白銀の騎士は寸前でよけながら細い剣で槍をはねのけデアンを回し蹴りした。

「おっと」

 デアンは後ろに宙返りしてよけた。

 白銀の騎士は細い剣の柄を力強く握って柄を引き延ばした。

 剣が槍の形になった。

「なるほど。槍には槍でって事か。遠慮なくいくぞ!」

 クリュテは槍で騎士を何度も突いたが寸前でよけられた。

 隙をついたデアンの攻撃も効かなかった。

「あの銀色は素早いな」

 オリエスは呟いた。

「うおおおお!」

 クリュテは激しく槍で鎧を突いた。

 クリュテの槍がようやく鎧に当たった。

 コーン……

「えっ?」

 オリエスの頭に木を叩く音が聞こえた。

「くそっ、びくともしないな」

 クリュテの息が荒くなった。

「クリュテ兄様、癒やします!」

 シュミルは白い光弾をクリュテに放った。

 クリュテの体が楽になった。

「ほお、死神も癒やせるようになったか。変な気分だがまあいい。いくぞ!」

 クリュテは素早く攻撃した。

 騎士の動きが鈍くなった。

「隙が増えたな。化け物!」

 クリュテの槍が激しく鎧を突いた。

 コーン……コーン……コーン……

「これは?」

 オリエスは木の叩く音が白銀の騎士から聞こえるのに驚いた。

「どうしたのよ」

「音が……」

 オリエスはパンジィの不思議な表情に言葉を詰まらせて、

「いや、何でもない。とにかく足止めを!」

 風の弾丸を黄金の騎士の足下に向けて撃った。

(何であの騎士から? あの騎士も木の民なのか?)

 オリエスは一瞬考えたが頭を振って黄金の騎士に攻撃を続けた。

 クリュテが攻撃をする度に木を叩く音がオリエスに聞こえた。

(あの音は槍が鎧に当たる時に聞こえる……もしかしたら)

「パンジィ、金色の足止めを頼む」

「ちょっと。一人で無理だって」

 オリエスはパンジィの声を聞かずにクリュテの元に向かった。

「デアン、そいつの足を止めるんだ」

「言われなくてもやっているよ」

 デアンは足を攻撃した。

「両足を掴め!」

 オリエスは叫んで白銀の騎士に近づいた。

「ええい。死にませんように」

 デアンは言われるままに騎士の両足にしがみついた。

 騎士の動きが止まった。

「そこだ!」

 オリエスは鎧に手を触れた。

 コーン……コーン……

「やっぱり聞こえた。木の音だ」


(この槍を持つ強者と戦いたい……私は戦いたいのだ……邪魔しないでくれ……)


 一瞬だったがオリエスの脳裏に声が響いた。

「うわっ」

 デアンは蹴飛ばされて吹っ飛んだ。

 オリエスもとっさに身を引いた。

「クリュテ! こいつと一対一で戦ってくれ」

 オリエスは叫んだ。

「何だと!」

 クリュテは驚いた。

「頼む! よくわからないがこの鎧がクリュテと戦いたがっているんだ」

「よくわからんが、いいだろう。デアンは金色へ」

「オリエス、いいのか」

 デアンは心配そうに話した。

「ああ、クリュテならやれる」

「買いかぶってくれた礼になんとしても倒さないとな」

 クリュテは白銀の騎士と戦った。

「うおおおお!」

 クリュテは激しく槍で騎士に向けた。

 コーン……コーンコーンコーン

(間隔が短くなった。何が起きるんだ)

 オリエスはクリュテの様子を時折見ながら黄金の騎士へ攻撃を続けた。

 コンコンコンコンコン……

 オリエスの脳裏に木の音の叩く音が小刻みになった。

 ココココココココ……

 音が激しくなった。

「クリュテ!」

 オリエスが叫んだ。

「ああ、俺にもわかった。これで最後だ!」

 クリュテは槍を突いた。

 鎧に当たった槍が折れて地面に落ちた。

「だめだ! やられる」

 デアンが叫んだ。

「いや、大丈夫だ」

 クリュテは叫んだ。

 騎士の動きが止まった。

 鎧の中から黒い煙が体中から噴き出て消えると鎧が宙に浮いた状態になった。

「何なの?」

 パンジィは呟いた。

「鎧がクリュテの力を認めたんだ。あの鎧は生きているんだ」

 オリエスは答えた。

「ふん、羨ましい限りだな」

 ヴァイルは黄金の騎士と戦いながら呟いた。

 クリュテは鎧に触れた。

 鎧が緑色に輝くと部位毎に分解して地面に落ちた。

「これを着ろというのか」

 クリュテは紫の鎧を外して白銀の鎧をつけ、伸縮式の槍を手に取った。

「思ったより軽いな。いくぜ金色!」

 クリュテは黄金の騎士に襲いかかった。

 騎士はヴァイルの剣を振り払って宙に浮いて逃げた。

「くそっ手強い奴だった。俺が未熟なのか」

 ヴァイルは荒い息を立てて悔しがった。

「あいつはまた襲ってきますよ」

 オリエスは確信した。

「それにしても鎧がこういう事になっているとは」

 クリュテは鎧の堅さを調べながら話した。

「オリエス、よくわかったな」

「いや、木の叩く音が聞こえたから……俺にしか聞こえないけど」

 オリエスはノリゼンに話した。

「もう俺の知らない事ばかりで驚かされるよ」

「ここで起きている事は全部知らない事ばかりよ」

 パンジィは淡々とデアンに答えた。

「クリュテ兄様、よく似合っていますわ。その鎧が生きているなら名前をつけて差し上げたら?」

「お前の頭はどうなっているんだ……」

 シュミルの言葉にクリュテはため息をついて呆れた。




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