第18話 再びヴィエルシフロで(3)
その日の午後、オリエス達は治安局のレガルトに呼び出された。
「すまないが至急出発してくれないか。黒い聖樹の動きが活発化したようだ」
「そんな……」
一同は驚いた。
「わかりました。準備が整った兵士から順次出発します」
ヴァイルはそう答えると部屋を出た。
「私はオリエス達と同じ船に乗ります。ついてきたまえ」
オリエス達はクリュテと共に港に向かった。
「でっけー船だな。これで早く行けるのか」
デアンは大型の潜水艇を見て驚いた。
「これでも高速艇だからな。黒い聖樹まで1日で行けるよ」
「へえ、そうなんだ」
デアンとクリュテが話している横を通ってオリエスは船に乗った。
「私達は後ろに乗ればいいのかしらね」
「そうね」
船室ではシュミルとパンジィが歩き回っていた。
「オリエスはそこに座ってくれ」
「あ、ああ」
ノリゼンの指示でオリエスは3列目の席に座った。
後ろでは兵士達の声と船を乗り降りする足音がしていた。
船の中は立ってもまだ余裕がある程に天井が高く幅もかなりあったので人々が余裕ですれ違って行き来していた。
「おお、中は広いな」
デアンが船室に入ってきて驚いた。
「じゃあ、俺ここ」
デアンは通路を挟んでオリエスの隣に座った。
「いよいよだな」
「ああ、そうだな」
「何だ顔色がさえないぞ。具合悪いのか」
「いや、そういうわけじゃないさ」
「まあ深く考えても仕方ないさ」
デアンは笑って言った。
オリエスは微笑んで「ああ」と答えた。
二人は黙って船室の様子を見ていた。
「何だか座り心地悪いわ。あらここにいたの」
パンジィが話しかけた。
「何だ、お前は後ろの部屋にいたのか」
「ええ、前にいても退屈だしね。シュミルと部屋でくつろいでいたわ」
「なあ、俺達も部屋に行こうぜ」
デアンはオリエスに話しかけた。
「えっ? 何か言ったか」
「お前なあ……もういいよ。俺も後ろに行く」
デアンは立ち上がって奥の部屋へ向かった。
「どうしたのよ」
「いや、何でもないよ。ああ奥の部屋に行くんだっけ」
「あんたは来なくていいわ。何か考え事しているみたいだし」
パンジィは軽く手を振って歩いて行った。
オリエスは壁にもたれて目を閉じた。
「どうしたんだ」
ノリゼンが話しかけてきた。
「いや、ちょっと色々考えて。でも大丈夫だから」
オリエスは目を閉じたまま答えた。
「よかったら操縦席に座ってみるか?」
「えっ」
オリエスは目を開けた。
ノリゼンが微笑んだ。
「いいのか」
「ああ」
オリエスはノリゼンに案内されて操縦席の部屋に入った。
操縦席の前の壁は透明になっていて港の様子が見えた。
「へえ、こんな風になっているのか。普通の船と同じ位に単純だな」
オリエスは席に座って機器類を見た。
「兵器がついているだけで後は操縦系だけだから大して変わらんよ」
「ふ~ん、しかしこれだけの重量の船体を高速で進むって事は相当な推進力が必要だな」
「オリエスは船乗りになりたいのか?」
「いや、父さんと同じ水道技師。船は外の給水装置の点検に必要だから使い方を覚えた程度だけど」
「そうなのか。作戦が終わったらヴィエルシフロの水道施設を見に行くか」
ノリゼンが話すとオリエスの指の動きが止まった。
「作戦が終わったらか……うまく終わるといいな」
オリエスは呟いた。
「怖いのか?」
「怖いのかさえもわからない。さっき木の民の女の人に会ったんだ。その人が言うには聖樹が怯えているんだって、黒い聖樹に」
「ほお、そういう事がわかるのか」
「俺には聖樹の気持ちはわからないけどさ、ただあの黒い聖樹には何かありそうな気がするんだ」
「それはみんなが思っているさ。あの禍々しさは普通じゃないし破壊できるかもわからない。でも何かをやらないと次に進めない。そうだろ?」
「意外とノリゼンもデアンと同じで直感で動くんだな」
オリエスは笑った。
「そりゃ人間だからな。それに理屈ばかりで物事が動いていたら何でも理屈で解決できるだろう? でも実際はそうじゃない。いくら考えてもわからない事ばかりだよ」
ノリゼンも笑って答えた。
「おっ、見習い水道技師がまたお勉強か」
部屋に兵士が入ってきた。
「ええっ、意外と単純で驚いています」
「そりゃそうだろう。難しかったら俺なんかに操縦できないさ」
「でもこんな巨大な船で高速で進むから制御が大変じゃ」
「まあな。それは長年の勘ってやつだ。お前達の魔法みたいなもんだろう」
「はあ……」
兵士の例えにオリエスは苦笑した。
「お前達を運ぶのは俺の役目、お前達はそこで自分の役目を果たせばいいだけさ。頼んだぞ」
「はい。ノリゼンもありがとう」
オリエスは答えて部屋を出て席に座った。
しばらくしてクリュテと数人の兵士が船室に入ってきた。
「よし、出発だ」
クリュテが操縦席の兵士に指示した。
「了解。出発します」
兵士の声と共に船底から振動して海中に潜った。
「始まる……」
兵士達が並んで座っている船室でオリエスは呟いた。
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