第11話 ヴィエルシフロの戦い(3)
「貴様、何者だ」
兵士が男に訊くと、
「俺はヴォリラ、先代の町の長、レスペルク様の命令でレガルト様を探している」
とヴォリラはもじもじしながら答えた。
「レスペルク様は無事か。良かった」
「兵士達が研究所で魔物に変えられているようなんだ。助けてくれ。俺の仲間も捕まっているんだ」
「ああ、わかっている。何とかしたいが……」
ヴォリラの懇願に兵士は答えを渋った。
「それなら私達で行くわ」
シュミルが二人の会話に入った。
「シュミル様、よろしいのですか?」
「当然よ。この町の兵士達が魔物に変えられているのを町の長の娘として見過ごすわけにはいかないわ。ヴォリラだったかしら。案内してくれる?」
「はい、こちらです」
「あなたたちは作戦を続けて、みんな行くわよ!」
シュミルはヴォリラと共に走り始めた。
「ああいうところは流石だな」
「そりゃあレガルト様のお嬢様だからね。一応お婿さんを募集しているみたいよ。何なら名乗り上げてみたら?」
「お、俺がシュミルの……う~ん無理だな」
前でデアンとパンジィが話していたがオリエスの耳には入らなかった。
(あの騎士がまた来たら倒せるのか……)
オリエスは痛みが残る腕を押さえながら考えた。
「あなた、まだ傷が……」
「ああ、俺は木の民らしいから癒やしの魔法があんまり効かないそうだ。でも大丈夫だ」
心配するシュミルにオリエスは苦笑いしながら答えた。
「木の民か。ちょっと待ってね」
シュミルは両手で光球を作ってオリエスの腕に当てた。
「これ位の魔法なら傷は塞がりそうね。痛みは無理かも知れないけど」
「ありがとう。楽になったよ」
オリエスは礼を言った。
一行は建物に隠れながら歩いて研究所に辿り着いた。
研究所は3階建てで大きく横に広がっていた。
シュミルがドアの前に立つと赤い光線が出てゆっくりドアが開いた。
「さあ入って」
シュミルに誘導されてオリエス達は中に入った。
中は薄暗い廊下が伸びていた。
「ヴォリラ、どこに行けばいいの?」
「中に入った事がないからわからない」
シュミルの問いにヴォリラはたどたどしく答えた。
「見かけより言葉使いが幼稚なんだな」
「すまんな。馬鹿なもんで……」
「とりあえずまっすぐ行こうぜ」
呆れたデアンがシュミルに言うと、
「地下室があるならまずそっちへ行くわ。そこに兵士達が閉じ込められているかも知れないから」
シュミルが小声で答えた。
黒装束の魔物が部屋から出てきた。
「もうその格好は見飽きたよ」
「本当鬱陶しいわ」
デアンは剣を振りパンジィは炎の弾丸を撃った。
「邪魔だ。雑魚が」
オリエスは剣で突き刺した。
一行は次々と魔物を倒しながら廊下を歩いて行くと地下へ下りる階段があった。
階段を下りてすぐに幾つか小部屋があり、その中から人の声が聞こえていた。
「どうやらここに閉じ込められているようだな」
「多分魔物が一緒にいるでしょうね」
オリエスとパンジィは身構えて部屋のドアをたたき割って入った。
思った通り黒装束の魔物が数体いた。
魔物達が襲いかかってきた。
オリエスは剣で次々と魔物達の頭を刺した。
黒装束がドサッと床に落ちた。
オリエスは捕らえれた兵士達の手錠を剣で壊した。
「他の人達もこんな感じで閉じ込められているのね。みんな手分けして助けて」
シュミルが言うと一行は一斉に各部屋に入り魔物を倒して兵士を救い出した。
兵士達が部屋から出てきた。
「おお、ヴォリラ。助けに来てくれたのか。すまない」
「みんな無事か?」
「2階で兵士が魔物達に改造されているんだ。すぐに行ってくれ」
「わかったわ。みんなは逃げて! 2階に行くわよ!」
ヴォリラ達の会話を聞いていたシュミルが叫んだ。
2階に上がると黒装束の魔物達が襲いかかってきた。
「邪魔だ」
デアンは剣で突き刺して魔物達を倒した。
剣を装備した魔物が数体襲ってきた。
「うおおおっ!」
ヴォリラが突進して大斧で魔物達を倒した。
「お前、馬鹿力すげえな」
デアンは驚いた。
「確かに馬鹿だけどよお」
「ヴォリラ、あんたは強いよ」
オリエスは戦いながら言った。
一行は魔物達を倒して奥の研究室に入った。
「うっ……」
オリエスは手で口を押さえた。
部屋は黒い棒状の物があちこちから突き出ていた。
数人の裸の兵士が黒い鉄棒で手足を刺されて床に横たわっていた。
壁に裸で吊されている兵士もいた。
「何て酷い事を!」
パンジィは絶句した。
「くそお!」
デアンは研究室の魔物達を倒した。
「大丈夫か!」
2階に上がってきた兵士達が叫んだ。
「ちょうど良かったわ。この人達を運んで! あと他の部屋も探して」
シュミルは指示した。
研究室に眠っていた兵士を他の兵士達が全員運び出した。
「全部ぶっ壊すわよ!」
パンジィが炎の柱を棒状の突起物に撃った。
オリエスも風の弾丸を放った。
研究室が爆音を立てて燃え広がった。
「行くわよ!」
一行は研究所を出た。
目の前に黄金の鎧の騎士が降りてきた。
「またこいつか!」
「くっ!」
デアンとオリエスは剣を構えた。
騎士の背後から改造された兵士達が襲ってきた。
「くそっ! 人間同士なら戦えないとでも思っているのかよ」
デアンは怒って次々と兵士達の頭を剣で刺した。
兵士達は灰になって消えた。
「酷い。外道にも程があるわ!」
シュミルは消えていく兵士を見て叫んだ。
「お前も魔物に変えられたのならここで倒してやる」
オリエスは騎士に剣を向けて走った。
騎士はすばやく動いてオリエスをよけた。
「そうか。あの剣さばきは人間でないと出来ない……」
シュミルは呟いた。
「ならば、癒やしてあげるから消えなさい!」
シュミルは癒やしの魔法を騎士に放った。
魔法が騎士に当たって動きが止まった。
「止まった!」
オリエスは鎧の首の隙間から剣を刺した。
「手応えがない。どこなんだ。こいつの弱点は」
(弱点だと? こいつにそんな物はないぞ)
オリエスの頭の中に誰かが話しかけた。
(フフフ、この鎧はこの世界に伝わる最強の防具だそうだ。お前には倒せないぞ)
「だ、誰だ……」
オリエスは周りを見回して叫んだ。
「危ない!」
パンジィが叫んだ。
黄金の騎士が立ち上がった。
「くそっ! 逃げるしかないか」
オリエスは風の弾丸を騎士の足に連打した。
騎士の姿勢が崩れているうちに後退した。
「逃げるわよ!」
シュミルが叫んだ。
パンジィが炎の弾丸を連射して一行は作戦拠点に逃げた。
拠点には先に着いた兵士達がうずくまっていた。
「みんな大丈夫?」
シュミルが声をかけた。
「シュミル様すみません。みんながあんな事になって」
「謝る必要ないわ。あなた達が助かってよかった。それにしてもよくも兵士達を……あいつら絶対に許せないわ!」
シュミルの目から涙が流れた。
2階の研究室にいた兵士達は改造される前で何とか無事だった。
ヴォリラの案内でオリエス達は町の地下水道を抜けて町はずれの湖のそばにあるレスペルクの家に入った。
「レスペルク様、無事でよかった」
「シュミル殿もよくここまでたどり着いたな」
白髪の老人レスペルクはシュミルに優しく話しかけた。
「それでお父様は?」
「うん。治安局のどこかに幽閉されているそうだが具体的な場所がまだわからんのだ」
「そうですか……」
シュミルはがっかりした表情で答えた。
「誰なんだ。あの爺さん?」
「前の町の長のレスペルク様よ」
デアンとパンジィが話している脇をオリエスは歩いて、
「あの……黄金の鎧を着た騎士がいるのですが、あれは何ですか?」
レスペルクに訊いた。
「う~ん。あの強い奴か、どうやらアレがここを襲っている魔物達の親玉らしいな。正体はさっぱりわからんが」
「それじゃ、あいつを倒せば魔物は追い払えると……」
オリエスが訊いたが、
「簡単に倒すと言っても何人もあいつにやられているからな……」
一緒についてきた兵士が呟いた。
「でもこのままでは町の被害が広がるばかりです。早く作戦を立てないといけないわ」
シュミルが険しい表情で言った。
「実は作戦は立てたんだが非常に危なくてな」
「どんな作戦です?」
「治安局の上のドームを破壊して水浸しにしてレガルト殿を救出する作戦じゃ」
シュミルの問いにレスペルクは腕を組んで答えた。
「ドームを壊すって……」
「おい、それってやばいんじゃ」
「脳筋の長らしい勇ましい作戦ね」
オリエス達は驚いた。
兵士達もざわついた。
「わかったわ」
シュミルが目を閉じて答えた。
「レスペルク様、その作戦でいきましょう」
「おいシュミル、本当にいいのか」
デアンは毅然と振る舞うシュミルに恐る恐る訊いた。
「このまま破壊が進めば復興に時間がかかるわ。大丈夫よ」
「シュミルが大丈夫って言うならいいけどよ……」
(シュミルって本当に強いんだな。人を動かす人間ってこうなんだ……)
オリエスは黙ってシュミルを見た。
「さっき来た潜水艇の無線機でクリュテ兄様の部隊に連絡します。そこから爆撃のタイミングをレスペルク様に連絡します。盗聴されているかも知れないので合言葉は……」
シュミルは作戦の段取りをレスペルク達に説明した。
「俺、ちょっと散歩してくる」
オリエスはレスペルクの家を出た。
暗闇にほのかな街灯が光る湖のそばでオリエスは座った。
対岸に見える治安局の方向からは爆撃の音が響いていた。
「何か嫌になるよな」
デアンが歩いてきてオリエスの隣に座った。
「ああ、何だかな」
オリエスは小声で答えた。
「まさか、ヴィエルシフロがこんな酷い事になっているとはなあ」
「なあデアン、人を殺した事があるか?」
「えっ?」
オリエスの唐突な問いにデアンは戸惑った。
「俺さ、魔物に変えられた兵士を倒す度に思うんだ。俺は人を殺しているんだって」
「そんな事ないぞ! そりゃ見た目は人間だけどよ。中身はもう魔物なんだ」
デアンは怒鳴った。
「それはわかっているさ。だがあの兵士達の目を見ていると何だか人間っぽくて嫌なんだ」
「それは……俺もあいつらの目は嫌だよ」
デアンは思い出しながら言った。
「おお、ここにいたのか」
ヴォリラがオリエスの横に座った。
「さっきはありがとうな」
「いや、いいんだ。あんたのおかげで助かったよ」
オリエスは礼を言った。
「俺、お前から強いって言われて嬉しかったぜ。俺、昔は強かったけど大怪我して頭で細かいこと覚えられなくなってさ。治安部隊を辞めてレスペルク様の身の回りの世話をやっているんだ。それでもよくヘマして叱られてるけどな」
「ああ、そうだったんだ」
デアンはヴォリラが年上の割には言動がたどたどしいのに納得した。
「なあ、ヴォリラは魔物に変えられた仲間を殺せるのか」
「おい、何てこと訊くんだよ」
オリエスの問いにデアンは怒った。
「俺は人間を殺すのが怖い。あいつら人間じゃないけど人間に見えるんだ」
オリエスの重い口調にヴォリラは一息ついて答えた。
「治安部隊って時には町で酷い争いになった場所へ行くんだ。そこでは人間同士が殺し合って道端に死体が転がっていたりするんだ。どうして人間がここまで争っているんだって最初の頃は思ったよ。でもある時思ったんだ。それも人間なんだって」
オリエスとデアンは黙って話を聞いた。
「正直、魔物に変えられた仲間を殺すのは辛い。でも俺が殺せば他の仲間が殺さなくてすむ。それに身勝手だけどそいつを殺してやったらそいつも楽になるんじゃないかって思っているよ。せめて人間らしい最期を迎えさせてやりたい」
「そんな風に考えられるあんたはやっぱり馬鹿じゃないよ」
オリエスは微笑んで言った。
「そうか。何か褒められると嬉しいな」
ヴォリラは少年のような笑顔で喜んだ。
三人はしばらく話してレスペルクの家に戻った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます