第7話 曳航
二人を乗せた潜水艇はフラスコンテを目指して北上していた。
「おい、何か点滅しているぞ」
「うん? 通信かな」
操縦しながらオリエスはボタンを押した。
「こちらヴィエルシフロ護衛艦。貴殿の船を確認したくこのまま《エルテルミ》まで向かってくれ」
通信機から低い男の声が聞こえた。
「えっと……エルテルミってどこですか?」
オリエスが通信機に話しかけると、
「わかった。曳航するから減速しろ」
「何だよ。偉そうに」
高圧的な言い方にデアンがむかついて言った。
「偉そうで悪かったな。こちらの船を前につける。減速するんだ」
男のきつい命令口調にオリエスもむかついたが、おとなしく従って船の速度を緩めた。
右側から大きな潜水艇が現われた。
「うわっ、でけえな。さすがヴィエルシフロの船だな」
潜水艇が近づいてオリエス達の船体が揺れた。
「くそっ何だよ!」
オリエスは船体を整える為に操縦桿を左右に細かく振った。
《ヴィエルシフロ》──この星アクアティリスの治安維持本部がある都市である。
各都市には治安維持の警護団がありその本部があるのがヴィエルシフロだ。
この都市の治安維持部隊は先進的な技術で作られた船や兵器を使い各都市で起きる犯罪抑止に日夜務めていた。
ヴィエルシフロの巨大な潜水艇が吸盤付のワイヤーを発射した。
オリエス達の船に吸盤が張り付いてそのまま曳航された。
「何かあったのか」
「さあな。巡回しているだけかも知れないな」
エルテルミに着いた。
二人は潜水艇を降りた。
紺色の制服を着た男が三人、オリエス達に近づいてきた。
「まだ子供か。どこへ行くつもりだね」
「フラスコンテへ……家族に会いに」
オリエスは複雑な表情で答えた。
「この石版に左手を乗せて名前とどこの町に住んでいるか言いなさい」
青い帽子を被った男が白く光る石版を差し出した。
二人は順番に石版に手を乗せて言われた通り答えた。
「身分照会完了。間違いないです」
帽子の男が言うともう一人の男がデアンをじっと見た。
「お前の胸当ての傷、随分新しいな。何かあったのか」
「いや、これは色々もめたりして大変だったんだよ」
(黒装束の事は秘密って事か)
デアンの言葉でオリエスは目を伏せた。
「ポルバラトにゼハンプか……眠り病にかかった町だな。もしかして君達の家族も」
「ええ、眠ったままです」
男の言葉が癇に障ってオリエスは無愛想に答えた。デアンも目を閉じた。
「そうか。旅の途中で悪かったな。俺の家族も病気になってな。だが気をつけるんだぞ。悪い黒装束の集団がこの辺をうろついているらしいからな」
「黒装束……」
デアンがハッとした顔になった。
「何だ知っているのか」
「いや、そういう噂をあちこちで聞いて気持ち悪いなって」
デアンは怯えた振りをして答えた。
「あっあの、その人達って怖い人達なんですか」
オリエスもとぼけた振りをして訊いた。
「得体の知れない奴らだ。とにかく見かけても近づいたら駄目だぞ」
「はい。ありがとうございます」
「家族に会えるといいな」
さっきまで高圧的だった男が優しく言った。
オリエスの表情が曇った。
「じゃあ、出発していいですか?」
デアンが訊くと最初に話しかけてきた男が、
「ああ、構わんよ。まだ旅先は長いから気をつけてな。あっ隊長。こちらは異常なしです!」
と港に入ってきた青い鎧を着た金髪の男に叫んだ。
「ご苦労。こちらも異常なしだ。出発する」
その男は大声で言うと潜水艇に乗り込んだ。
オリエスは男の後ろ姿を見た。
「じゃあな」
男達は潜水艇に向かった。
「全く……行こうか」
「おう。何か感じ悪くてむかつくぜ」
二人も潜水艇に乗り込んだ。
隣の乗り場に停泊していた潜水艇がゆっくり沈んでいった。
それからしばらくしてオリエス達の船も出発した。
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