第3話 異変
次の日、オリエスは校庭で剣技の練習をやっていた。
細い木刀でレックスと戦っていた。
周りで他の生徒達の木刀が交わる音が響いていた。
「そこだ!」
「何を!」
オリエスが横に振った木刀をレックスは軽くよけた。
「おらよ!」
レックスが木刀を振り下ろし、オリエスが木刀でかわした。
二人は激しく木刀を交えた。
「そこまで!」
男の教師が叫んだ。
急に静かになった。
「レックスは相変わらず強いな」
「へっ、お前も少しは腕上げろよ。受けてばっかりじゃないか」
「俺は守りに力が入れているからな」
オリエスの屁理屈にレックスは呆れた。
「お前なあ、剣は攻めないと意味がないんだぞ。だからお前は……あれ、眠くなってきた」
話している途中でレックスは目をこすりながら言った。
「何だ寝不足か? それで戦えるなんて強いよ」
オリエスは汗を拭きながら言ったが、レックスは何も答えなかった。
「あれ?」
オリエスがレックスを見ると横たわっていた。
他の生徒達や教師も「眠い」と言いながらゆっくり地面に横たわった。
「レックス! しっかりしろ!」
オリエスがレックスの体を揺すって叫んだが返事はなかった。
「おい、しっかりしろ」
「ね、眠い……」
近くの生徒の体を揺すりながらオリエスは呼びかけたが、みんな次々と意識を失った。
「まさか眠り病か!」
オリエスは急いで校舎に戻った。
教室では生徒や教師達が机にうつ伏せになったり床に倒れていた。
「エリーセ!」
昨日遊んでいたエリーセも教室の床に横たわっていた。
「そんな……」
オリエスが黙ると教室の中はまるで誰もいないかの様に静まりかえった。
異常な光景に呆然としていたオリエスはハッと我に返って急いで校舎を出た。
道端や家の前で人々が倒れていた。
「母さん!」
オリエスはドアを開けて叫んだが返事はなかった。
急いで広間に入るとレイナが横たわっていた。
「母さん! 母さん!」
レイナの体を揺すったが何の返事もなかった。
「父さんは?」
オリエスは左手の掌を力強く開いてパタホンの画面を呼び出した。
「父さん、父さん!」
画面に呼びかけてもバルフェの声はなかった。
画面を閉じたオリエスの目から涙が溢れた。
「どうしたら……どうしたらいいんだ」
オリエスはひざまずいた。
「あっそうだ。緊急通報」
オリエスは呟いてパタホンの画面を掌から出した。
「やっぱり駄目だ。返事がない」
ポルバラトの住民が眠っているなら町の治安を維持する警護団に連絡しても無駄なのはわかっていた。
「そ、それならモノシフロに!」
シフロの名が付いた都市には緊急連絡網で通話が可能だった。
「こちらモノシロフ通信局です。緊急通報ですか?」
若い女の声がした。
「ポルバラトで眠り病が起きました。みんな眠っています。俺はオリエス。ここにいても無駄なのでブルフォレの親戚の家に家族を連れて行きます。何かあったら連絡下さい」
オリエスは用件を言って画面を閉じた。
「母さん、一緒にサルクおばさんの家へ行こう」
横たわるレイナをオリエスは背負って家を出た。
潜水艇のある港まで行く途中、オリエスは人々が横たわっているのを見た。
(眠っている人達はずっと夢を見ているのか?)
ふと疑問に思った。
「そういえば、何で俺は眠らずにいられるのか」
疑問に続いて湧き上がった新たな疑問にオリエスは戸惑った。
「体質か? 体質の差で病気になるのならとっくに調べがついて治療が始まっているだろう」
レイナを背負いながらぶつぶつ呟いているうちにオリエスは港に着いた。
空いている小型の潜水艇にレイナを乗せて隣接する上下水処理施設に入った。
「やっぱりだめか」
青白い照明に照らされた処理場は人々が倒れて機械のブォーンブォーンと響く音と水の流れる音以外は何も聞こえなかった。
角の制御室の明かりを見つけてオリエスは走った。
ドアを開くと人々が倒れていた。
「父さん!」
床に倒れているバルフェを見つけて体を揺すったが意識はなかった。
オリエスは父を背負って処理場を歩いた。
カタン……
何かが倒れる音がした。
オリエスは音がした方を見た。
「誰かいるのか!」
オリエスの声に誰も応えなかった。
「気のせいか」
オリエスはバルフェの体を背負ってゆっくり歩いた。
港でバルフェを潜水艇に乗せてハッチを閉めようとした時、オリエスの頭上を何かの影が横切った。
ハッと見上げると黒いゆらゆらした物が飛んでいた。
黒い何かは町への通路に飛んで行った。
「何だ。あれは」
オリエスは気になりながらも潜水艇に乗り込んだ。
「父さん、母さん、一緒にサルクおばさんに会いに行こうね」
操縦席の後ろの床に二人を横たわらせてオリエスは操縦を始めた。
潜水艇はゆっくり水中に潜った。
港を出た潜水艇は海底を這うように進んだ。
聖樹の根が長く張り巡らされてそれに沿って海路が作られているので根に沿っていけば迷う事はなかった。
潜水艇は学校で運転技術を学んでいれば誰でも操縦できた。
海底資源の白い鉱物から様々な物が作られていた。
この鉱物と聖樹の絶え間ない酸素の供給があるから人間が海底で文明を築けたと言っても過言ではない。
オリエスがボタンを押すと目の前の壁が透明になって外の様子が見えた。
マジックミラーのような機能で都市のドームの壁面にも使われている。
沢山の魚が泳いで恒星コロナボスの光が海底まで届く美しい景色は心を癒やされるだろうが、今のオリエスにとって目の前の景色は何の癒やしもなくただ焦りを募らせるだけに過ぎなかった。
「ブルフォレまで直行したいが燃料が足りない。モンタンスで燃料を補給するか」
潜水艇は
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