26話 話し合い
水曜日。
そんなわけで、俺と
そりゃあ勿論、一緒に寝てるところを茜に見られたんだ。恥ずかしいに決まってる。
そう言えば、何故あの時間に茜は俺の部屋に来たのだろうか。
そんな疑問は胸の奥底に消え、俺は今、茜たちと共に登校中だった。
正直、今日から学校に行くのが少し億劫になってしまっている。
理由は体育祭実行委員のサポートをしなければならないからだ。
まったく、俺はそんなのに時間を費やしている暇はないのに。
まぁ、茜も一緒にやることになってるし、どうせサポートだ、
などと考えていると、息吹高校の校舎が見えてくる。
「はぁ……めんどくさい一日にならないように……」
そう呟くと、茜が袖をくいくいっと引っ張る。
「ん? どうした茜」
俺は茜のいる右側を向き訊ねる。
「お兄ちゃん、なにか忘れてませんか?」
「なにか? 今日ってなんかあったっけ?」
茜に言われ、今日のことについて考える。
実行委員以外は用事はなかった筈だ。
「いえ、今日じゃありません。思い出してください。今週中ですよ」
茜にそう言われ、俺は今週の今日を含めた残り四日の用事を思い出す。
そう言えば、明日って五月十五日だよな。
「あぁ、明日は凉ちゃんの誕生日だな」
そう言うと、茜はぷくーと頬を膨らませる。
可愛い。
茜に睨ませた。
どうやら、そう言うことじゃないらしい。
「えっと、つまり茜は『自分の誕生日は忘れ掛けてたのに、どうして凉ちゃんの誕生日は覚えてるんだ』ってことが言いたいんだろ?」
そう言うと、茜は静かに頷く。
「ごめんってば。最近色々あったからって、茜の誕生日を忘れてたのはホントに悪いと思ってる」
「むー」
茜は唸る。どうやら、今の謝罪では許してくれないらしい。
「そうだな。それじゃあ、今日の帰りは凉ちゃんの誕生日プレゼントを買った後、デートするか」
そう言うと、茜は膨れっ面を満面の笑みに変える。
「デートですか?」
「おう、デートだ」
茜は更ににやけ面になる。
と、辺りに息吹高校の生徒の姿が見え始めた。
このままだと、他の奴等にだらしない茜の姿を見せることになってしまう。
これはまずい。茜のこんな姿を見れるのは、俺と妹たちだけなんだ。なんとか避けなければ。
そう思い、俺は茜の左頬を引っ張る。
「いひゃいれす」
茜はにやけ面を止め、いつもの清楚っぽい雰囲気を纏う。
俺は気紛れに、茜の頬を軽くつつく。
ぷにぷにしてて、なんと言うか気持ち良い。
「おにぃひゃん?」
ぷにぷに。
「おにぃーひゃん」
ぷにぷに。
「おにぃひゃんっ」
ぷにぷにぷにぷに。
「ちょっ、どうしたんですかいきなりっ!」
茜は俺の指を掴むことでつつくことを防ぎ、声を上げる。
「いや、ごめん。なんか茜の頬って、ぷにぷにしてて気持ち良いから」
そう言うと、茜は頬を赤くして体をうねらせる。
「もう、そう言うのは二人っきりでしてくださいよ♪」
「そうだな。また今度、思う存分ぷにぷにさせてくれ」
そんなことをしていると、俺たちは息吹高校の校門前に着いていた。
そこで|光月《》と
教室で、俺と翼、
二人は主に部活のことを話すことが多い。
俺は勿論
「そう言えば、今日から体育祭実行委員が始まるね」
翼は今思い出したかのようにそう言う。
俺はその言葉に「はぁ」とため息を吐く。
「どうしたんだい? 葉雪は実行委員じゃないだろ?」
と、このクラスの実行委員が訊いてくる。
「いや、かすみんに頼まれて、実行委員の手伝いをすることになったんだよ」
そう言うと、翼は「なんだ」と言う。
「別にいいじゃないか。茜ちゃんも一緒なんだろ? それに、
「なんだそりゃ」
俺と翼が実行委員のことについて話していると、奏が不貞腐れた様に割り込んでくる。物理的に。
「もー! 私だけ入れない話はここでおしまいっ!」
俺と翼は笑いながら「分かったよ」と返すと、別の話をし始める。
それから五分程して担任教師が教室にやって来て、朝の
いつもの連絡に付け加え、体育祭に向けて運動やらを怠るなと言うお言葉も頂戴した。
競技どころか体育祭の練習すらしないのに、運動はしろと、なんだかわけが分からない。
そうしている間にHRは終わり、皆一時間目の準備を始める。
俺もそれに倣えで準備をし、一時間目の授業を迎えた。
◇妹◇
昼休み。
今日も俺と茜は弁当片手に『旧生徒指導室』に来ていた。
勿論、目の前にはパイプ椅子に悠々と座っているかすみんがいる。
「なぁ、かすみん、今日はなんで俺たちを呼んだんだ?」
俺の問いに、かすみんはニヤリと笑う。
「いやなぁ、今年の体育祭は面白いことになってくるな、と思ってな」
面白いこと、か。
「具体的に言えば?」
「それは内緒だ。あと、今日の話し合いはまず競技から決めるからな。放課後までに幾つか案考えとけよ」
競技か、楽しめるモノがいいよなぁ。
そう思っていると、茜はバンッと机を叩き、興奮気味に口を開く。
「借りノモ競争は絶対しましょうね!」
「借り物競争か、確かに盛り上がるだろうけど。当日ありそうな物を予測するのって地味に難しいよな」
そう言うと、茜は人差し指を立て左右に振る。
「ちっちっち、甘いですよ、えぇ、とても甘いです。いいですかお兄ちゃん、〝借り物〟ではなく〝借りモノ〟です。なにも物に限らなくてもいいじゃないですか」
なるほど、つまりは借り者でもアリと。
「まぁ、盛り上がるだろうな」
「そうでしょう、そうでしょう」
茜は満足気にそう言う。
「それは学年別共通競技ってことでいいか? あと二つほど学年別共通競技と、何個か学年種目を作ればいっか?」
なんだか適当だなぁ。
そう思うも、別段他の意見は思い付かないので俺はなにも言わない。
──きゅぅぅぅ。
「……」
「……」
「……」
今の可愛らしいお腹の音は、誰だろうなぁ。
俺とかすみんは同時に茜を見る。
「えっ、えっと……私、です」
茜は恥ずかしそうに告白する。
その姿が可愛すぎて、俺は茜を抱き締めた。
「はふぅっ!?」
茜は突然のことに驚き、
が、すぐに嬉しそうに表情を緩め、奇妙な笑い声を漏らす。
「にへへへっ♪」
なんかもう、すっごい可愛い。
俺は茜を抱き締めたまま、頭をゆっくりと撫でる。
「…………お前らな、学校での不純異性交遊は禁止と言われなかったのか?」
かすみんは呆れを含んだ声音で訊ねてくる。
チラリとかすみんの方を見ると、かすみんは頬を膨らませていた。
どうやら、先程のことは建前で、本当は羨ましいらしい。
俺は茜を解放すると、パイプ椅子に座る。
「さて、昼休み終わる前にちゃっちゃと食べるか」
俺はそう言い、昼食を食べ始めた。
茜とかすみんも弁当箱の蓋を開き、朝食を食べ始める。
たまには教室以外で食べるのも、悪くはないと感じた。
◇妹◇
更に時過ぎ放課後。
いつもならすぐに茜と共に帰るのだが、体育祭実行委員と言う鎖が俺と茜を学校に縛り付ける。
俺と茜、それと翼と
小宮さんとは、
部活はバレー部で副部長を務めているらしい。多分強いのだろう。
それはさておき。
PTA研修室は四階にある。つまり、一年生の階の更に上だ。
四階はホントに色々ある。正直帰るときが大変そうだ。
そんなことを思っている間に、俺たちはPTA研修室に着いた。
「失礼しまーす」
何故か俺が代表で開けることになり、適当にそう言い扉を開ける。
中にはまだかすみんしかいなかった。
かすみんは『□』形に並べられた机の、窓際の方に座っていた。
なんと言うか、この机の並びってドラマとかの会議室でよく見るよな。
そんな下らないことは放っておいて。
「おう、早いな」
「まぁな」
俺は手短にそう返すと、かすみんの二つ隣の椅子に座る。
そして茜は俺の隣に座る。
翼と小宮さんは、俺たちから見て左側の机に着く。
他のクラスの実行委員はまだ来ていないので、俺はかすみんに些細な質問をする。
「なぁ、なんで今年は会議室じゃないんだ? 去年はそうだって聞いたけど」
「あぁ、今は別のことに使ってるからな、仕方なくPTA研修室になったんだ」
別のこと、か。俺としてはそっちの方が興味あるんだが。
そうしてる間に、どんどん実行委員は集まっていき、間もなくして話し合いが始まった。
「さて、まずは競技からな。こっちの方ででたのは借りモノ競争だ」
かすみんはそう言い、茜がホワイトボードにペンで『借りモノ競争』と書く。
「借りモノ、か。どうしてカタカナなんだ?」
翼は俺に向かって訊ねてくる。
いや、発案者俺じゃないんだけどなぁ。
そう思いながらも、俺は茜の言っていたことを口にする。
「物に限らず、者でもありにするためだ」
「なるほど……」
なんと、こんな適当な説明で翼は納得した。
他のクラスの実行委員もうんうんと頷いている。
なんでそんなずくに納得できるんだよ。
と思いつつも口には出さない。
「それで、なにか他の案はないか? 少なくともあと四つ五つは欲しい」
そう言うと、一年生? の男子が手を上げる。
「えっと、無難にリレーがいいと思います」
「まぁ、そうだよな」
かすみんは軽く返し、茜は黙々とホワイトボードに『リレー』と書き込む。
それから幾つか意見が出された。
ホワイトボードには『借りモノ競争』、『リレー』、『男女別騎馬戦』、『障害物競争』、『三人四脚』、『パン食い競争』、『コスプレ競争』、『綱引き』、『長縄跳び』と、一般的なモノが多い。
「さて、この中でどれをやるか、多数決でいいよな?」
かすみんの問いに、皆頷く。
「それじゃあ多数決取るぞ──」
そして多数決の結果、『借りモノ競争』、『リレー』、『男女別騎馬戦』、『三人四脚』、『コスプレ競争』に決まった。
今更なのだが、『コスプレ競争』ってなんだよ。
が、そんなことを訊ねる前に最初の話し合いは幕を閉じた。
「さぁ、お兄ちゃん、行きましょうっ!」
話し合いが終わり、校門を出たところで茜がそう言う。
「あぁ」
俺は茜の横に並ぶ。
茜は俺の右腕に自らの左腕を絡めてくる。
今は制服だから少し恥ずかしいが、今くらいはいいだろう。
そう思い、俺と茜は放課後デートを始めた。
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