23話 何事もない日
ランジェリーショップでの件から二日。
あっという間に木曜日になった。
この間に、
つまりは何事も起きていないのだろう。
そして今は昼休み。
俺は今、
かすみんに頼まれ、去年までの体育祭の資料を集めていたのだ。
理由は、かすみんが今年の体育祭の担当なのだ。
詳しいことは知らないが、担当になった教師は、各学年各クラスから男女二人ずつ選出される体育祭実行委員と共に、体育祭の流れや種目決めなどをしなければならないらしい。
俺と茜は実行委員ではないが、かすみんに頼まれたので仕方ない。
いや、まだ実行委員決まってないけど。
「お兄ちゃん、私になにか隠し事してませんか?」
部屋の隅々から過去の体育祭の資料を探していると、突然茜が訊ねてくる。
「隠し事? そんなのあったか?」
はて、今特に隠してることはないと思うのだが。
隠し事と言われ、全く出てこなかったわけではないが、どれもどうでもいいことなので、茜が気にする筈がない。
俺が頭を悩ませていると、茜はニヤリと笑う。
「それじゃあ、連絡先見せてください♪」
連絡先、その言葉を聞き、茜の言う〝隠し事〟がなんなのか理解できた。
茜は、月出里のことを直感的に察しているのだろう。
なんて超人だ。と思ったが、いつものことだと俺は切り捨てる。
まぁ、今は月出里のことをどう説明するかだな。
「ほら、連絡先だ」
俺はスマホの画面に連絡先を表示し、茜に渡す。
「ふむふむ……お兄ちゃん、この月出里さんって、何方ですか? 私の記憶が正しければ、先週はありませんよね?」
まずなんで先週時点での俺の連絡先を知ってるんだよ。と突っ込みたくなるのを抑え、俺は理由を説明する。
「元同級生だ。茜も何度か会ってると思うぞ? あの真面目ちゃんな女子。ついでにクラス委員だった」
そう説明すると、茜は「あー」と声を上げる。
「あの人、うん、思い出した。それで? なんでお兄ちゃんはその人と連絡先を交換してるの?」
茜は距離を詰めながら、満面の笑みで訊ねてくる。
だが、目は笑っていない。
茜がヤンデレモードに入った。
「色々面倒なことがあったんだよ。一から説明するから止まれ。ステイ」
そう言うと、茜は立ち止まり、その場にしゃがんだ。
……まるで犬の様に。
「いいか? 実はな──」
約三分程で、日曜日の出来事を説明すると、茜は立ち上がり口を開く。
「なるほど、それでは仕方ないですね。はい。お兄ちゃんは優しい人ですからね」
なんとなく、拗ねたような口調で茜はそう言う。
多分、自分に言い聞かせているのだろう。
茜は暴走することがよくあるからな。
「茜に説明しなかったのは悪いと思ってる。まぁ、だからと言ってはあれだが、我が儘を一つ聞いてやる。但し、可能な限りでな」
そう言うと、茜はパァと笑顔を見せる。
「我が儘ですか、そうですね──ってお兄ちゃん、さらっと我が儘と言いましたね? そこはお願いと言うのが適切だと思いますけど?」
……茜って、たまに言葉にも拘るよな。
「別に、どっちでもいいだろ?」
「よくありません。私としては、お兄ちゃんにベッドの上で『ワガママな妹だな』って言って弄んでほしいんです」
真顔でさらっと物凄いことを言ったよこの子。
「バカ。俺はそんなことしねぇよ」
そう言うと、茜は頬を膨らませた。
「そろそろいいじゃないですかぁ。焦らしプレイもそろそろ限界ですよぉ~」
「はいはい。今は資料をかすみんの所に持って行きましょうねー」
俺は茜の言葉を無視して、体育祭の資料を纏め、資料室を出た。
◇妹◇
かすみんの頼まれ事で昼休みは潰れ、茜とイチャつく時間はなくなってしまった。
あぁ……ダルい……疲れた……
俺は五時間目の授業を、ずっとこの調子で受けていた。
あぁ、明らかに疲労が出てる……なんで茜とイチャイチャしなかったんだ俺っ!
俺はひたすら自問自答を繰り返し、午後の授業を
俺の疲労がピークになった頃、六時間目の授業の終わりを告げるチャイムが鳴った。
あ、後は
俺は残り僅かの体力を振り絞り、なんとかHRを乗り切った。
待ちに待った放課後。
俺は自分の机に伏せていた。
「む、無理……動けない……」
俺は体を起こすことなく、情けない声を上げる。
「はははっ、がんばれよ
それから五分程経ち、茜は教室にやって来た。
俺はなんとか体を起こし、茜の元に向かった。
「わ、私とイチャイチャできなかったくらいで、ここまで消耗するなんて、お兄ちゃんはヘンタイです」
俺の様子を見て茜はそう言う。
だが、茜も疲労も見て取れる程に酷かった。もしかしたら俺よりも消耗してるかもしれない程に。
変態はどっちだか……
勿論二人ともだとは分かっているが、別に誰かに迷惑を掛けているわけではない。
つまりは自重する気は微塵もない。
などと俺は誰に聞かせるでもなく、心の中で呟いていた。
◇妹◇
帰宅中にさんざん茜とイチャイチャしたため、俺の体力は満タン通り越してオーバーフローしていた。
いやぁ、やっぱ偉大だわ。なにがって? 勿論
だって、そこら辺で売ってる栄養剤や栄養ドリンクより効き目あるよ? どうして誰も気付かないんだ。
などと下らない考えはさておき。
「さて、宿題さっさと終わらせてしまおう」
俺のそう呟き、鞄の中から教材と配布されたプリントを取り出した。
今回の宿題はやたらと量が多かったな。
俺は宿題をやり終え、そう感じた。
「いつもの二倍以上はあっただろうなぁ」
なんせ、いつもより二十分以上時間使ったし。
だがまぁ、予習復習を怠らない俺にとっては、簡単だったけどな。
「さて、どうするかな。……日曜買ったやつ読むか」
俺は椅子から腰を上げ、本棚に向かう。
そこから、俺は一冊の本を取り出した。
俺はそのままベッドに横になる。
「『妹神話』、どんなストーリーなんだろうな」
俺は期待に胸を膨らませ、一ページ目を開いた。
「──なんだこれ…………めっちゃ面白い」
俺は『妹神話』一巻を枕横に置き、そう呟いた。
もう、説明が難しい程面白かった。
圧倒的文章力に、読者を引き込むストーリー性。そしてなにより素晴らしいのが、神々の力を有した妹たちの戦い!
特に、フレイヤの力を顕現させた妹とネプチューンの力を顕現させた妹の戦闘シーン。あれは迫力が素晴らしかった。
「いやぁ、面白すぎてあっという間に読了していまった」
今でも興奮が収まらないぜ。
チラリと時計に目をやると、時刻は七時半になっていた。
「あっ、夕飯」
俺は慌てて部屋を飛び出し、リビングに向かった。
「葉雪にぃさん、遅かったですね」
リビングに着くと、夕飯を作り中の
「ごめんっ、ちょっと本読んでて時間忘れてた」
俺は急いで台所に行き、手を洗う。
「えっと、今日の夕飯はなに?」
俺は手を拭きながら楓ちゃんに訊ねる。
「えっと、野菜炒めと唐揚げです」
「了解」
俺はそれだけ返し、作業に入った。
そらから程なくして、茜たち全員がリビングにやって来た。
またか。こう言うのは作りたてが美味しいのに。
俺はそう思いながら、二人分の野菜炒めと唐揚げを別の皿に取り、ラップを掛けて冷蔵庫に入れた。
その間に茜たちが協力して夕食の準備をしていた。
その他は大人しく自分の席に座っていた。
うんうん、妹たちが協力してると、なんだか嬉しい気持ちになるな。
そう思いながら、俺は手を洗い自分の席に着いた。
◇妹◇
夕食を食べ終え、妹たちは今風呂に入っている。
妹たちが風呂から上がるまで暇なわけだが。
「よし、『妹神話』の二巻を読もう」
さっきから続きが気になってウズウズしてたんだよ!
俺は本棚から『妹神話』の二巻を取り出し、ベッドに横たわる。
「さて、二巻はどんな展開になるのかな」
俺は期待からそう呟き、一ページ目を開いた。
「──うっは! なにこれっ、そんな技あったのかよ!」
俺は山場を読み終え、興奮のあまり声を上げる。
「いやぁ、まさか
俺は内容を思い返し、だらしない笑みを浮かべる。
いやぁ、『妹神話』って神作だよなぁ。
「お兄ちゃん」
「うわっ!?」
余韻に浸っていると、突然茜が抱き付いてきた。
「あ、茜っ、部屋入る時はノックしろよ!」
そう言うと、茜は頬を膨らませる。
「何度もノックしましたよぉ~。それなのにお兄ちゃん全く返事してくれないから」
えぇ、まじかぁ。そんなに集中してたのか、俺。
「それはごめん」
俺は素直に謝る。
「お兄ちゃんがそんなにのめり込むなんて、そんなに面白いんですか? それ」
茜はそう言い、『妹神話』の二巻を指差す。
「あぁ、すっげぇ面白い。茜も読むか?」
「そうですね。寝る前に少し読んでみたいです」
「おう。それじゃあこれ一巻な」
俺は枕横に置いてあった『妹神話』一巻を茜に渡す。
「それじゃあ、お風呂空きましたからね」
茜はそう言い、『妹神話』片手に部屋から出ていった。
「ふぅ、まぁ二巻丁度読み終わったし。風呂入るか」
俺は二巻を本棚に戻し、タンスから寝間着を取り出し部屋を出た。
◇妹◇
私は部屋に戻ると、ベッドに飛び込んだ。
「おっと危ない」
そうだ、今はお兄ちゃんの本を借りてるんだった。
「さて、お兄ちゃんが絶賛する本、どれ程か」
私はそう呟き、表紙を見る。
「『妹神話』? どんな話なんだろう」
私は期待に胸を膨らませ、表紙を捲った。
「なにこれすっごい面白い!」
それが、『妹神話』の感想だった。
「力を失ったリクを守る為に、神と契約して他の神纏者たちと戦うミィ……なんて素晴らしいんですかっ!」
いやぁ、お兄ちゃんの選ぶモノは全部面白いですねぇ。
ふと時計を見ると、既に時刻は十一時を回っていた。
「おっと、もうこんな時間ですか。なにかに熱中していると、時間の経過が速く感じますね」
私はベッドから起き上がり、机に本を置いた。
「明日の朝に返しましょう。今日はもう遅いですし」
私は欠伸を噛み殺し、部屋の電気を消す。
そしてベッドに横になり、目を閉じた。
「……おやすみなさい」
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