22話 らんじぇりーとらぶる
早朝の日課を
それから少しして、茜と
と、思いつつ、俺たちは雑談をしながら学校へ向かった。
高校の前に着き、光月、朝日と別れ、校舎に入る。
「それじゃあ、お兄ちゃん、また昼休み」
「おう、待ってるよ」
二階の階段のところで言葉を交わし、俺は教室に向かう。
「おっはよー!」
扉を開け、俺は大きな声で挨拶をする。
クラスメイトたちは、笑いながら挨拶を返してくる。
「おはよう、
「おっはよ、ユキくん」
「おう、おはよう」
俺は
「なぁ二人共、
そう訊ねると、奏が手を上げ口を開く。
「はいはーい、覚えてるよー。兎白ちゃんでしょ、あの真面目ちゃんだった」
「あぁ、そうだよ」
「……あぁ、あの月出里さんか。それで、いきなりどうしたんだよ。葉雪が妹さん以外の人のことを訊いてくるなんて、珍しいね」
少しにやけながら、翼はそう言う。
「いや、まぁな。一昨日ショッピングモールで偶然出会って」
「へー、兎白ちゃんどうだった?」
「ギャルになってた」
俺は、奏の質問に簡潔に答える。
「…………え?」
奏は少し遅れて
「ええっ、あの兎白ちゃんがギャルになってたの?」
「あぁ、そうだぞ。ってか、月出里ってギャルに憧れてたじゃん」
「確かに、そんなこと言ってたような」
俺の言葉に、翼が賛同する。
「あの兎白ちゃんが、ギャルに……」
そう言い、奏は床に伏せる。
いや、そんなにショックなのかよ。
「なぁ奏、月出里の連絡先いるか?」
そう訊ねると、奏はバッと顔を上げる。
「いいの? やったぁ! …………なんでユキくんが、兎白ちゃんの連絡先知ってるの?」
一度は喜んだ奏だが、俺が月出里の連絡先を知っていることを疑問に思ったのか、訝しそうに訊いてくる。
「色々あってな、教えてもらったんだよ。それより、月出里の連絡先いらないのか?」
「……いりますー」
奏はそう言うと、おもむろにポケットからスマホを取り出す。
俺はスマホの画面に月出里の連絡先を表示し、奏に見せる。
「はい、登録終わったよー」
奏はそう言い、スマホをポケットに戻す。
俺はホーム画面に戻し、ポケットに入れる。
「なんか相談とかされるだろうから、乗ってあげろよ?」
「勿論だよー」
それから、俺たちは担任の教師が来るまで、いつも通り雑談をしていた。
◇妹◇
午前の授業が終わり、待ちに待った昼休みとなった。
「あぁ……今日はいつもより当てられる回数が多くなってる気がする……」
俺は背伸びをしながらそう口にする。
実際、先週に比べたら三、四回近く当てられる回数が多くなっている。
まぁ、予習もバッチリだし、当てられても問題なく答えられるんだけどな。
「お兄ちゃん、来たよー」
「お兄ちゃん先輩、こんにちはー」
自分の席でぼーっとしていると、茜と
俺は手を上げ、二人を手招く。
それから翼を含めた四人で昼食を食べ始めた。
奏は部活のなんかがあるから、一緒に食べれないと言っていた。
部活頑張ってるんだなぁ。
「なぁ翼、サッカー部は昼休みになんかあったりしないのか?」
「そうだな、大会が近いとたまにあるかもしれないけど、基本はないよ」
俺の質問に、翼は手を止めずに答える。
それでも、食べながら喋らないところ常識があると思う。
「大変なんだなぁ」
そう言うと、翼は「当たり前だろ」と笑う。
「お兄ちゃん、今日帰りに寄りたいところあるんだけど、一緒に来てくれる?」
弁当も殆ど食べ終わった頃、突然茜が訊ねてくる。
「いいけど、光月と朝日を家に送った後でもいいか?」
「はい、大丈夫です。後、司音ちゃんもいます」
茜がそう言うと、司音ちゃんはコクコクと頷く。
「おう、分かった」
俺は最後のおかずを飲み込み、そう答えた。
──キーンコーンカーンコーン。
丁度そこで、昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴った。
「それじゃあ、お兄ちゃん、また放課後ね」
そう言い、茜と司音ちゃんは教室から出ていった。
茜たちと入れ違いで帰ってきた奏は、「明日は朝練ギリギリまでやるってー」と項垂れていた。
◇妹◇
更に時間が過ぎ、気付けば放課後。
俺は茜と司音ちゃんを迎えに、一年三組の教室に向かった。
三階ですれ違う生徒、つまり一年生からの刺さるような視線を耐え、一年三組の教室に辿り着くと、俺は開かれた扉から教室内を覗く。
「あっ、お兄ちゃん」
茜は俺を見付けると、司音ちゃんと共にこちらに向かってくる。
その際、他の生徒、特に男子からの視線が凄まじかった。
「それじゃあ行きましょう♪」
茜は俺の右腕に自らの腕を絡ませ、上機嫌にそう言う。
そのせいで、ここにいる男子たちは全員機嫌が悪いが。
いや、まだ茜だけならここまではならなかったのだろう。
俺はそう思いながら、茜の反対側を見る。
司音ちゃんが、俺の左腕に自らの腕を絡めているのだ。
司音ちゃんは茜に劣らず優れた容姿をしている。
こんな可愛い二人を連れている俺に対する男子の印象は、さぞかし悪いのだろう。
「どうしましたか、お兄ちゃん先輩」
俺が見つめていたためか、司音ちゃんは頬を赤らめながら訊ねてくる。
「いや、なんでもない」
俺はそう返し、前を向いた。
後ろは向かない。男子どもの視線がすごいから。
光月と朝日を家に返し、俺たちは駅前の繁華街に来ていた。
「なぁ茜、今日はどこに行くんだ?」
未だに目的地を知らされていないので、今の俺には不安しかない。
何故って? 茜がなにも言わないときって言ったら、なにか企んでるときだからさ。
「そうですね~、お楽しみです」
茜は焦らすようにそう答える。
流石に教えてくれないか。なら──
「司音ちゃんはどこに行くか知らない?」
俺は今度は司音ちゃんに訊ねた。
「すみません、私も知らないんです」
司音ちゃんは申し訳なさそうに答える。
茜の方を見ると、ニヤニヤと笑っていた。
なるほど、俺が司音ちゃんに訊くことは想定内ってことか。
仕方なく、俺は茜に腕を引かれるまま、繁華街の中を進んでいった。
「ここですっ!」
あれから五分程歩いたところで、茜は一つの店の前で止まった。
俺は店の看板を見て──絶句した。
「ら、ランジェリー、ショップ……」
そう、茜に連れてこられたのは、ランジェリーショップ。つまり、女性用下着を専門としている店だった。
まじかぁ……下着かぁ……選ばされるんだろうなぁ……はぁ。
「あ、茜ちゃんっ! こ、ここってっ」
司音ちゃんは慌てていた。物凄く。
「ほら、なに慌ててるの? 早く入るよ」
茜は俺と司音ちゃんの手を掴み、店の中へ足を進めた。
案の定、店に入った途端、茜は様々な下着を手に取り、俺に見せてくる。
清楚な感じな物から、少し大人びた際どい物まで。
茜が身に付けているのを想像すると、清楚な物でもえっちぃ感じになるんだが、何故だろう。
司音ちゃんも、いつものテンションを取り戻し、茜に負けずと様々な下着を見せてくる。
お互いに、被らないよう意識しているのだろう。一度も同じ下着を見ることはなかった。
てか、店員さんの視線がすごい。いや、悪い方ではなく、なんというか『面白いものを見付けた』みたいな視線だ。
「お兄ちゃん、こんなのどうですか?」
茜が持ってきたのは、純白にレースの付いた下着だった。
「うーん、茜の印象とは、ちょっと違うかなぁ」
俺はその下着を見て、冷静に判断する。
勿論、茜たちだから冷静でいられるのだ。もし妹たち以外だったら……って、そんなことはまず起きないか。
てか、今更なのだが、司音ちゃん、
司音ちゃん、魅音ちゃんはともかく、かすみんは俺より年上だろ。……身長は下だが。
「お兄ちゃん先輩、これ、どうですか?」
司音ちゃんが見せてきたのは、水色と白の縞模様の下着だ。
「んー、司音ちゃんにはもっと違う──これとか似合うんじゃないか?」
俺は純白の下着を渡す。
茜が持ってきたのとは、また違ったものだ。
まぁ、どんな違いがあるのかと訊かれたら、答えられる自信はないけど。
「……なるほど、お兄ちゃん先輩は私にこういうのを求めてるんですね」
「いや、求めてるわけじゃないけど」
俺はそう言ったが、司音ちゃんが聞いているのかは分からなかった。
「お兄ちゃん、ちょっとこっち来てください」
店の奥の方から茜に呼ばれ、俺はその方へ向かった。
さっきまでは気付かなかったのだが、俺たち以外にも女性客がいた。
なんと言うか、その人たちの視線がすごかった。
まるで、初々しいカップルを見るような目だった。
「茜ー、どこだ?」
ここら辺から声がしたと思ったのだが。
俺は辺りを見渡し、茜を探す。
「えいっ」
「うわっ!?」
突如、後ろの試着室から腕を引っ張られた。
俺はそのまま、試着室の中へと連れ込まれる。
「あ、茜……っ!」
俺は茜を叱ろうと振り返り、硬直した。
「どう、お兄ちゃん。似合う?」
なんと、茜は下着姿だった。
茜が身に付けているのは、黒地に赤い飾りの付いた下着だった。
しかも、上下共に布面積が広いわけではなく、なかなかにエロいことになっている。
「…………」
正直、俺は見惚れていた。
「お兄ちゃん、似合う?」
茜の声に、俺は意識を取り戻す。
「あ、あぁ、すごい似合ってるぞっ」
俺は顔を背けながら答える。
似合い過ぎて、直視できない……
「お兄ちゃん、なんで目を逸らすの?」
茜は不思議そうに訊ねてくる。
そりゃあ、茜が可愛いから。とか答えると、後が大変だ。
「ねぇ、お兄ちゃん、もしこの姿で誘惑したら、ノってくれる?」
茜は体を密着させ、上目遣いで訊ねてくる。
「……そんなわけ、ないだろ」
俺は荒ぶる気持ちを抑え、そう答える。
「そっか。ふふん♪ それじゃあこれ買おっ♪」
そう言い、茜は下着を脱ぎ始めた。
「っ!? お、俺は外で待っとくからなっ!」
俺はそう言うと、急いで試着室から出た。
この時俺は懸念していた。ここがランジェリーショップであることを。もう一人、一緒に来ていた者がいることを。
「…………」
「…………」
「………………」
「………………」
「……………………」
「……………………」
俺と司音ちゃんは、無言で見つめ合う。
だが、その光景に甘酸っぱい雰囲気は存在しない。
……き、気まずいっ!
「お待たせしました──って、お兄ちゃん、司音ちゃん、なに見つめ合ってるんですか?」
制服を着て出てきた茜は、俺たちのこと状況を見て、笑いながら訊ねてきた。
いや、笑ってない。目が笑ってない。そして威圧が、なんか怒ってる……
「いや、なんでもないぞ……?」
「うん、なんでもないよ?」
俺と司音ちゃんは、声を揃えてそう言った。
「そうですか……それじゃあ、これ買ってきますね」
茜はさっき身に付けていた下着をわざとらしく見せ、そのままレジに向かっていった。
「わ、私も下着買ってきますね」
司音ちゃんはそう言い、茜の後を追ってレジに向かった。
◇妹◇
今日、何事も無く私は家に帰ってくることができた。
「はぁ……今日は疲れたなぁ……」
私はそう呟き、ベッドに飛び乗った。
勿論、部屋着に着替えて。
「
私は一昨日会った旧友の名前を口に出し、枕に顔を埋める。
なんと言うか、良くも悪くも昔から変わってなかったなぁ。
「はぁ……」
私はため息を吐き、体を起こす。
「……勉強しよ」
私はモヤモヤした気持ちを忘れるために、勉強を始めた。
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