17話 ドキッ♪ イチャラブ妹ルーレット① 

 土曜日。

 カーテンの隙間から射し込んでくる日の光に、目が覚めた。

 俺は目を擦りながら、時計で時刻を確認する。

 

「六時半、か……」

 どうやら、いつもより長く寝てしまっていたらしい。

 俺は二、三度深呼吸をし、完全に目を覚ます。

 さて、行ってくるか。

 俺は寝間着からシャツに着替え、その上からジャージを着る。

 そのまま、俺はなるべく音を立てないように扉を開け、玄関に向かった。

 

 

 その後ろ姿を、|茜(あかね)が見ていたとは知らずに。

 

 

   ◇妹◇

 

 

 公園での体操を減らし、俺は短い時間で家に戻った。

 

「おかえりなさい、お兄ちゃん」

 玄関に入ると、茜が迎えてくれた。

「おう。おはよう、茜。今日は早いんだな」

「はい。|皆(・)で遊ぶのが楽しみで、早く起きちゃいました」

 へぇ、茜って楽しみで早起きなんてするんだな。

「はい、タオル」

 茜はそう言い、タオルを渡してくる。

「ありがと」

 俺はそれを受け取り、顔を拭く。

「お兄ちゃん、今日は|楓(かえで)さんが朝食を作るって言ってましたよ」

「おおっ、早くシャワー浴びてこなきゃ。飯が作れねぇ」

 そう言うと、茜は微笑む。

「たまには、楓さんに任せてみてはどうですか?」

「いや、妹の世話をするのは兄の仕事だから、譲れない」

「それなら~、妹のアレのお世話もしてくださいよ~」

 アレってなんだよ、アレって。

「断る。ろくなことじゃないだろ」

 そう言うと、茜は頬を膨らませる。

 俺は茜の頭をポンと叩き、部屋に戻った。

 

 着替えを持って、急いで脱衣所に向かう。

 着替えを籠に入れ、汗でびちょ濡れになった衣類を洗濯機の中に入れる。

 シャワーで汗を流し、五分足らずで風呂場を出る。

 バスタオルで雑に体を拭き、着替えの服を着て、俺はリビングに向かった。

 

 

 リビングに入ると、台所では楓ちゃんが朝食を作っていた。

「おはようございます、葉雪にぃさん」

「おはよう、楓ちゃん」

 俺は楓ちゃんに挨拶を返し、台所に行く。

「手伝うよ」

「おねがいします」

 そのまま、俺と楓ちゃんはいつも通り二人で朝食を作った。

 

「おはよー!」

「おはよう、ございます……」

 朝食を作り終えたところで、|蓮唯(れんゆい)ちゃんと|凉(すず)ちゃんがリビングに入ってくる。

「おはよう」

 俺は二人に挨拶を返しながら、テーブルに皿を並べていく。

 ついでに、|光月(みつき)と|朝日(あさひ)はソファーに座ってニュースを観ている。

 いつからそんなに真面目になったんだ……

「って、あれ? 茜は?」 

 そう口にしたと同時に、茜がリビングに入ってきた。

「おはようございます♪」

「お、おはよう」

 何故か茜は頬を朱色に染めていた。

 熱……ではないな。もしかして、またなにかしてたのか?

 まぁ、いいか。

「よし、食べるぞ」

 そう声を掛けると、皆自分の席に座る。

 全員が座ったことを確認して、合掌する。

「いただきます」

『いただきます』

 俺に続き、六人が声を揃える。

 なんかもう、慣れたな。

 

 

   ◇妹◇

 

 

 朝食を食べ終え、俺は一度部屋に戻った。

「八時半か。なにしよう」

 まず、茜が呼んだ人が何時に来るかも聞いてなかったな。

「まぁ、別にいっか」

 そう呟き、本棚からラノベを取り出す。

 そしてページを開こうとした瞬間──

 

 ─ピーンポーン。

 

 と呼び鈴が鳴った。

 早くないか?

 と思いながらも、俺はラノベを本棚に戻し、玄関に向かった。

 

 

「はいはーい」

 ガチャと扉を開けると、そこにいたのはかすみんだった。

 かすみんはゴスロリを纏っていて、いつもの教師服からは想像できない子供らしさが醸し出されていた。

 てか、かすみんってゴスロリ持ってたんだな。

「おはよ、かすみん」

「あぁ、おはよう。朝早くからすまんな」

 そう言いながら、かすみんは入ってくる。

「あぁ、葉雪、多分もう二人程来ると思うから、お前は外で待っていろ」

「えぇ……分かったよ」

 そう返事をすると、かすみんはスタスタと廊下を進んでいった。

 リビングの場所、分かるのかな?

 俺はかすみんの後ろ姿を見て、そう思った。

 

 

 俺は靴を履き、門に寄り掛かって人を待っていた。

 暫くして、かすみんの言う通り、こちらに向かってくる二人の人影が見えてきた。

 まぁ、なんとなく想像はしてたけどね。


 大きい方の子がこちらに気付き、手を振りながら走ってきた。

 

「お兄ちゃん先輩、おはようございますっ!」

 司音(しのん)ちゃんは元気良く挨拶をしてきた。

「おう、おはよう」

 俺は司音ちゃんに挨拶を返し、司音ちゃんを観察する。

 司音ちゃんは黄色を基調にしたタンクトップにホットパンツと、完全に真夏日の服装だ。

 まだ少し肌寒いと思うんだけどな。

 

 そして、俺はもう一人の方へ目をやる。

 やはり、と言うべきか、もう一人の少女は|魅音(みのん)ちゃんだった。

 

「おはよう、魅音ちゃん。久しぶりだね」

「お、おはようございます、葉雪さん」

 魅音ちゃんは恥ずかしいのか、モジモジしながら挨拶を返してくる。

 魅音ちゃんの服装は、ピンク色のシャツに白のパーカー、そしてミニスカートと、確かに少し恥ずかしいかもしれない。

「うん、可愛いよ、魅音ちゃん」

 そう言うと、魅音ちゃんは顔を真っ赤にして慌てる。

「あ、ありがとう、ございます……」

 なんだろう、小動物みたいで可愛いな。

 そう思っていると、司音ちゃんが不満気に声を上げる。

「ぶぅ~、なんで私には言ってくれないんですか?」

 おう、魅音ちゃんだけ感想を言ったのがダメだったのか。

「うんうん、可愛いよー」

「うわー、この人適当だよ。乙女心が傷付く」

 よほほ、と悲しそうなフリをする司音ちゃん。

 でも、頬が上がっているところを見ると、司音ちゃんも楽しんでるな、と思う。

「さぁ、入ろうか。茜たちが待ってる」 

 二人は「はい」と返事をすると、俺に続いて門を潜る。

 途中、二人は何度も驚きの声を上げていた。

 そうだよな、やっぱり驚くよなっ! ……最近慣れてきてたから、こんな反応されると笑ってしまう。

 そう思いながら、俺たちは家へと入っていった。

 

 

   ◇妹◇

 

 

 リビングに入ると、既に皆スタンバイしていた。

 茜たちは、人生ゲームのようなものを囲むように床に座っており、茜の隣が空いていた。

 あそこに座れってことかな。

 そう思い、俺は茜の隣に座る。

 司音ちゃんと魅音ちゃんは、更にその隣に座った。

 

「それで、茜、これはなんだ?」

 俺は人生ゲーム擬きを指差し訊ねる。

「これはですね」

 茜は一度言葉を区切り、

「『ドキッ♪ イチャラブ妹ルーレット』です!」

 と、自慢気に言い放った。

 ……なんだろう、名前からして嫌な予感しかしない……

 そんな俺を無視して、茜がゲームの説明を始める。

「ルールを説明します。

 これは『お題カード』です。合計百枚程あると思います。

 このカードの中から、お兄ちゃんがランダムで一枚引いてください。

 次に、この『妹ルーレット』を回してください。針のところで止まった妹とお題を|熟(こな)してもらいます。

 お題によっては人数が変わりますので、その時はその人数分回してください。

 説明は以上です」

 茜の説明が終わると、妹たち(?)が「キャー!」と声を上げる。

 多分喜びの声だろう。

 いや待て、なんだそのゲームは。

「それじゃあ始めましょう! お兄ちゃん、早速第一回目を!」

「待て待て待て、落ち着け。なんだそのゲームは。俺はやらないぞ?」

 そう言うと、茜はニヤリと笑う。

「いいんですか? もし断れば、お兄ちゃんの恥ずかしい話をこの場で暴露しますよ?

 そして月曜日には学校で『私とお兄ちゃんは肉体関係を持ってるの』って言いますよ?」

 やめて怖いっ! 社会的に抹殺されるっ!

「……し、仕方ないな、やってやるよ」

「葉雪さん、声が震えてるよ」

 分かってるよ魅音ちゃん! でもね、言わなくていいよ!

 

「さて、それじゃあ始めましょうか。『ドキッ♪ イチャラブ妹ルーレット』をっ!」

 

 ……それ、フルネームで言うのね。

 

 

   

「さぁ、お兄ちゃん、一枚目、どうぞ!」

 そう言い、茜はシャッフルした山札を指差す。

「おうっ」

 俺は覚悟を決め、一番上のカードを引く。

 

「えっと、なになに──『妹一人に手錠を掛け、三ターン放置』──……なんだこれっ!?」

 手錠!? なんでここで手錠が出てくるの!?

「おや、早速ハード目のやつを引きましたね。

 さぁ、妹ルーレットを回しましょう!」

 ゴクッ、と誰かが息を飲む。

「いけっ!」

 俺は勢い良くルーレットを回す。

 数秒程回転し、どんどん減速していく。

 そして、針のところに止まったのは──

 

「魅音ちゃん、だな」

「そうですね」

 俺は言葉に、茜が相槌を打つ。

 当の魅音ちゃんは、顔を真っ赤にしながらも、期待の眼差しを向けてくる。

「さぁ、魅音ちゃんに手錠を掛けましょう!」

 そう言い、茜は刑事ドラマ等で見掛ける手錠を渡してくる。

 あっ、地味に重い……これ結構高いやつだろ……

 そう思いながら、俺は差し出された魅音ちゃんの手首に手錠を掛ける。

 

「ひゃうっ」

 手錠を掛けた際、魅音ちゃんは小さい悲鳴を上げる。

 ざ、罪悪感が……

「さぁ、二回目をしましょう!」

 茜は目を輝かせ、そう言う。

 俺は半ば諦めたようにため息をついて、カードを引く。

「えっと、次は──『妹の頬を一分間舐める』──……なぁ、茜、これはなんだ?」

「はい。それは妹の頬を一分間舐めるってお題です」

 うん、それは見たら分かるよな。

「そうじゃない。どうしてこんな肉体的なお題があるんだ?」

 そう言うと、茜はニカァと笑う。

「大丈夫ですよ、もっと際どいのもありますから」

「大丈夫じゃねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇえええ!!」

 叫んだ。

「ほら、妹ルーレットを回してください」

「……もし、性的行為っぽいのがあったら即止めるからな?」

「それは安心してください。そういう人生で大切なものはゲーム感覚でやるものじゃありませんから」

 久しぶりに茜の口から正論が出た気がする。

 俺は深いため息を吐いて、ルーレットを回す。

 針のところに止まったのは──

 

「凉、ちゃんか……」

「ふぇぇえええっ!?」

 凉ちゃんは可愛らしい声を上げ、耳まで真っ赤にしてしまう。

 実際に「ふぇぇぇ」が似合う子って、いるんだなぁ。

「さぁ、お兄ちゃん、凉ちゃんの頬っぺたを犬のように舐め回しましょう!」

 今すぐにでも止めたい、このゲーム。

 そう思いながら凉ちゃんの方を向くと、潤んだ瞳で俺を見つめていた。

 しかも、期待を孕んで。

 ……気付かなかったことにしよう。

「ご、ごめんね、凉ちゃん。一分間、我慢してくれ」

 そう言い、俺は凉ちゃんの頬に口を近付け、

 

 ペロッ──

 

 と舐めた。

 

「ひゅぅぅぅ……っ!」

 凉ちゃんは悲鳴を漏らしながらも、目を閉じ耐える。

 俺は一分間、何度も何度も凉ちゃんの頬を舐めた。

 凉ちゃんの頬、お餅みたいだったな……

 と感想を抱く時点で俺は変態だろう。

 凉ちゃんは疲れたのか、床に横になっている。

 な、なんてゲームだっ!?

 

 茜は凉ちゃんの反応を見て、ニヤリと笑う。


「さぁ! 次のお題です!」

 

 

 このゲームは、まだ終わらない。

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