15話 かすみんと合コン(仮)
つまりは月曜日だ。
日課のランニングを終え、今は朝食と弁当を作っている。
隣では、
「
「分かった。じゃあ次はベーコン焼いてくれ」
「はい」
と、共同して朝食と弁当を作っていると、茜たちがリビングに入ってきた。
「おはようございます、お兄ちゃん。楓さんもおはようございます」
茜は昨日のことなど気にしていないように、笑顔で挨拶してくる。
「おはよう」
「おはようございます、茜さん」
俺と楓ちゃんは茜に挨拶を返す。
「「おにぃ、おはよー。楓ねぇも、おはよー」」
茜に続き、
「おう、おはよ」
「おはようございます、光月ちゃん、朝日ちゃん」
朝食を作り終えたところで、
「おはよう、蓮唯ちゃん、凉ちゃん。今日は遅かったね」
そう言うと、凉ちゃんが顔を赤くして俯く。
「えっとね、凉ってば、朝からお──」
「……っ!」
なにか言おうとした蓮唯ちゃんの口を、凉ちゃんが手で塞ぐ。
なんなんだ?
「蓮唯、凉、早く席に着きなさい」
未だに扉の前でじゃれあっている(のか分からないが)二人に、楓ちゃんが叱声を掛ける。
二人は「はーい」と返事をすると、自分たちの席に着く。
「いただきます」
皆で声を合わせ、朝食を食べ始めた。
◇妹◇
二階の階段で茜と別れ、俺は自分の教室に向かう。
「おっはよう!」
いつものように、俺は大声でクラスメイトに挨拶をする。
クラスメイトたちは、笑いながら挨拶を返してくれる。
……そろそろ飽きるんじゃね?
まぁ、その時はその時だ。と思い、俺は席に向かう。
「おはよう、葉雪」
「おはよー、ユキくん」
席に着くと、
「おう、おはよう」
俺は鞄を机に置いて、挨拶を返す。
「……葉雪、元気がないが、なにかあったか?」
ふと、翼がそんなことを訊ねてくる。
「いや、特にはない。まぁ、昨日は疲れたけど」
俺はそれだけ返し、頬杖を突く。
「そうか、それならいいが。そう言えば──」
そのまま、俺たちは担任の教師が来るまで、雑談していた。
午前の授業を|熟《こなし、昼休みになった。
茜と
『二年四組、
と、放送が掛かった。
「だってよ、葉雪。行ってきなよ」
翼が笑みを浮かべながら、そう言ってくる。
「そうだな。行ってくるよ」
俺はそう返し、弁当を持って席を立つ。
「俺はかすみんと食べるから皆は皆で食べててくれ」
そう言うと、茜が不満気に頬を膨らませる。
これは後で機嫌取らなきゃだな。
そう思いながら、俺は教室を出た。
職員室に着くと、俺は扉をノックし開く。
「失礼します。二年四組の高木葉雪です」
そう言うと、かすみんが席を立ち、こちらにやってくる。
「それじゃあ行くぞ」
かすみんはぶっきら棒にそう言うと、職員室を出る。
俺は職員室の扉を閉め、かすみんの後を追った。
かすみんと俺の密会場所である『旧生徒指導室』に着くと、辺りを警戒しながら中に入る。
いや、別にやましい気持ちがあるわけではない。ただ、変な噂が立ったらめんどくさいだけだ。
……本当だよ?
かすみんはパイプ椅子に座ると、ぶっきら棒に口を開く。
「私な──しようと思うんだ」
「ん? ごめん、聞こえなかった」
そう言うと、かすみんは俺を一瞥すると、もう一度口を開く。
「私な、合コンしようと思うんだ」
「…………………………は?」
え? かすみんが合コン? 恋愛とかめんどくせーって言ってたあのかすみんが?
「おい、失礼なこと考えてただろ。
……母に言われたんだよ。『あんたもいい歳なんだから、そろそろ結婚相手でも見付けなさい』ってな。
正直断りたかったけど、心配掛け続けるのも悪いし、試しにやってみるかなって思っただけだ」
そ、そうなのか……
「それで、どうしてそれを俺に?」
そう訊ねると、かすみんは「はぁ」とため息を吐く。
「一応、お前も身内みたいなもんだからな。一応、一応伝えた方がいいかなと思っただけだ」
何故『一応』を強調するのか、長い付き合いである俺には分かった。
「そうかい。別に気になるわけじゃないが、一応日にちを訊いてもいいか?」
「今週の土曜日だ。ホント、めんどくさい」
おう、本音が出てるぞかすみん。
「このことは茜たちには?」
「言わなくていい。結果は目に見えてるからな」
「りょーかい」
そう返すと、俺は机に弁当を置き、蓋を開ける。
「さぁ、ちゃっちゃと食って、教室戻るか」
そう言い、俺は冷めた弁当を食べ始めた。
◇妹◇
夜、夕食を食べ終わり、俺は妹たちが風呂から上がるのを、部屋で待っていた。
宿題も予習も終わり、することもなくなし崩し的にラノベを読んでいた。
今回は『お兄ちゃんのことが嫌いな妹はいませんっ!』というラノベだ。
タイトルからわかる通り、妹モノである。
まぁ、面白いとは思う。
ただ、平凡すぎて笑いに欠けるんだよなぁ。
などと思っていると、扉がノックさせる。
俺は開いていたページに栞を挟み、机の上に置く。
「どうぞ」
そう言うと、ゆっくりと扉が開き、茜が部屋に入ってきた。
茜はいつも通り黒色のネグリジェ(少し透けているのは気にしない)に短パンといった、とてもラフな格好をしている。
「お兄ちゃん、甘えさせてください」
茜は部屋に入ってくるなり、そう言ってきた。
うん、まぁ昼休みのこともあるし、予想はしてたんだけどな。
「ある程度ならいいぞ」
「なら、ブラッシングしてください」
最初から決めていたのだろう。茜は後ろに隠していた手から、ヘアブラシを覗かせる。
「おう。それじゃ座れ」
俺はヘアブラシを受け取り、茜を膝上に座らせる。
茜の髪がふわりと揺れ、甘い匂いが鼻腔を擽る。
良い匂いだな……
「お願いしますね」
「おう」
俺はまず手櫛である程度髪を解く。
まだ乾ききっておらず、少し湿っていた。
「茜、もう少し水分落とした方がいいぞ?」
乾く前に寝ると髪傷むって聞くしな。
「はーい」
茜はふんわりと返事をする。
まぁ、茜はそういうの几帳面な方だし、大丈夫かな。
俺は手櫛を止め、ヘアブラシで髪を解いていく。
「んぅ~♪」
茜は気持ち良さそうな声を漏らす。
「お兄ちゃん、上手ですね」
「勿論だ。兄ってのは万能じゃなきゃ務まらないからな」
いや、正直そんなことは思っていない。
ただ、俺が完璧にしたいだけだ。妹のためにできることなんだからな。
「流石、お兄ちゃんです……んぅ♪」
茜は気持ち良さそうに頬を緩め、喉を鳴らす。
そんな茜が可愛くて可愛くて、気付けば二十分もブラッシングをしていた。
「ありがとうございます♪」
ブラッシングを終えると、茜は笑顔で礼を言ってくる。
「どーいたまして。他にはないか?」
そう訊ねると、茜は一瞬驚くと、ニヤリを頬を上げる。
……これはあまり宜しくないことを考えてるな。
「言っておくけど、過激なのはダメだからな」
「はい、大丈夫です。それじゃちょっと失礼して」
そう言うと、茜はベッドに腰掛ける。
「はい、お兄ちゃん。膝枕してあげます」
膝枕──いつもなら俺がしてるのだが、今回は茜がしてくれるのか。
……後から知ったのだが、普通は女性が男性にするものらしい。俺にそんな常識は通じないぞ。
俺は高鳴る鼓動を無視し、ただじっと茜の太股に目を向ける。
白い肌はとても柔らかそうで、まるでマシュマロのようだ。
「そ、それじゃあ失礼」
ある程度落ち着きを取り戻すと、俺はゆっくりと茜の太股に頭を乗せる。
「んっ! お兄ちゃんの髪、くすぐったいです」
茜はそう言いはにかむ。
「なんでしょう、こうしていると、ちょっと──がムズムズします……」
そう言いながら、茜は脚をモゾモゾと動かす。
その際、先程よりも強烈な甘い匂いが、俺の鼻腔を刺激する。
こ、これは、結構危ない……っ!
「ふふふ♪ どうですか、お兄ちゃん」
茜は俺の頭を撫でながら、そう訊ねてくる。
「あ、あぁ。気持ち良いよ」
そう答えると、茜は嬉しそうに微笑む。
「たまには、こうするのも悪くないですね」
「そうだな。またしてほしくなったらお願いするよ」
「はい」
結局、その後茜に膝枕をした。
やっぱり、俺は膝枕される方ではなくする方だな。
そう思いながら、俺は眠りに就いた。
◇妹◇
私は部屋に戻ると、ベッドにダイブした。
「はぁ、最近お兄ちゃんとイチャイチャできてない……」
最近、お兄ちゃんは色々なことがあってあまり私にかまってくれなかった。
司音ちゃんのことが解決して、やっとお兄ちゃんとイチャイチャできると思ったのに……
私のお兄ちゃんなのに。
モヤモヤする。私のお兄ちゃんを、皆が頼って。お兄ちゃんは優しいから断らないし。
お兄ちゃんが決めたことなら、私は口出ししない方がいいんだろうけど……
「お兄ちゃんはもっと私のことを考えてくれてもいいと思う」
そう言いながら、私は枕を叩く。
まぁ、昨日は楽しめたけど。
私は昨日のことを思い出す。
お兄ちゃんの身体を触れて、お兄ちゃんにキスして、お、おっぱいも揉まれて…………思い出したらムラムラしてきちゃった。
「うぅ……。これだけ誘ってるんだから、お兄ちゃんは私に手を出してもいいと思う」
これは本格的にあの計画を進めなければ。私の理性が危ない。
「明日、楓さんに相談してみようかな……」
私はそう呟くと部屋の電気を消した。
暗い部屋の中、スマホを起動し画像フォルダを漁る。
今日はこれにしよう。
選んだのは、お兄ちゃんの寝顔を写した写真だ。
他にも、お風呂上がりや料理姿、着替え姿や汗を掻いて服が張り付いてる姿──と、パソコンに移してあるものも含めて五百枚はある。
そろそろアルバム作ろうかな。
そう思いながら、画像を見つめ、目に焼き付ける。
これでいい妄想ができそう。……ホントはお兄ちゃんにしてほしいけど。
結局、私はこの日もお兄ちゃんのことを想って自分を慰めた。
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