12話 後輩の妹と妹と

 朝。

 日課をこなした俺は、シャワーで汗を流した。

 その後部屋で制服に着替え、鞄とスマホを手に部屋を出る。

 リビングに入ると、台所ではエプロン姿のかえでちゃんが朝食を作っていた。


「おはよう、楓ちゃん」

「おはようございます、葉雪はゆきにぃさん」

 楓ちゃんは微笑み、挨拶を返してくれる。

 なんて可愛い義妹いもうとなんだろうか。

 そんなことを思いながら、俺は楓ちゃんの隣に立ち朝食を作り始めた。

 丁度作り終えたところで、ぞろぞろと妹たちがリビングに入ってきた。


「おはようございます、お兄ちゃん」

 とあかねが。

「「おにぃ、おはよー」」

 光月みつき朝日あさひが声を揃えて。

「おはよっ! にぃに!」

 蓮唯れんゆいちゃんが元気に。

「おはよう、ございます。にぃさま」

 すずちゃんが控え目に、それぞれ挨拶してくる。

「おう、皆おはよう」

 俺は今日も可愛らしい妹たちに、笑顔で返す。

 

「……最近私の立場が、葉雪にぃさんに奪われている気がします……」

 こっちは何故か、悲しそうな雰囲気なんだが。

 と思ったら、皆が楓ちゃんに挨拶をすると、一気に笑顔になった。

 うん、ちょろ可愛い。

 そんな微笑ましい光景を充分眺めながら、俺は朝食をテーブルに並べる。

 皆席に着き、合掌して朝食を食べ始めた。

 

 朝食を食べ終え、弁当も渡し終える。

「さて、茜、光月、朝日、そろそろ行くぞ」

 声を掛けると、妹たちは鞄を手に取り、こっちに向かってくる。

「それじゃ、いってきます」

 まだリビングに残っている楓ちゃんたちにそう言い、リビングを出た。

 

 

   ◇妹◇

 

 

 茜と二階の階段で別れ、自らの教室に向かう。

 扉を勢い良く開け、大声で挨拶をする。

「よぉ! おはよう」

 既に来ているクラスメイトたちは、いつものように笑いながら挨拶を返してくる。

 自分の席に着くと、つばさかなでがやってくる。

 

「おはよう、葉雪」

「おはよー、ユキくん」

「おう、おはよう。翼、熱はもういいのか?」

 そう訊ねると、翼は苦笑いを浮かべる。

「あぁ、大丈夫だ。毎年毎年、心配掛けてすまないな」

「別に。もう十年以上一緒にいるんだ、慣れたもんさ」

 そう笑いながら、雑談へ話を変えていく。

 それから担任の教師が来るまで、三人で駄弁っていた。

   

 

 午前の授業は全て終わり、待ちに待った昼休み。

 と言っても、いつものメンバーで昼飯食べて駄弁るだけなんだけどね。


「お兄ちゃん、やっほー」

 弁当片手に、茜が教室に入ってきた。

「一日振り、と言っておこうかな。やぁ、茜ちゃん」

「やっほー、茜ちゃん」

 翼と奏が、言葉を返す。

「いや、お兄ちゃんは俺だろ。なんでお前らが先に返すんだよ」

「いや、そんなことで一々怒らないでくれよ」

「そーだそーだ」

 と、いつものように盛り上がっていると、もう一人来訪者がやって来た。

「先輩、こんにちはー」

「お、今日は普通に挨拶してきたな」

 「えへへ」と笑いながら、司音しのんちゃんは茜の横に立つ。

「ほらほら、座って座って~」

 そう言い、奏が司音ちゃんに椅子を渡す。

「あ、ありがとうございます」

 司音ちゃんは奏に礼を言い、椅子に座る。

 勿論、茜は俺の膝の上だ。

 「ささ、早く食べようよ~」

 茜がお腹を押さえ、ふんわりとした口調でそう言う。

「そうだな」

 そう答え、「いただきます」と言い、弁当の袋を開けた。

 いつものように、雑談をしながら昼食を食べていると、昼休みはすぐに過ぎていった。

 

 

 午後の授業も難なく突破し、放課後となった。

 いつもなら茜たちと一緒に帰るのだが、今日も他用があるのだ。

「翼、奏、部活頑張れよ」

 それだけ言うと、俺は教室から出た。

 向かう先は茜と司音ちゃんのいる一年三組の教室だ。

 

「よぉ。今日も来てやったぞ」

 今日は読書をしていないらしく、俺が教室に着くと、真っ先に向かってくる。

 昨日のこともあってか、他の生徒からの視線が痛い。

「お待ちしてました、先輩。さぁ、行きましょう!」

 そう言い、司音ちゃんは俺の腕に自らの腕を絡めてくる。

 その姿を見て、茜がものすごい形相で睨んでくる。

 ……帰ったら思う存分甘やかしてあげよう。

 俺はそう心に誓い、茜に声を掛ける。

「茜、光月たちのこと、頼んだぞ」

「はーい……」

 茜からの返事を聞き、俺は司音ちゃんに引っ張られながら教室を後にした。

 

 

   ◇妹◇

 

 

 昨日と同じ道を通って、俺たちは司音ちゃんの家に向かっていた。

 途中すれ違う人と挨拶を交わし、二人で雑談しながら歩いていると、気持ち早く司音ちゃんの家に着いた。


「お邪魔しまーす」

 昨日よりかは緊張も解れ、友人の家に上がる感覚で家に上がる。

「親御さんは、今日は居るの?」

 気紛れにそう訊ねると、司音ちゃんはさらっと答える。

「いえ、この時間はいませんよ。両親は大抵七時過ぎ頃に帰ってきますから」

 おおう、今日も年頃の男女が──以下略。

「なので先輩、今は私と魅音みのんを襲いたい放題ですよ!」

「やらねぇよ! やったら茜に殺されるわっ!」

 ホント、茜は独占欲というか、嫉妬心が強いから、殺られかねない。

「さぁ、早く行きますよ。魅音が待ってます」

「あぁ、分かったよ」

 そう返し、俺は急いで靴を脱いで、司音ちゃんの後を追った。

 

 

 昨日と同じ部屋、魅音ちゃんの部屋の前で立ち止まる。

 司音ちゃんがノックし、呼び掛ける。

「魅音、今日も先輩来てくれたよー」

 すると、部屋の中から物音が聞こえた。

「……うん」

「今日は顔を見て話しようよー」

「……やだ」

 そこまで会話すると、司音ちゃんはやれやれといった感じで首を横に振る。

「というわけで、お願いします」

「分かったよ」

 小声で返すと、俺は魅音ちゃんに話し掛ける。

「魅音ちゃん、昨日振り。元気にしてる?」

「……うん」

「よし、今日も仲良く話そうか」

「仲良くなんて、してないもん……」

 なんだろう、顔は見えないけど、今膨れっ面してるんだろうなぁ、って分かってしまう。

「それじゃあまず、魅音ちゃんの好きなこととか教えてくれないか?」

「話題が幼稚すぎる」 

 あっれれ? 最近の小学生ってこういう会話しないのかなぁ?

「それじゃあ、魅音のスリーサイズ」

 

 ──ドンッ!

 

 訊ねると、中から扉が力強く叩かれた。

 と、扉の目の前に居たんだ……

「ばっ、ばかっ! 女の子に安易にスリーサイズを訊いちゃいけないって言われなかったのつ!?」

 そう言われ、真っ先に思い付くのは茜たちだ。

 あいつら、なにかある度にスリーサイズ報告してきたな……

「どちらかと言うと、相手から教えてきたな」

「葉雪さんの周りにいる女の子は変態さんですかっ!」

 あぁ、確かに変態だな、茜。

「も、もっとこう、『悩んでることはないか?』とか『俺を頼れよ』とかそんな感じのセリフがあるでしょう!」

「知るか。俺は話し相手になりに来ただけだ。助けて欲しいなら自分から動け」

「アメとムチの使い分けがとてもお上手ですねっ! 最初の方、ちょっとキュンと来ちゃったじゃないですか!」

「お前はあれが甘い言葉に聞こえたのか!? 普通に拒んでるだろうが!」

 なんなんだこの小学生……言動が全く理解できないし、解釈が独特すぎるっ!

「……この話はここまでにしましょう」

「そうだな。もっと平凡な話にしようか」

「そうですね。それじゃあ──」

 なんとか調子を取り戻し、俺たちは会話に華を咲かせた。

 案外、小学生と話すのも楽しいもんだな。

 魅音と話している間、俺はそう感じていた。

 

 楽しい時間というのは、とても早く過ぎていく。

 気づけば、一時間も話し込んでいた。

「さて、そろそろ帰るよ」

 話を終わらせ、俺はそう言う。

「あっ、うん……また明日」

 返ってきた言葉に、俺は頬を綻ばせる。

「おう、また明日も来るよ。楽しみにしとけ」

 そう言い、葉雪は一階へ降りた。

 

「先輩、今日もありがとうございました」

「別に。俺も話してて楽しいから」

「それが聞けて嬉しいです」

「それじゃあ、明日」

「はい」

 それだけ言葉を交わし、俺は司音ちゃんの家を後にした。

 

 

   ◇妹◇

 

 

 先輩を見送った後、私は家に入り、すぐに二階に向かった。

 勿論、魅音に気付かれないように、音を潜めて。

 魅音の部屋の扉に耳を当て、静かに中の音を聞く。


「はぁ、葉雪さん、もう帰っちゃった」

 聞こえてきたのは、魅音の寂しそうな声だった。

 若干、フラれた時の声に似てるかな。


「どうしたら、もっと長く話せるのかな……」

 それは、部屋から出て来たら済む話だと思うよ。


「あっ、でも、葉雪さん、放課後すぐに来てくれてるんだよね。感謝しなきゃ」

 そうだよ、お姉ちゃんがお願いしたんだよー。褒めて褒めて。


「そうだ、明日葉雪さんが来たときにビックリさせよう」

 その言葉に続き、タタタッとタイピングの音が聞こえてくる。

 なにを調べてるんだろう。

 

「あった。えっと……姉妹丼? これで葉雪さん、喜んでくれるかな?」

 ストップ! しまいどんってあの〝姉妹丼〟だよね!? 最近の小学生ってそんなこと知ってるの!?

 

「あわわっ……これは、私にはハードルが高いよぉ……」

 なにを、ナニを調べてるの!? 今すぐ部屋に入って問い質したい!

 

「あっ、これなら、葉雪さん喜んでくれるかな」

 ん? 良いのが見付かったのかな? ……普通のことだといいんだけど。

 私は扉から離れ、一階のリビングに向かった。

「なんだかんだ、魅音も結構気に入ってるんだね」

 そう言いながら、コップに注いだお茶を飲み干した。

 

 

   ◇妹◇

 

 

 家に帰ると、早速茜に抱き付かれた。

 教室を出るときの反応から、察しはついてたけどね。

 そして今、俺は自室で茜に膝枕をしている。

 あたまを撫でる度に、茜は気持ち良さそうに喉を鳴らす。

 まるで猫の様だな。

 と、昨日と同じような兄妹の甘い空間もすぐに終わる。

 夕飯の時刻になっていたことに、茜の腹の虫が鳴ったことで気付く。

 茜は恥ずかしさに顔を真っ赤にする。

 

 その姿を、俺は微笑みながら眺めていた。

 さて、今日も美味しい飯を食べさせてあげようかな。

 

 

 と思ったのだが、今日は楓ちゃんが全部作っていた。

 残念。

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