8話 はっぴーばーすでー
先週の事件から一週間が過ぎた水曜日。ついに自宅謹慎から解放された。
その間の勉強は部屋でしっかりとやっていたので、授業で後れをとることはないだろう。
そんでもって、今日は四月二十三日。俺の誕生日だ。
いつもなら万全の準備をして誕生日を迎えるのだが、今年は色々あって準備ができなかった。
まぁ、流石に十七歳にもなって、リビング飾ってレッツパーリィ! しなくてもいいかな、って思うけど。
そんなことを思いながら、俺は久しぶりにジョギングをしていた。
いつもと変わらない時間に羽真家に戻ると、着替え片手に風呂に向かう。
流石に二週間近く経つと、風呂場のデカさにも慣れ、リアクションをしなくなる。
シャワーで汗を流し、軽く体を洗うと、すぐに風呂場から出る。
持ってきていた服に着替え、俺は部屋に戻った。
部屋に戻ると、制服姿の
今の時刻は六時二十分。いつもなら茜は寝ている時間だ。
「おはよう、茜」
「おはようございます、お兄ちゃん」
俺は茜と挨拶を交わすと、鞄を取ろうを机に近付き、
「……」
「……」
茜に抱き付かれた。
まぁ、茜が抱き付いてくるのはいつものことだが。
「茜、離して」
「えぇ、どうしよっかな」
茜はニヤリと笑うと、腕に力を入れる。
どうやら、今日の茜は反抗的な感じだ。
さて、どうしたものか。
解決策を探しつつ、俺は茜を引きずりながら机に向かう。
無事鞄を掴むと、ポケットにスマホを滑り込ませる。
「よし。じゃあ俺は朝食と弁当作ってくるから」
そう言うと、茜は離れこちらを見つめてくる。
「おはようのキスー」
そう言い、茜は背伸びをして顔を近付けてくる。
「しません」
そう返すも、茜は諦めようとしない。
「少しだけ、少しだけ」
「少しだけ、なにするんだよ」
「舌入れさせてください」
こいつ、〝アレ〟をする気満々じゃないか。
「ダメだ。却下。さっさと行くぞ」
そう言うと、茜は頬に手を当て顔を赤くする。
「そ、そんな、さっさと〝いく〟だなんて、お兄ちゃん大胆……」
何故そこを強調した、そこを。
「バカ言ってないで、行くぞ」
そう言い、扉に向かうと、又も茜が阻止してくる。
「お願いです! キスしてください!」
キス魔かっ! と心の中で突っ込みを入れながらも、俺は口を開く。
「どうした。なんか今日はいつもより積極的だけど」
そう言うと、茜は肩を揺らす。
これはなにか企んでるな。
「茜、企んでることを正直に話してくれたら、ご褒美に頭撫でてやるぞ?」
そう言うと、茜は一度悩む素振りを見せる。
が、すぐにとうせんぼを再開する。
「それでもダメです! しかも、キスから撫で撫でにレベルダウンしてます!」
なんと、そこに気付くか。
「はぁ、仕方ないな……」
このままでは埒があかない。
俺は覚悟を決め、茜の顔に自らの顔を近付ける。
「ふえっ!?」
茜は驚きで
俺は両手で茜の頭を優しく支え、軽く唇にキスをした。
柔らかい、な……
茜の唇の感触が、俺の脳内を埋め尽くす。
てか、ファーストキス、茜に奪われちゃったな……
瞬間、茜は口内に舌を滑り込ませる。
俺の舌に触れると、茜は念入りに舌を絡ませてくる。
それと同時に、両腕を首に絡ませ、離れられないようにする。
「んっ、ちゅっ……れろっ……」
「んんんー……っ!」
俺は必死で茜を引き剥がそうとするが、無理な体勢をしている所為で、身体に力が入らない。
結局、俺は抵抗することが出来ず、茜に無抵抗な口内を蹂躙された。
「はぁ、はぁ……」
「ハァ、ハァ……うへへっ♪」
少し情熱的なキスを終えた俺たちは、荒くなった息を整えていた。
まぁ、茜は少し違ったものが混じっているが。
「さ、さて、時間もやばいしそろそろ行くぞ」
恥ずかしさを隠すように、俺は早口でそう言う。
「え、もう少し……分かりました」
茜は露骨に残念そうにするも、時計を一目すると了承する。
俺たちは一緒に部屋を出ると、リビングに向かった。
既にテーブルの上には朝食と、四人分の弁当が置かれてあった。
「おはよう、
そう謝ると、楓ちゃんは「いえいえ」と笑顔で返してくれた。
なにこの娘、可愛い。
そんなことを思っていると、茜に横腹を刺された、指で。
地味に痛いなぁ。
「茜、痛い」
そう言うと、茜は頬を膨らませる。
「私はどうですか~?」
この流れからして〝どう〟とは〝可愛いか〟という意味だろう。
だから俺は、心から思ってることを口にする。
「世界一可愛いよ」
そう言うと、茜は顔を真っ赤に染め、湯気を出す。
こんなに照れるなら、訊かなかったらよかったのに。
そう苦笑いを浮かべながらも、俺は茜の頭を優しく撫でた。
……楓ちゃんの複雑な気持ちを含んだ視線に気付かずに。
暫くすると、俺、茜、
朝食を食べ終わる頃には、時間は既にギリギリになっており、楓ちゃんの作った弁当を鞄に入れると、早足で家を出て学校に向かった。
結果、いつもより数分遅く学校に着くことになったが、遅刻することはなかった。
◇妹◇
一週間振りの学校は、どこか新鮮味があった。
授業の方は無事遅れることなく、皆と同じペースで進んでいる。
授業の合間には、
そして時は流れ、気付けば昼休み。
鞄から弁当を取り出したところで、翼と奏がやってくる。
「そう言えば、ユキくん今日誕生日だね~」
そこで思い出したかのように、奏がそう言う。
「あぁ、そうか。一週間葉雪に会ってなかったから、忘れてた」
忘れてたってなんだよ、冷たいな。
「そうだぞ。今日で俺は十七歳だ。敬え」
そう言うと、二人は笑みを浮かべる。
「葉雪を敬うって、なんか本能的に拒絶してるんだよなぁ」
「そうだね~、ユキくんを敬うってイメージが湧かないよ」
と、二人は笑いながら言ってくる。
「失礼な。これでも俺は凄いんだぞ」
そう言うと、翼は「そうだけど」と言い続ける。
「全部、妹関連でしょ?」
その言葉に、俺は頷く。
「勿論」
そんなこんな話していると、教室に茜がやって来た。
「お兄ちゃん、お待たせしました~」
「おう」
俺は茜を手招くと、膝の上に座らせる。
その光景を見て、奏が口を開く。
「いつも自然に座ってるけど、ユキくんは意識したりしないの~?」
その質問に、俺は当然のように答える。
「妹だからな」
その言葉に、翼と奏は「答えになってない」と声を揃えて言った。
「お兄ちゃん! どうぞ私を意識してください! そしてゴートゥベッドです!」
茜のボケ(だといいなぁ)を軽く流し、いつものように四人で昼食を摂った。
◇妹◇
放課後。
俺は職員室に来ていた。
いや、別に問題起こして呼び出されたわけでも、提出物忘れたわけでもない。
まぁ、問題なら先週ありましたけどねっ! キラッ☆
……コホン。
話を戻そう。
俺が職員室に来ているのは、かすみんに会いに来たからだ。
勘違いしないでくれ。別に密会やら禁じられた恋だのそんな感じのものは一切無い。
ただ、先週のお礼と暇潰し程度に話しに来ただけだ。
なにこれ、俺めっちゃ迷惑じゃん。
そんなことは気にせず、俺は職員室の扉を開ける。
「高木葉雪です。かすみ……
そう言うと、先生方から「またか」といったオーラが放たれる。
良いだろ、別に取引とかしてるわけじゃないんだから。純粋に仲が良いんだよ。
そんなことを考えていると、腹を軽く叩かれる。
下を向くと、かすみんが吊り気味な目で俺を見上げていた。
なんだろう、幼女の上目遣いって、なんかくるものがあるな。
そう思っていると、再び腹を叩かれる。
「いつものところ、行くぞ」
かすみんは小声でそう言う。
俺は頷き「失礼しました」と言い、扉を閉めた。
それから、いつものようにかすみんの後に付いていき、『旧生徒指導室』に向かった。
辺りに気を配りながら『旧生徒指導室』に入ると、かすみんはパイプ椅子ではなく、机に腰掛けた。
なんだろう、幼女が背伸びしてる感が……
と考えていると、かすみんに睨まれた。
鋭いな。
「それで、今日の用件はなんだ」
かすみんはぶっきらぼうに訊ねてくる。
「ただの雑談だけど?」
そう答えると、かすみんは目を見開く。
そして、呆れたように首を降る。
「帰る」
かすみんは机から飛び降りようとするので、俺は肩を押さえることでそれを阻止した。
「まぁ、強いて言えばかすみんに会いたかったから、かな?」
そう付け足すと、かすみんは頬を赤く染める。
「……お前はよくもまぁ、そんな恥ずかしい言葉をさらっと言えるな」
嫌味ったらしくそう言い、かすみんは顔を逸らす。
「恥ずかしいかなぁ? あと、先週のお礼も合わせてね」
「……別に気にするな。知り合いなんだし、あれくらいするのは当然だろう」
そう無愛想に言う。可愛い。
コホン。
「それでさー、かすみん今日なんの日か知ってる?」
そう訊ねると、かすみんは当然のように答える。
「お前の誕生日だろ?」
「おや、そんなに意識してくれてましたか」
からかい気味にそう言うと、かすみんは「そうだな」と答える。
「そりゃあ昔から、茜や光月や朝日が私のところまで来て『どんなプレゼントが良いと思う?』って訊いてくるからな。嫌でも覚えるさ」
確かに、毎年毎年プレゼント渡してくる時にかすみんの名前出してたもんな。なんか申し訳ない。
「それじゃあ、何か誕生日プレゼントない?」
そう訊ねると、かすみんはすぐに口を開く。
「体で払ってやろうか?」
「えっ?」
その言葉に、俺は素っ頓狂な声を上げた。
明らかにテンパってる俺の反応を見て、かすみんは再び口を開く。
「冗談だ」
その言葉に、俺は安心した。
よかった、冗談か。…………冗談だよな?
かすみんの含みのある笑みに不安になりつつ、俺は茜から呼び出しが掛かるまで、かすみんと世間話をしていた。
◇妹◇
茜と一緒に学校から出て、光月と朝日と合流すると、真っ直ぐ家に帰った。
部屋に入ると、茜と光月と朝日が交代交代に部屋にやって来て、俺を部屋から出さないようにしてきた。
飲み物を取りにリビングに向かおうとすると、誰かが俺を止め、一人が飲み物を取ってくるということが続いた。
ここまで露骨にされると、ある程度予想は付く。
多分、リビングは飾り付けされているんだろう。
よくよく思えば、俺のことを好き好き言ってる茜たちが、朝から誕生日のことに触れていなかった。
そんなことある筈無い。
まぁ、茜たちは全力で気付かせないようにしていたんだろうが、やり過ぎて逆効果だ。
そこまでしてくれるなんて、お兄ちゃん嬉しいよ。
家に帰ってきてから結構な時間が経ち、時刻は七時になっていた。
そこで準備が終わったのか、茜たちに連れられリビングに向かった。
扉の前で茜たちは止まり、俺の後ろに付く。
これは俺が開けろってことでいいのかな?
そう思い、俺はドアノブに手を掛け扉を開き──
パァン!
瞬間、複数の破裂音が響いた。
勿論銃声などではない。パーティー等でよく使われるクラッカーの音だ。
扉の向こうには、既に使用済みになったクラッカーを手に持った楓ちゃん、蓮唯ちゃん、凉ちゃんの三人がいた。
三人にお礼を言おうと口を開こうとした瞬間──
パァン!
今度は後ろから破裂音が響いた。
後ろを見ると、茜、光月、朝日の三人もクラッカーを持っていた。
「「誕生日、おめでとう(ございます)!」」
と、六人が声を揃えて言ってくる。
俺は六人を順番に見て、今の気持ちを素直に伝える。
「ありがとう。すごい嬉しいよ」
茜たちは俺の礼を聞き、笑顔を返してくれた。
今日は楽しい誕生日パーティになるだろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます