4話 妹に教えるのも兄の役目/妹の頬っぺた
月曜日。
それは学校が始まるという、最も憂鬱な気持ちになる日。
実際行ったらそこまで面倒じゃないんだけどなぁ。
そんなことを思いながら、テキパキと制服に着替え部屋を出た。
リビングに入ると、
「おはよう、茜、楓ちゃん」
俺が挨拶をすると、二人は別々の反応をする。
茜は笑顔で「おはようございます。お兄ちゃん」返してきた。
それに対して、楓ちゃんは頬を朱色に染め、顔を逸らしながら「おはようございます……」と返してくる。
やっぱり昨晩のこと気にしてるよなぁ。
茜の企みで、俺と妹たちは一緒にお風呂に入ってしまった。
俺からしたらとても嬉しいことだが、やはり年頃の男女が一緒にお風呂に入るのはどうかと思う。道徳的に。
おいそこ、妹大好き野郎が道徳的とか言うなって思ってるだろ。そんなの分かってるわ。
そんなワケで、俺と楓ちゃん、凉ちゃんは少し気まずい状況だ。
その後、リビングに来た
やはり凉ちゃんにも顔を逸らされたが。
◇妹◇
伊吹高校と天ノ川学園は
俺たちは楓ちゃんたちと門の前で別れると、自分たちの学校へ向かった。
いつもとは違う通学路に新鮮さを感じ、俺たちは上機嫌になっていた。
茜と二階の階段で別れると、俺は早足で教室に向かう。
バァーン! と力強く扉を開き、教室に入る。
「おはようっ!」
その挨拶に、クラスメイトたちは次々と挨拶を返す。
自分の席に着くと、丁度そこへ
「おはよう、
「おはよー、ユキくん」
「おう、おはよう」
俺は二人に挨拶を返し、そこからいつもの様に雑談が始まり、俺の日常も始まった。
長ったるい授業が終わり、昼休みとなった。
俺は教材を鞄に仕舞うと、中から弁当を取り出す。
「お兄ちゃん~」
丁度そこへ、茜が教室に入ってきた。
「おう」
俺はそう言い椅子を引くと、茜は俺の膝に座る。
そのまま二人で昼飯を食べようとすると、突然声を掛けられた。
「待ってくれ、なに二人で食べようとしてるの」
「そーだぁ!」
俺は「すまなかった」と笑い、おかずを口に運ぶ。
翼と奏はそれぞれ前と横の席に座ると、弁当の蓋を開ける。
そのまま、四人は雑談をしながら昼休みを過ごした。
◇妹◇
学校から家に帰ると、俺はすぐに部屋に戻った。
帰ってまずすることと言ったら宿題だよな。と思いながら、俺は鞄から宿題のプリントと筆記用具を取り出す。
コンコン──
勉強を始めて一時間が経った頃、不意に扉がノックされた。
「どうぞ~」
そう言うと、ガチャと扉が開かれる。
入ってきたのは楓ちゃんだった。
「あの、葉雪にぃさん、勉強教えてくれませんか?」
そう言いながら、楓ちゃんは首を傾げる。
確か天ノ川学園って超が付くくらいの高偏差値だったと思うんだけど……
そう思いながらも、俺は快く引き受ける。
「勿論いいよ」
俺は楓ちゃんを椅子に座らせる。
「それで、どこを教えればいいの?」
訊ねると、楓ちゃんは数学の教科書を開いた。
お、今日やったところだな。
「あの、ここが分からなくて」
そう言い、楓ちゃんは問題を指差す。
「あぁ、そこは──」
それから数学、現国の二つを教えた。
楓は笑顔で「ありがとうございます」と言うと、そのまま部屋から出ていった。
あれ? なんかイベントとか起きるもんじゃないの……なにもなかったよ?
そのまま時間を確認すると、七時になりかけていた。
確か夕飯は八時だったよな。
俺は机に向き合い、再び勉強をし始める。
コンコン──
勉強に熱が入り始めたところで、再び扉がノックされた。
おっと、本日二度目の来訪者か。
「どうぞー」
そう言うと、ガチャと扉が開かれる。
この説明二度目な気がする。
「失礼します……」
二人目の来訪者は凉ちゃんだった。
凉ちゃんは数学の教科書を両手で持って、こちらに向かってくる。
他にも違う教科のものがあるが、数学の教科書で隠れて見えない。
えっと、つまり凉ちゃんも勉強訊きに来たのかな?
「あの、にぃさま、勉強が分からないんです……教えてください……」
凉ちゃんは潤んだ瞳で見つめて、恥ずかしそうにお願いしてくる。
やばい、凉ちゃん天使すぎる。
つい吐血しそうになるのを堪えて、俺は笑顔で頷く。
ただ、口は開くことができない。今口を開いたら血が飛び出そう。
俺は椅子から経ち、替わりに凉ちゃんを椅子に座らせる。
「それで、沢山あるけど、どれからがいい?」
「えっと、じゃあこれで……」
そう言い、凉ちゃんが取り出したのは──
保健の教科書だった。
──ん? んんっ、凉ちゃん今中学二年生だよね!? まだセーフっ、まだセーフっ!
自分に言い訳をしながら、吐血しそうになるのを笑顔を作ることで必死に抑える。
「それで、どこが分からないの?」
そう訊ねると、凉ちゃんは頬を朱色に染める。
んんっ!? その反応はなんなの!? どんな内容を訊きに来たの!?
顔が熱くなるのを感じながら、俺はただじっと凉ちゃんの言葉を待つ。
「えっと、ここです……」
恥ずかしそうに凉ちゃんが開いたページは──
少年授業中……
「ありがとうございました。にぃさま」
「俺の教え方で分かってもらえたならよかったよ」
「そんなこと、ないです。にぃさまの教え方、すごく上手でした」
そう言うと、凉ちゃんは椅子から立つ。
「にぃさま、ありがとうございました」
そう言うと、凉ちゃんは部屋から出ていった。
「ふぅ……」
俺はため息を漏らしながら椅子に座る。
結局、凉ちゃんが訊きにきたのは自律神経やら二次成長やらのところだった。決して性教育のところではなかった。
うん、なんとなく凉ちゃんには純粋無垢でいて欲しい。汚れを知らない清らかなまま成長して欲しい。
ついでに、他にも数学、国語、歴史を教えた。凉ちゃんって結構理解が早いから、教えるのが楽しく感じたな。
そんなことを考えながら、俺は勉強を再開した。
「ふぅ、終わった終わった」
そう呟きながら、ノートを閉じ、シャーペンを筆箱に仕舞う。
そして、机の上の教材を鞄に仕舞い、椅子に寄り掛かる。
ふと時間を確認すると、七時五十分だった。
そろそろ夕飯だし、そろそろ行こうかな。
「……あぁ、喉渇いた」
俺はそう呟き部屋を出た。
◇妹◇
リビングに入ると、台所で
「あら、葉雪くん、どうしたの?」
こちらに気付いた七波さんは、手を止めて訊ねてくる。
「少し喉が渇いたので、お茶でも飲もうかなっと」
「そう。冷蔵庫から勝手に取っていいわよー」
「はい」
返事をすると、葉雪は冷蔵庫からお茶のペットボトル(500ml)を取り出す。
そのまま、三分の一程を飲むと、再び冷蔵庫に入れる。
「七波さん、夕飯作るの大変じゃないですか?」
ふと、俺は疑問を口にする。
「まぁ、仕事は忙しいし、結構量作らなきゃだけど、そこまで大変じゃないわよ?」
そうは言っているが、七波さんの顔には疲れの色が見て取れる。
仕事に家事、とても大変なんだろうな。
俺はそう思い、ちょっとした提案を口にする。
「もしよかったら、俺が作りましょうか? 夕飯」
俺の言葉を聞き、七波さんは少し驚きの色を見せる。
「葉雪くん、料理作れるの?」
「まぁ、よく母の手伝いしてましたし」
質問に答えると、七波さんは少し考える素振りをする。
それからゆっくりと口を開く。
「それじゃあ、お願いしようかしら」
その言葉に、俺は笑顔で答える。
「勿論です」
そのまま、皆が来るまで七波さんと会話をしていた。
◇妹◇
夕食を食べ終わり、俺は部屋のベッドでゴロゴロしていた。
今妹たちは、あの広い風呂に皆で入っている。
これで乱入はないわけだな。
これに関しては全然残念とか思ってない。……思っては、ない。
「さて、なにしようかな」
そう呟き悩んだ挙げ句、本棚に入れてあるラノベを読み始めた。
ついでに、今読んでいるのは『突然ですが、兄さんとの結婚が決まりました』というラノベだ。
兄と実は血が繋がってなくて、更にその兄は婚約者だった。という今時風変わりな作品である。
先週偶然見付けてから、ずっと読みたいと思っていたのだ。
それから三冊程妹モノのラノベを読んでいると、不意に扉がノックされる。
「どうぞー」
そう言うと、ガチャと扉が開かれる。
入ってきたのは楓ちゃんだった。
本日二度目の楓ちゃんです。
「葉雪にぃさん、お風呂空きましたよ」
「りょーかいっ」
そう返し、俺は本棚にラノベを仕舞うと、着替えを持って部屋を出た。
「うーむ、やはり広い」
俺は体を洗いながら、昨日と同じように呟く。
毎度毎度この広い風呂に一人で入ってると、すごい寂しい気持ちになるなぁ。
そんなことを思いながら体を洗い終えると、ゆっくりと湯船に浸かった。
「今日はなにも起こらないかなー」
少し期待しながら、そう呟いてみるが三十分浸かっていても誰も入ってくる気配がなかった。
うん、期待した俺がバカだった。
少しフラフラするのを我慢し、俺は風呂場から出た。
◇妹◇
扉を開け部屋に入ると、あるものが目に入った。
布団が盛り上がってる。
うん、誰か中に隠れてるな。
そう思い、音を発てないように近付く。
そして、勢い良く布団を
そこにいたのは、キャミソールタイプの寝間着を纏った茜だった。
露出した肩、鎖骨のラインが少し艶かしく思えて、俺は咄嗟に目を逸らした。
「茜、なにしてんの?」
そう訊ねると、茜は体を起こしながら口を開く。
「ベッド暖めてました」
「バカか」(ぺしんっ)
「あうっ♪」
茜は叩かれたのに、何故か嬉しそうに頬を綻ばせる。
「ほら、部屋に戻れ」
そう言うと、茜は頬を膨らませる。
「お兄ちゃん、一緒に寝ましょ?」
「断る」
「ベッドインしましょ?」
「なんで悪化してんだよ。早く自分の部屋に戻りなさい」
そう言うと、頬を膨らませてジト目を向けてくる。
いや、なんでそんな反抗的なの?
「最近お兄ちゃんが冷たいです」
そう言い茜はベッドに横になる。
そのまま茜はゴロゴロし始めた。
「一緒に寝ましょぉよぉ~」
駄々をこねる茜に、俺はため息を吐く。
「ダメだ。部屋に戻れ」
お願いだから、ホントお願い。
さっきから茜がゴロゴロするせいで、キャミソールの肩の紐がずれてきて、その……色々危ないんだよっ!
などと思っていると、茜がピタッと動きを止め、体を起こした。
「なら、キスしてください」
俺を見上げながら、茜はそう言う。
「えぇ?」
「キスがダメなら一緒に寝ましょう」
「それはダメだ」
俺はキッパリと断る。
「うぅ~」
茜は唸り声を上げ、手足をジタバタさせる。
はぁ、しょうがないなぁ。
「茜、少しじっとしてくれ」
「ふえぇっ? ……うん」
茜が頷いたのを確認し、俺は顔を近付ける。
「お、お兄ちゃん……」
茜は潤んだ瞳で期待の眼差しを向けてくる。
頬も少し赤くなっていて、口が半開きになっている。
そのまま俺は茜の頬にキスをした。
唇を離すと、茜は器用に嬉しさと不満を同時に表現する。
「ぶぅ、なんで頬っぺたなの?」
「文句言うな、キスはキスだろ? ほら、さっさと部屋に戻れ」
そう言い、俺は茜を起き上がらせ、扉の前まで押す。
「お兄ちゃんが強引だよぉ♪」
「バカ言うな」
茜はチラリと俺の顔を見ると、笑みを浮かべる。
「それじゃあおやすみなさい。お兄ちゃん」
そう言い、茜は部屋を出た。
「はぁ、絶対気付いてる。恥ずかしい……」
ベッドに腰掛けると、俺は熱くなった顔を手で覆いそう呟く。
あーもう、めっちゃ恥ずかしい。
「もういい、寝よう」
俺は部屋の電気を消すと、布団を被る。
なんか若干暖かいな。それに、茜の匂いも……
そこまで考え、俺は頭を振り、今考えていたことを追い出す。
「茜の頬っぺた、柔らかかったな……」
そう呟き、俺は目を閉じた。
今日は良い夢を見れるかな……
そう思っているうちに、俺の意識は夢の世界に
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