第15話 絶望的希望

 人は分かり合える。

 だから争いは絶えない。


 なぜなら人はプラスの感情よりもマイナスの感情のほうが共感しやすい。

 ”誰が好き”よりも”誰が嫌い”の方がより強いパワーが集まる。


 ”人類の発展”とは即ち、他者に対するマイナス感情をより攻撃的に共有できる集団が、生存競争の中で生き残ることによってなされていたのだから。


 地球人が宇宙的に忌み嫌われる種族と思われても仕方がないことである。

 だから神という制御装置や法律という安全装置が不可欠なのだ。


 言い換えれば、人は自分の中にある悪を、他人に指摘されることを嫌って、その代役として『神』という存在を作りだし、他人の悪を明らかにするために『法律』を作ったということになる。


 だからなのだろう。

 過ちを犯した人類はいつか神に滅ぼされるという妄想を抱くようになり、神々の伝説には破壊と再生が付きまとう。神を持たぬ者もまた、宇宙から超科学を有した地球外生命体が攻めてくると妄想するのである。


 しかしそれは現実逃避であって、論理的な想像に従えば、最後に勝ち残った集団―――すなわち他者に対するマイナス感情を最大限に利用した攻撃的集団は、攻撃する相手を失い、いつか自らの手で滅ぶのだろうことを直感していることを示しているのだ。


 人類の存在が破滅に向かう悪であるという現実感に耐えられないからこそ、神の審判や宇宙人の侵略に置き換えるのである。


 しかし私は思う。

 そこにこそ人類の生き残る希望があるのだと。

 人は想像することで未来の危機を回避することができる生き物なのだ。

 これこそ「神が与えてくれた」安全装置なのだから、大いに妄想するべきなのだ。


 私は人類に問う。


 さぁ、想像してごらん

 火を噴きあげる山を

 大きく揺れる大地を

 しかし、人はいつしかそんなことを忘れて山の周りに家を建てた


 さぁ、想像してごらん

 たかく押し寄せる波を

 昼夜振り続ける雨を

 しかし、人はいつしかそんなことを忘れて水辺に町を作った


 さぁ、想像してごらん

 春に咲く花を

 秋に実をつける木々を

 しかし、人はいつしかそんなことを忘れて山を切り開き、生き物を追いやった


 さぁ、想像してごらん

 一瞬のうちに町を燃やし尽くす大量破壊兵器を

 しかし、人はいつしかそんなことを忘れた地下深くで実験を繰り返した


 さあ、想像してご覧

 僕らはずっと誰かに監視されている

 僕らはずっと何かを試されている

 しかし、僕らは欺き、覆い隠し、目を盗み、白を切る


 さあ、想像してご覧

 明るい未来を

 夢と希望を

 栄光と繁栄を

 約束された場所を

 愛に満ち溢れた世界を

 平和な公園の風景を

 新聞の見出しを

 ラジオから流れる陽気な音楽を

 スクリーンに映し出される喜劇を

 導いてくれるリーダーを

 正義を守る軍隊を


 神の審判が下ろうとも、宇宙人が攻めて来ようとも、きっと生き残れるだろう。

 想像することを止めなければ。


 それが唯一の安全装置なのだから。

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