第11話 独りぼっちの兵隊さん

一人ぼっちの兵隊さんが言いました

「人殺しはよくない」と

すると彼に息子の右腕を手投げ弾で吹き飛ばされた母親がいいました

「じゃあ、人の手足を吹き飛ばすのはかまわないのか」と

それはおかしい、間違っているとみんな口々に一人ぼっちの兵隊さんに言いました

「でも彼は右手にマシンガンを持っていたので、仕方がなく反撃したんだ。やらなければこちらが殺されていた」と兵隊さんは言いました

「じゃあ、お前の仕掛けた地雷を踏んで、両足を失くした息子はどうなんだい」と

別の母親が言いました

それはおかしい、間違っているとみんな口々に一人ぼっちの兵隊さんに言いました

「でも彼は鉄条網をかいくぐって、僕の背後から襲いかかろうとしていたんだ。近づかれたらこちらが殺されていた」と兵隊さんは言いました

「そしてお前は私の息子の左目にライフルをぶち込んで頭を吹き飛ばしたんだ。あの子が何をしたというんだ」

息子の写真を胸に抱きしめて傷心の父親が訴えました

それはおかしい、間違っているとみんな口々に一人ぼっちの兵隊さんに石を投げつけました

「息子さんは通信機でこちらの位置を見方に知らせようとしていました。その連絡があったら、僕は大砲によって吹き飛ばされていたでしょう」と兵隊さんは言いました

「だけどあんたは生きている。私の大事なあの人は戦車の中で丸焦げになって死んだのよ」

恋人を失くした少女が涙ながらに訴えました

それはおかしい、間違っているとみんな口々に一人ぼっちの兵隊さんに罵声を浴びせました

「僕にとって戦車は戦車、戦闘機は戦闘機でしかない。誰が載っているかなんてわかりもしないし、知りたくもない」と兵隊さんは言いました

「お前さえいなければ、こんなことにはならなかったんだ」と名もない声が上がりました。

そうだ、そうだと大勢の人が兵隊さんに詰め寄りました

「僕は生き残った最後のひとり。守るべき人も、守るべき家も、守るべき故郷も、守るべき国も僕にはなくなってしまった。僕は僕の命を守る以外に他にない。僕は誰も殺したくない。ただ、守りたいだけなんだ」


でも兵隊さんは一人ぼっちだったので誰も助けてはくれませんでした

仕方がない

兵隊さんは諦めました

人を殺さないことを諦めました

兵隊さんは強かったので、誰も彼を傷つけることはできませんでした

兵隊さんは強かったので、誰も彼から逃れることはできませんでした

やがて殺戮はあなたの死によって終えるでしょう

一人ぼっちの兵隊さんは、もう誰も殺さずに済むのでしょう

彼はついに一人ぼっちの世界を守りました

やがて兵隊さんは眠るのでしょう

安らかな気持ちで眠るのでしょう

誰も殺さずに済む世界で

一人ぼっちの世界で

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