~信じて頼る~・4

 東大陸にぽつりとある、閑寂の村カレンズ。

 結界のないこの小さな村にフレス率いる騎士団の小隊が辿り着いた時、奇しくも魔物が侵入するところだった。


「魔物がっ……うわあああ!」

「た、助けてくれえぇぇ!」


 逃げようにも、村の外は更に危険で。

 行き場を失いパニックに陥る村人達を助けようと、騎士達が剣を手に方々に散っていく。


(まだ犠牲者はいない、か? 不幸中の幸いというべきか……)


 フレスが辺りを見回していると、片隅で縮こまって震える男が視界に認められた。


「大丈夫ですか!? 今助けに……」

「今助かったってみんな死ぬんだろ!」


 男が叫んだ瞬間にフレスは悪寒と重圧を感じた。


 強い負の感情……よく見れば彼だけでなく、この村全体に渦巻いているそれに、もしかするとフレスだけが気付いているのかもしれない。


(もしかして、この腕輪の力……?)


 何にせよ、この村から噴き出るそれを止めねば、この男の言葉通りの結末を招いてしまう。

 隕石を呼び寄せる術式の糧は、人々の負の感情なのだから。


 だが、気を取り直そうとしたフレスの耳に飛び込んできた言葉は、


「もうおしまいだ……この村に聖依獣が来た時から、滅びは決まっていたんだ……やっぱり、やっぱりヤツは、不幸を招く疫病神なんだッ!」

「――――!」


 聖依獣を間近で見てきた、そして触れ合ってきたフレスの心に火を点けるには、充分過ぎた。


「貴方に、聖依獣かれらの何がわかるんですか」

「な……?」


 ここカレンズが聖依獣を厭う村だということは知っていたが、いくらなんでも根拠も何もない。

 青年騎士の口から出た声は、低く震えていた。


「彼等は水面下でずっとこの世界を護ってきた! なのに、疫病神だなんて……!」

「お前、何言って……助けてくれるんじゃないのかよ!?」


 言い争いを隙と見た魔物の一匹が向かってくるが、フレスはすぐさま振り返ってそれを斬りつけた。


(そうだ、怒りを向けるべくは彼じゃない。民を守るため、彼女と生きる未来のため、今は……)


 浄化の力を精霊から借りられる腕輪を、希望を託された騎士として。


「……今はこの魔物達を退けます。王都騎士団の名において」


 ですが、と続けながら、男を庇うように進み出ると剣を掲げる。


「降りかかる災いを、よく知りもしない何かのせいにしないでください」

「っ……!」


 真摯な騎士の訴えに、男からの反論はなかった。

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