~信じて頼る~・3

「おい、大丈夫か?」

「かたじけない」


 体勢を崩しかけていたカッセに手を差し伸べ、立ち上がらせるとデューは自分そっくりに化けた……今となっては本性をあらわし、その化けの皮も形を真似ただけとなった魔物を見据えた。


「……あんなのがオレの偽者、ね。化けるの下手だな。お前も気付いてたんだろ?」

「ヤツの発言が時折不自然だったからな。遠くでデュー殿の声が聴こえた時、完全に確信した」


 聖依獣は五感に優れており、カッセは特に聴覚が鋭い。

 偽者とやりとりしながら離れた場所にいる本物のデューの気配を察知したのだろう。


「だから“合図”を送ったと。お陰で探す手間が省けたぜ」

「合図……?」


 魔物が怪訝そうに眉をひそめる。

 やがて思い当たると、目を大きく見開いた。


「あの時、壁に走らせた雷かッ!」


 カッセが脅しに見せかけて放った雷は、デューに向けて自分の居場所を知らせるものだったのだ。

 その時には魔物の正体にも気付いていた、ということは……


「じゃああのふざけた質問も最初から……なめやがって……」

「おいおい、オレの姿であんまそういう面すんなよ」

「うるさい! こうなったら二人纏めてッ……!」


 激昂する偽者に呼応するかのようにわらわらと集まってくる魔物。

「だから小者臭えって」とデューが呆れて溜め息をついた。


「この数相手にたった二人で、どこまでやれるかな?」

『どんどんボロが出てきましたね……こんな小者にどうこうできると思われては癪です。おやりなさい、デュー』

「わかってるって、水辺の乙女」


 手にした大剣に蒼白い輝きを宿らせ、魔物の群れに突っ込むデュー。

 カッセは狭い通路の壁を蹴って飛び回り、高所から飛び道具を投げつけて援護する。


「このぐらい、今のオレ達には!」

「障害物にもならんでござるよ!」


 その言葉通りみるみる魔物の数を減らした二人は大将の眼前まで迫ると、デューは正面から、カッセは背後から同時に武器を突きつけた。


「終わりだ、偽者」

「役者不足はここで退場願おう」


 二対の目がすうっと細められると、それぞれの武器が閃いた。


「ぎゃあッ!」


 浄化の力を帯びた刃を前後から受けた魔物の体がみるみる崩れていく。


「くそッ……こんなはずじゃ、こんなッ……アアアアアッ!」

「断末魔まで三下かよ。オレになりきるなら、もっとうまく化けるんだな」


 デューが剣を降ろすと、偽者は跡形もなく消滅した。

 周囲に魔物の気配もなく、今度こそ二人は安堵に目を伏せた。


「さて、と。カッセ、ひとつ聞きたいことがあるんだが」

「なんでござろう?」

「王都の宿屋の女主人がどうとか言ってたろ? マンジュの情報網でスリーサイズまで知ってるとか……」


 その頃には会話が聞き取れる位置まで来ていたらしいデューは、カッセにずいっと迫った。


「ああ、あれはハッタリでござる。答えられない質問をすれば、奴も動揺するだろうと思って……」

「なんだ、知らねーのか」

「って、まさかデュー殿……!」

「確かに数値なんかじゃ測れないけど、せっかくだから聞いておこうと思って?」


 絶句するカッセにさらに、


「ま、だいたいこの辺かなーって目測でわからなくも……」

「ふ、婦女子をそんな目で……最っ低でござる!」


 そう続けて大ヒンシュクを買うデューだが、お互いに偽者にはこんなことは言えないだろうと確認もできた訳で。


「ははは、んじゃ他のみんなを探すか」

「……ふふ、そうでござるな」


 二人の表情に、疑いや不安などというものは見えなかった。

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