~信じて頼る~・2

 敵の罠によって離れ離れにされて不安なところで、最初に会った仲間。

 それが本当に、これまで共に旅してきた者なのか、カッセは警戒を緩めず相手を観察した。


「おいおい、そんなに見つめんなよ」


 こういう軽口が叩けるのはいかにもデューらしいが、誰かの記憶から作り出した偽者か、本人が魔物に取り憑かれている可能性だってある。

 いきなり疑ってかかった質問をする訳にもいかないか、と考え込むカッセの尻尾がゆらり動いた。


「……どこも怪我はしていないのでござるか?」

「あ? ああ、心配してくれてんのか。わかりにくいヤツだなー」


 まじまじと見ていたのはそういう意味かと納得したらしいデューが視線を斜め上にそらし、指先で頬を掻く。


「えーと……気付いたら何もない部屋にひとり倒れてた。お前と同じだよ」


 ぴくっと頭巾の下の猫耳が動く。


「……そんな右も左もわからない状況で、急に現れた拙者を偽者とは疑わないのでござるか?」

「なんだよそれ、つまりオレも疑われてるのか?」

「誰かさんと違って用心深いからな」


 藍鉄と赤銅が見合って、探りを入れる。

 だが緊張は目を伏せ、ふっと笑みをこぼしたカッセから解かれた。


「だが本物のデュー殿なら、これから拙者が質問することも難なく答えられるであろう」

「質問?」

「答えられぬ場合は、容赦なく……」


 言いながら武器を持たない方の手で蒼い雷を生み出すと、通路の壁に走らせる。

 光はデューを避けてすれ違い、意思をもつような動きで駆け抜け、やがて消えていった。


「えっ……容赦なさすぎじゃね?」


 稲妻の動きを追って振り向いたデューが思わず苦笑いをする。


「状況が状況だ。質問に答えるでござるよ」

「わ、わかったよ……なんでも来い!」


 少年剣士は表情を引き締めると、次いでされるであろう質問に備える。


 そして……


「王都の宿屋の女主人、彼女の年齢とスリーサイズは?」


 一瞬、場の空気が固まった。


「…………スリー……えっ?」

「障気事件の後あの宿屋でしばらく世話になっていた上、色好みのデュー殿なら楽勝で答えられるはずでござる!」


 予想外の質問に戸惑うデューに、


「ちなみに拙者は答えを知っているでござるよ。マンジュの情報網を甘く見ないで貰おう」


 などと付け足して、逃げ道を封じるカッセ。


 が、


「答えられぬなら……」

「ぐっ……くそ、こんなのやってられるかァ!」


 形相を一変させたデューの足元から影の触手がいくつも現れる。


「こんなチビ、一捻りにやっちまえば同じだよなァ?」

「――ッ!」


 いつかのマーブラム城でのことがよぎったカッセの反応が僅かに遅れ、退き損ねた片足が絡め取られかけたその時……


「わからないなら教えてやるよ、偽者」


 デューの背後から、もう一人の“デュー”が現れる。


 瞬間、カッセは確信した。


「“いい女にそんな数字は意味がない”……それが、オレの……“本物”の答えだ」

「このキザな台詞……今度は間違いないでござるな」


 一気にカッセの傍まで駆けると襲い来る触手を大剣で切り裂いた彼こそが、紛れもない本物だと。

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