~暗雲~・3
ランシッド達に気を利かせて船室をあとにしたデュー達は、ブラックカーラント号からアラムンドの地上を見下ろした。
災厄の元凶を倒しても、この地を蝕む障気や牙は消えず、陰鬱とした空気を漂わせその存在を主張している。
「あいつを倒したからって、はい終わりって訳にはいかないんですね……」
そんな簡単な話じゃないか、とリュナンが溜め息をこぼした。
「そうだな。たとえすぐさま障気が消えたとしても、このアラムンドが元の状態に戻るにはそれなりに時間がかかるだろう」
「大地が虫食い状態じゃからのう」
遥か昔強行された兵器開発、そしてマナを喰らう“総てに餓えし者”やその眷属によって、アラムンドの大地を巡っていたマナはすっかり枯渇してしまっている。
もはや自然に回復できる度合いではなくなったそれが、豊かだった頃の状態に戻るのは容易ではない。
破壊するのは簡単なのにな、とオグマが目を伏せた。
と、彼の上着のポケットから、通信機の呼び出し音が鳴る。
「っと、」
《ああよかった無事で! 今どこにいるんだい?》
若干乗り出し気味のような、心なしか焦りを感じるザッハの声に、デュー達は顔を見合わせた。
「アラムンドからそちらに戻るところだが……」
「おじうえ、おじうえ! わしらついに“総てに餓えし者”を倒したんじゃぞ!」
可愛い姪が伝えた吉報も、しかしザッハを喜ばせることはできず、
《こっちは大変なんだ! とにかく急いで王都に戻ってきてくれ!》
ただならぬ様子を感じ取ったデュー達の表情が一転、険しくなる。
「何かあったのですか、ザッハ様?」
トランシュがそう尋ねると、一拍おいてから返事がきた。
《ああ。今確かに“総てに餓えし者”を倒したと聞いたけど……》
一行の無事を慌てて確認してきたこと、そしてこの口振り。
いち早く嫌な予感が脳裏をよぎったのは、スタードだった。
“総てに餓えし者”以外に脅威となり得るものといえば……
「そういえばザッハ様に取り憑いていた魔物が行方知れずのまま……」
まだ浄化の術を知らなかった時に一度倒されたかと思われたが、ザッハに取り憑き、力と同時に知識を得て言葉を発するまでになった魔物。
「まさか、まだ終わっていない……?」
《残念だけど、オグマ……そのまさか、みたいだよ》
その瞬間、空気がビシッと嫌な音を立てる。
『おい、早くアラカルティアに戻るぞ!』
精霊王が声をあげた直後、真下の大地に亀裂が走った。
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