~暗雲~・4

 ランシッドの空間転移でアラカルティアに出たブラックカーラントを追い掛けるようにして、海中から黒い光が柱となって立ち上る。


 柱の中のそこかしこに巻き上げられた巨大な土や岩の塊が浮かんでいて、よく見れば障気の結晶である牙を生やしているものもあるそれは、恐らくこちらの世界に戻ってくる直前に崩壊が始まっていたアラムンドの大地の欠片ではないかと推測される。


『なんてこと……』


 水辺の乙女が呻くように呟いた。

 彼女にとって身近なものである海の、マナスポットが通り道となって穢れをこちらに運んでいるのだ。


『アラムンドが、こんな形でこちらの世界に現れるなんて……』

「見てください! 大地の欠片が集まっていきます!」


 フィノが指し示した先では言葉の通り、千々に砕けた大地が生きているかのように結集を始めていた。


 つい先刻まで青々としていたのであろう空は黒雲に覆われ、陽光を遮ってしまっている。


「何が起こっているんだよ……?」

「わからぬ……いや、」


 わかりたくない。


 シュクルは本能的にそう口にした。


 みるみる形作られる、元の大陸ではない天まで届きそうな細長い建造物はところどころにアラムンドの名残を見せながら、もはや別の何かになろうとしている。


「……どうやらまだ休ませてはくれないようだな」

『なかなか断ち切らせてくれないなあ、腐れ縁』

「二人とも、いつの間に……」


 騒ぎに気付いたらしい二人が船室から顔を出し、デュー達同様に空を見上げていた。


 現実とは思えない、そして世界の終末とも繋がりそうな光景を前に一同言葉をなくしていたが、


《……空の異変はこっちでも確認したよ。でも、他にもいろいろあるから、ひとまずこっちに戻ってきて欲しい》


 再度通信機から聴こえた静かな声に、現実に引き戻される。


「……わかった。パータ、進路を王都に向けてくれ」

「あ……は、はい」


 ブラックカーラント号が風を切りながらゆっくりと旋回する中、


「世界は……あたし達は、どうなっちゃうの……?」


 キャティの微かな、不安げな声を優れた聴覚で唯一拾っていたカッセも、赤銅の目を伏せて黙りこむのであった。

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