~暗雲~・2
ブラックカーラント号に着いたデュー達は、簡単な自己紹介と共にこれまでの経緯をダクワーズに説明した。
ずっと眠っていた間に世界はわかれアラカルティアと名を変え、それからさらに長い長い時間が経っていたこと。
ランシッドも人としての生を全うして、精霊に生まれ変わっていたこと。
……そして、ロゼットの結界に経年から綻びが生じ“総てに餓えし者”の復活が進んでいたこと。
他にもまだいろいろあるのだが、とりあえず今は最低限の話だけ。
「……だいたいの事情はわかった。理解が追い付くかはまた別の話だが」
船室でこれらを聞かされたダクワーズは、頭を押さえて眉間にシワを寄せた。
『いきなり時代が飛んだからね。ついて来られないのも無理はないよ……それに、疲れているだろう?』
先程のことがあってか、ちゃっかり彼女の隣をキープしているランシッドが 心配そうに覗きこむ。
「いえ、この程度……」
『いいから休んで。これからお前はこの時代、この世界で生きていくんだから……今度こそ、自分を大事にして欲しいんだ』
そっ、と実体化した精霊の手が触れる感触にダクワーズははっと我にかえる。
彼女にとっては瞬く間のことだったが、もう己が知る世界は、仲間は、どこにもないのだ。
「……そう、ですね。グランマニエは、騎士団の皆は……弟は……」
「ダクワーズさん……」
再びランシッドや精霊王、そして束の間とはいえロゼットとも逢えたものの、世界そのものが変わってしまったここでグランマニエに帰っても彼女を知る者はいない。
と、そこでランシッドは静かに目を閉じて語りだした。
『…………副官のダマンドは騎士団長を継いで立派にやった。未熟だけど一生懸命だったドーナは魔術の腕を磨いて、新しい術を編み出すまでになった』
「ランシッド様……?」
『そして弟のブッセはお前がいなくなった後フェンデ家の主に。最初は頼りなかったが、周りに支えられながら誰もが認める当主になった…………俺、めいっぱい長生きしたからさ、グランマニエの皆があれからどうなったか、お前の知りたいだろうことはみんな見て、しっかり心に刻んできたよ』
「――っ!」
それは皆、ダクワーズが気にかけていた者達の名で。
息を詰まらせ口許を押さえる彼女に、にっこり笑いかけるランシッド。
だが……
『別に俺の力で過去の映像を見せてやっても、』
相変わらず空気を読まずそんなことを言い出す万物の王に、
「デリカシーなし王じゃのう。今はいいんじゃよ」
「ついでに言うなら僕達はもう退散して、ダクワーズさんを休ませるべきなんだよ」
「大事な話があるから、ね」
そう、次々とツッコミが入る。
『そういうこと。ごめんね、精霊王』
『ったく、途端に嬉しそうな顔になりおって……まあよい』
一斉に言われてやや不機嫌そうに拗ねる万物の王は、現在の契約者に宥められながら他の仲間と共に退出したのだった。
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