~おわりとはじまり~・4

――牙の森の中心部からやや離れた場所に、小さな小さな影の欠片が蠢いていた。


《う……がはっ……》


 ランシッドの攻撃で体を四散させた“総てに餓えし者”はそのほとんどを失い消滅したかと思われたが、辛うじて命を繋いで逃げ延びていたのだ。


《このまま、消えて……たまる、か……》

「おやおや、満身創痍じゃないですか」


 魔物を覗き込むのは、また別の魔物。

 今まで行方が知れなかった、ザッハに取り憑いていたものだった。


《我が、眷属、か……だが、単独で言葉を話すようなものがいるとは》

「アナタと同じですよ。人間の知識と記憶を糧に学び、さまざまなものを得た……たぶん、今のアナタよりもね」

《なに……?》


 その姿は、パルフェリアに恐怖を振り撒いていた頃の“総てに餓えし者”のように、実体をもった影法師となっていて……

 小さな欠片となってしまった身では、どちらが主でどちらが眷属かわからない、そんな状況だった。


「さすがはオリジナル。普通ならとっくに浄化され消えてしまってもおかしくないのに、逃げ延びて耐えていらっしゃる」

《当たり、前だ……幸いここは、回復するにはもってこいの環境が作り上げられている……“食事”をすれば、容易く……》


 しかし言葉はそこで途切れた。


「回復のために我々を喰らうつもりだったのでしょうが……喰われて糧になるのは、アナタですよ」


 影法師が欠片を取り込み、一瞬にして吸収してしまったのだ。


 そしてしばし咀嚼しているかのようにじっと動かないでいたが、やがて両の目をカッと見開く。


《フ……クク、キヒャハハハッ……!》


 狂ったように笑い出す声は、二つ重なっていたが、


《これで私が“オリジナル”だ!》


 その意識は、眷属のものであった……――

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