~合流、そして~・2
遠くにいながらにして脳裏に蘇る、あのふさふさの動く巨大毛玉。
驚くデュー達にムースの声が語りかける。
『まずは各地での楔の打ち込み、ごくろーじゃった。これで消えかけていたカミベルの結界のマナを使い、世界中に簡易的な結界が張られたことじゃろ』
「わかるのか?」
『まー聖地から見えるからのー、それにそーじゃなきゃとっくにもっと大きな異変が現れとるわい……ただ、それでも全く防ぎきれた訳じゃあない。魔物に憑かれた人間が他にもいたみたいにのー』
ゴーレム使いの少年、ワッフルのことが思い出されてフィノの胸に外的なものからではない痛みが走る。
「……浄化は、ミレニアちゃんの聖依術でしか出来ないのでしょうか?」
戦って打ち負かすことはできても浄化の術がないフィノには彼を負の呪縛から救うことができず、逃げていく背を歯痒い思いで見送るだけだった。
「そのことなんだがフィノ……実は、」
『できるぞー』
オグマの声を遮って、むーちゃん通信が割り込んできた。
『北大陸でオグマが大精霊と契約したじゃろ。普通の術では聖依術の浄化には届かんが、大精霊の力を借りれば他の者にも浄化ができるんじゃ。契約者が増えれば、モラセス王の時のようにしぶとかった魔物も力をあわせてイチコロじゃよ☆』
そこでじゃ、と続くムースの言葉に注目が集まる。
『これから先は大精霊の力が必要になるじゃろーから、おぬしらには彼等との契約に行って貰いたいんじゃ。気難しい連中じゃが、おぬしらならもしかすると耳を貸してくれるかもしれん』
氷の大精霊が密かに、気難しいとは心外だなと呟き、唯一それを聞いたオグマが苦笑する。
「むーちゃんむーちゃん、質問なのじゃ」
『ほいほい、なんじゃ?』
元気に挙手した少女に聖依獣の長老が応える。
「契約に行くって言っとるが、精霊はどこにでもいるんじゃないのかの?」
『あー、小さな精霊達はそーじゃが大精霊は違う。アラザン霊峰は氷のマナを強く感じたじゃろ?』
今回北大陸に行かなかったメンバーも前に霊峰を訪れた時にオグマが謎の声を聴いて動いていたことも、氷の術が一時的に威力を高めていたことも記憶に新しかった。
ムースの口振りだと他にもあんな場所があるのか、とデューは世界の広さを思い知る。
『こっから近いのは霧の山脈アトミゼの内部にある洞穴なんじゃが、その前に一度フォンダンシティに寄って貰いたいんじゃ』
「アトミゼに……意外と身近にあったのだな」
シュクルの呟きに、まさか住んでいる小屋のすぐ近くに大精霊がいたとは思わなかったオグマも頷いた。
「フォンダンシティに何かあるのか?」
『あそこは職人の街じゃろ。ちと作って貰いたいものがあるんじゃ……カミベルのために』
なに、と目を細めた王に、長老は続ける。
『わしはあの時咄嗟にカミベルをとりこんだが、あくまで一時的な処置に過ぎん。いつまでもこのままわしの中では可哀想じゃし、容れ物が必要なんじゃよ』
「それならうってつけの名工がいる。奴に頼もう」
そして俺も行く、などと言いかけた王にスタードが視線で訴えて制止した。
「城下町に出掛けるのとは訳が違うんですよ」なんて叱られ、さらに拗ねる王。
「フォンダンシティでガトー殿に依頼をして、それからアトミゼに向かえばいいだろう」
「契約に行ってる間に製作が進むものね」
行き先も決まったところで、互いに見合わせて強く頷く一行。
そこに玉座から大きな咳払いが聞こえた。
「あー……部屋は用意しておくから今日は城に泊まっていけ。それと、ミレニア」
「なんじゃ?」
「…………いや、気を付けていけ」
「ん、じーさまも元気でな!」
かえってきたひだまりの笑顔に、祖父は眩しそうに目を細める。
やっぱりついて行きたいな、と思うのは、若かりし頃から変わらない気質ゆえか。
自分の代わりに送り出した元騎士団長にこれ以上睨まれないためにも、モラセスはそっと思うだけに留めるのであった。
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