~王城への帰還~・4

 かつて、ミレニア達がこの地下の最深部を訪れた時には障気の元凶となった牙が突き出ていた。

 今思えばそれはアラムンド側からマナスポットを通じて生えたものだったのだろうか、と輝きを取り戻したマナの源泉を見つめてシュクルが目を細める。


「今回は何も生えてませんね、障気も出てないし」

「あんな事が二度あってたまるか。ミレニア、早く済ませて帰るぞ」


 牙によって破壊された祭壇も修復され、障気も消えた現在ではあの時のおぞましい空気は感じない。

 とはいえやはり長居はしたくないのであろう小さな聖依獣に急かされて頷くと、ミレニアが一歩前に出た。

 彼女が意識を集中させ詠唱を始める間、リュナンは少し離れて見守っていたスタードをちらりと窺う。


「……家族、かあ」


 ぽろりと出た言葉に、スタードは穏やかな眼差しを返した。


「ああ、先程は情けないところを見られてしまったな」

「いやぁ、いくつになってもお母さんってああいうもんなのかなって」

「はは……そうだな」


 気恥ずかしそうに笑うスタードが心なしか眩しく見えた気がして、束の間リュナンの表情が曇る。


「……リュナン?」

「でーきたーのじゃ!」


 どうしたんだと問いかけようとしたスタードの声を遮って、ミレニアが叫んだ。


「チビちゃん、それじゃあ……!」

「ちゃんとできたぞ、楔の術!」


 よく見ると彼女の周囲には術に使用したのであろうマナの残滓が漂っている。

 ただ見た目に派手さがないためいまひとつ実感に欠けるが、術者本人が言うからにはきっと成功したのだろう。


「っていうか終わったの気付かなかった……なーんか、もっとド派手な感じを想像してたんですけど……」

「術にも地味とか派手とかいろいろあるからのう……わしゃ疲れた。せっかくじゃから客室で休んでから帰るのじゃー」


 拍子抜けしたリュナンをすり抜けて、ミレニアは元来た道をとてとてと歩き出す。

 シュクルもそれを追って大きな尻尾を上下させながら駆け出し、残る二人も続いた。


「嬢ちゃんと旦那はうまくやっていますかね?」

「あの二人なら心配はいらぬであろう」


 一仕事終えた安堵からか、帰りは先程よりも口数が増える。

 王都の地下空洞に、彼等の声と足音が賑やかに響くのであった。

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