~王城への帰還~・3

 玉座に戻った王は、ミレニアを呼び止めると目の前まで来るよう促し、首飾りを手渡した。


「これは……」

「王家の首飾りだ。地下のマナスポットへ続く入り口を開ける鍵になる」


 少女のてのひらに落ちた金色の鎖が小さく音を立てる。

 石を飾る細工は美しくも控えめで、気品を感じさせる装飾だ。

 しかしミレニア達には、この首飾りに既視感があった。


「あれ、これお兄様も持ってましたよね?」


 リュナンの言う“お兄様”が誰かを察した王は、ピクリと片眉を上げる。


「……トランシュか。そうか、もうひとつは奴が持っていたか」

「おじいさま、兄様とはいったい何が……」

「話せば長くなるだろうが今は一刻を争う。機が来れば話そう、行け」


 と、行きかけたところで「ああそうだ」と背中からの声で再度動きを止めて振り向くミレニア。


「今度はなんじゃ?」

「その……ルセットは、元気にしているのか?」


 城を出ていったかつての妻の名を口にしたモラセスは珍しく気まずそうで、孫娘がきょとんと目を瞬かせた。


「おばあさまは、何年か前に病気で亡くなってしまったのじゃ」

「そうか……」

「おじいさまのことはあのバカ野郎、とは言っとったが恨んどる訳じゃなかったみたいだがのう」


 ミレニアがそう返せば今度はモラセスが虚を突かれた風な顔をして。

 だがそれも一瞬のことで、すぐにその口の端が上がった。


「呼び止めて悪かった。今度こそ行くといい」

「うむ、また来るのじゃ!」


 元気よく手を振って、一礼するスタードとリュナンにくっついて玉座の間をあとにするミレニア。

 そして残されたモラセスの両隣には、フレスとホイップが彼等を見送っていた。


「……長い道程になりそうですね」

「世界を救う旅なんて、やっぱり父上はすごいです!」


 などとそれぞれの想いを呟く二人の間で、


「俺もついて行きたかったな」


 溜め息まじりに王もまた、胸の内を溢すのであった。



――――


 前回……王都の障気騒動で訪れた時のように城の外れの時計塔の地下へ、首飾りで入口の封印を解いて現れた螺旋階段をおりていくと結界の外に出たのか、魔物の群れに出迎えられる。


「話には聞いていたが、本当に魔物が出るとはな」

「飛ばしてゆくぞ、スタード!」


 すぐさま襲い来る魔物を斧槍で薙ぎ払い、後衛への接近を防ぐリュナン。


「教官さんも術がお得意でしたっけ?」

「少しばかりな……こういう戦い方も出来るぞ」


 言いながらスタードは前に踏み出すと素早い剣捌きで魔物に斬りつける。

 よく聞くと斬撃の音に混じって、彼が何やら詠唱しているのが聞こえた。

 すると次第にその周りにマナが集まり、剣が輝きを増していく。


 そして、流れるような連撃の最後に大振りで敵を遠ざけると、


「今だ、貫け!」


 スタードの声を合図に相手に向かって真っ直ぐに伸ばした剣先から走る雷光が、魔物を撃ち抜いた。


「……とまあ、こんなものだ」

「うわ、まじすか……」


 一言で説明するなら剣技と魔術の合わせ技だが、実際に行うにはどちらも高い技量と集中力、マナのコントロール力を必要とする。


(旦那とはちょっと違うけど、この人も器用なんだなぁ……)


 戦闘中だというのにぽかんと口を開けた間の抜けた顔でスタードの動きに気をとられていると、後方が炎で紅く染まってリュナンの背中を照らした。


「見せ場があるのはスタードだけじゃないのじゃ!」


 高く掲げた両手に炎を集めたミレニアが魔物達を見据えると、どことなく祖父を彷彿とさせる勝ち気な笑みを見せた。


「集え深紅! なんでもかんでも焼き尽くせ!」


 辺り一面に炸裂した巨大な火の玉が魔物の群れを飲み込み、一掃してしまう。

 彼女らしい豪快な術に、しばらくリュナンとシュクルの開いた口が塞がらなかったとか。

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