~王城への帰還~・2
「あ……」
玉座の間に辿り着き、扉を開けた瞬間に驚きに声をあげたのはスタードだった。
そこには先客の姿があった。
オグマと同じくらいの年の頃だろうか、柔らかそうな短い金の髪にやや大きな目のせいか幼く頼りなく見える顔立ちの青年と、傍らにいたのは……
「フレス……母、上……」
母上と呼ばれた女性が鋭い眼光を元騎士団長に向けた。
老いて杖を手にしているがつかつかと歩み寄ると細長いそれを剣を扱うように持ち替え、息子の鳩尾にひと突きする。
「ぐっ!?」
避ける間もなく一撃を受けたスタードがその場にうずくまり悶絶した。
「な、なんつー動きですか、あのお婆さん……」
「スタードの母、ホイップは若い頃バリバリの騎士だったからな。夫のブオルと肩を並べて、通り名までつくほどだった」
するとホイップは今度はモラセスを睨み、ダン、と音を立てて床に杖をついた。
「これは一体どういうことでしょうか、モラセス王……何故貴方が城をあけていて、それが秘密になっていたのです? それにスタードも、怪我をしていた」
「わかるのかの?」
「僅かばかりだが動きにキレがなかったからな。治りかけ、といったところか」
尋ねるミレニアにしれっとそんなことを返すホイップだが、その治りかけを容赦なく突いたのかとリュナンが密かにツッコミを飲み込んだ。
「ふ、フレス……お前はともかく、どうして母上がここにいる……?」
「先に質問しているのは私ですよ、スタード……まあいいでしょう。フレスが貴方が帰って来そうな予感がすると言うものだから、私も久し振りに城へ行ってみようと思ったのですよ……さて」
今度はそちらが説明する番だ、とばかりに視線を投げ掛けるホイップに、モラセスが歩み出た。
「モラセス王……」
「俺が説明する。この女には下手な隠し事はできんだろうしな」
王はそう言うと、自分が魔物に取り憑かれ暴走し城を飛び出したこと、追ってきたスタードを傷つけてしまったこと、そして何もかも終わったと思ったところで今度は結界が破壊されて世界に危機が迫っていることをホイップ達に語る。
途中彼女が杖を握る手に力をこめ、王を見る目に殺気を宿したのが誰の目からもわかった。
「……貴方が、スタードを殺しかけたというのですか」
「弁解はすまい」
「ブオルも、リィムも、貴方の下にいて死んだ……それは騎士の職務を全うした結果だからと、けれどもスタードは、スタードまで奪われたら私は……」
「母上、違う! 王は私を殺すつもりなど……」
「お黙りなさい!」
止めに入ろうとした息子を一喝すると、ホイップは彼にしがみついた。
「何も言わず出ていって死にかけて……お前までこの老人を置いて逝くな、スタード」
「母上……」
呟かれた言葉は厳しい元騎士の女性としてではなく、息子を心配する母として。
「申し訳ありません」
「すまなかった、ホイップ」
「貴方の謝罪は聞きたくありません、モラセス王」
やはり王には良くない感情を抱いているのかぴしりと言い放つと、ホイップの目が再び騎士としてのそれに戻る。
「直接的でないにしろ、この危機的状況を招いた者として、王として……行動で示して貰わねば」
「……そうだな。ついてはそこにいる者達や、お前の可愛い息子の力を借りるぞ」
「それはもう、存分に」
互いに不敵な笑みを浮かべる二人に、勝手に進む話。
その間でスタードが、フレスにぽんと肩を叩かれていた。
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