~王城への帰還~・1
「どうしてこうなった……」
発色の良い深紅の絨毯が敷かれたマーブラム城の廊下を、疲弊した顔の青年が背筋を丸めて歩く。
道行く騎士がこちらに気付くなり慌てて挨拶をしたり身を正す光景ももはや何度目であろうか。
それは青年……王城に縁などあるようには見えない男、リュナンに向けてではなく、その後ろに引き連れた者に対してのもので。
「帰って来ましたね、モラセス王」
「そうだな……む、どうしたリュナンとやら。疲れたなら地下へ向かうのは一度客室で休息をとってからでも良いぞ」
「リュナン、ひっどい顔なのじゃ」
若い騎士達を導き育て上げた元騎士団長で現在は教官となっているスタードと、中央大陸の王モラセス。
そして公表はされていないが王の孫娘ミレニアと、完全に王都絡みのメンバーが揃った中でリュナンは肩身の狭い思いをしていた。
「うさ公、少年はどうしてこの面子に俺を入れたんだと思う?」
「余に聞くな」
「うさ公冷たーいー!」
隠れ里の聖地に侵入したザッハにより結界が崩壊してしまった現在、こうしている間にも世界の危機は迫っている。
この大地の下に存在するというもうひとつの世界、アラムンドに満ちた障気からアラカルティアを守るため、リュナン達は要のマナスポットのひとつがあるという王都のマーブラム城へやってきたのだが……ついでにモラセス王を城へ送り届けることになった。
だからこの王都に行く面子には、城の勝手をよく知るスタードが加わっているのだ。
(一応少年だって騎士なんだしここの身内みたいなもんでしょ、なんで部外者の俺が……)
(むしろリュナンに押し付けた感があるがな)
(そんなぁー!)
心細さに肩に乗せたシュクルとひそひそそんな会話を繰り広げていれば、背後から三人ぶんの視線が集まってくる。
「なにやっとるんじゃ二人とも、休まないならはよ行くぞー」
「へいへい、わかってますよお姫様ー」
ミレニアの声に振り返ると腕組みをしてこちらを見ていたモラセスと目が合い、威圧感に思わず小さく跳ねた。
「なんだ?」
「あ、いえ、なんでも……さっさと行きましょう、さっさと」
どうやら何もなくてもプレッシャーは標準で発しているらしい王が不思議そうに首を傾げる。
一刻も早く王様と別れなければそろそろ胃が保たない、そう思いながらリュナンは先程より心なしか早足で玉座の間を目指すのだった。
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