~東の地にて~・2
再びデュー達が閑寂の村カレンズを訪れると、心なしかどんよりした空気が晴れているように思えた。
それでもカッセにとってはあまり良い心地はせず、強張った肩をデューがぽんと叩き、大丈夫だと目配せをした。
「わりぃなカッセ。用事だけ手早く済ませるから、我慢してくれ。もし何だったら先に外で待っててくれても、」
「シュクルも耐えたんだ、そうもいかん……兄らしいところを見せなくてはな」
その弟分は今は側にいないんだから無理しなくてもいいのに、と苦笑して自分より少しだけ低い頭巾を撫でる、見た目は子供な騎士。
と、そこに村人の一人がおそるおそる近付き、デュー達の顔を順番に見る。
「い、いつぞやの聖依獣を連れていた連中か……?」
「なんだよ、今は別行動中だけど?」
なんか文句あるか、と視線で牽制するデューは秘かに血の気が多いのかもしれない。
いきなり喧嘩腰じゃダメでしょ、とフィノが溜め息をついた。
「そうか、なら……」
「あっ、あの時のお兄ちゃん達だ!」
男との会話に割り込んできたのは、村で唯一シュクルの味方をしてくれた少女だった。
彼女は何の含みも屈託もない笑顔で駆け寄ると、一緒にいるであろうシュクルを探す。
「あのウサギさんいないの?」
少女の声と表情には明らかに落胆の色が浮かんでいた。
「そっか、みんながいじわるしたから来なくなっちゃったのね!」
「うぐ……だってあの時はてっきりアイツが魔物を呼び寄せたとばっかり……」
少女は幼いゆえの真っ直ぐさで男を責め、頬を膨らませ怒りをあらわにした。
「あのウサギさんはまものをやっつけてくれたの! それに、あの後マナスポットが光ってきれいになったでしょ?」
「マナスポットが?」
フィノが屈んで少女と目線を合わせると、彼女は興奮気味に目を輝かせる。
「あのね、どよーんってしてたマナスポットがね、きらきらーって!」
「聖依術で浄化されて輝きを取り戻したのかしら……」
「良かったじゃねーか、疫病神なんかじゃなくて」
あの時のお返しとばかりにデューが含みたっぷりに言葉を投げつけてやると、男はさらに縮こまる。
「その辺にしておけ、デュー殿……用を済ませたらすぐにセルクル遺跡へ発つのでござろう?」
「わぁーってるよ。シュクルの受けた仕打ちを考えたら、これくらいはしたくなるんだって」
全然足りないけどな、と内心で付け足して。
すると先程まで勢いのなかった男が、こちらの顔色をうかがいながらだが口を開いた。
「……観光か何かは知らんが、セルクル遺跡に向かうのは今はやめた方がいい」
「なんでだよ?」
一応親切のつもりで忠告してくれたのだろうが、こちらとしては世界の存亡がかかっているためそうもいかない。
デュー達は互いに見合わせ、村人の言葉を待った。
「でかい化け物を従わせた気味の悪いガキが住み着いてて暴れてるんだ。あんなのが相手じゃどうしようもない」
「巨大な化け物を従わせた子供……もしかして、あの子?」
フィノの脳裏には、セルクル遺跡で遭遇した少年がよぎっていた。
小柄な身の丈の倍はあろうかという土人形を操り、意のままに戦わせる変わった能力の持ち主だったが、あれからまたあの遺跡に現れて悪さをしているのだろうか。
『このまな板女ーー!』
それと同時に彼をこらしめた後の捨て台詞も蘇り、強烈な殺気を感じ取ったカッセが衣服の下で毛を逆立てる。
「もしまだ反省が足りてないなら……やっぱりおしおきが必要みたいね?」
「ふぃ……フィノ殿?」
うふふふふ、と笑う神子姫の周りから、じりじりと人が離れていった。
本当に一刻も早く食事や準備を済ませて、ついでに遺跡の用も急いで終わらせてしまおう、とデューとカッセは思ったとか。
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