~絶望は突然に~・4
(こんな弱気になっているところを見られたら、うるさいだろうな……情けない)
かつて己が父のように慕っていた騎士団長や、王様相手だろうと無遠慮に態度を変えない鍛冶職人を思い浮かべ、モラセスは笑みをこぼした。
(浄化出来なければ治癒術は効かない。だが取り憑かれている間こいつは宿主の肉体を再生して強化していた……ならば、)
ぐ、と目を閉じ、拳に力をこめる。
「この体は俺のもの……いつまでも居座るなら、その力も俺のものだッ!」
王の周囲に、黒い風が巻き起こる。
たとえるなら逃げ出そうとする相手の尾を無理矢理引っ掴んで寄せるように、消えかけていた魔物の部分を戻す。
そんな滅茶苦茶な王が己の傷をみるみる再生していく光景に、デュー達は絶句した。
「ククッ、抵抗をやめたか……あまり人間を舐めるなよ」
「モ、モラセス王……」
驚きに嬉しさが追いつかず、ぽかんとする忠臣の頭を少年の頃にしてやったように撫でると、モラセスは不敵な微笑みを向けた。
「心配をかけたな、スタード。もう大丈夫だ」
「~っ……お待ちして、おりました」
どうやら一段落したようでほっと一息つくと、カッセが結界のない聖域を見渡した。
モラセスとカミベルの危機は去ったが、アラカルティアにはまさにこれから恐ろしいことが起ころうとしているのだ。
そして、それを知るのはこの場にいる者達だけ。
「世界中を覆うだけの広さの結界が、どれだけの速さで消えているのか想像もつかないが……急がねばならない状況にはかわりなかろう」
「そうだな……何か手だてはあるのか?」
オグマが問いかけると、僅かに俯いた覆面の口元に手が置かれる。
「世界各地に散らばる地点に“楔”を打ち込めば、あるいは……」
「うむ。その場しのぎにしかならんかもじゃが、やらないよりはマシじゃな」
その「やらないよりはマシ」が、世界にとって一筋射し込む希望となり得るのか。
(世界の存亡、か……)
長老の声に注目が集まる中、仮面の騎士はひとり、音もなくこの場を去っていった。
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